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メディアグランプリ

本棚は私の心の中


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:りりこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「君の全てが知りたいから、全部見せて」
私の目をまっすぐ見て手を伸ばす彼を、私は全力で阻止した。
 
彼が手を伸ばした先は、本棚だった。
 
彼には、私の趣味は活字を読むことで、本が大好きだと告げてあった。
私は転勤族の家庭に産まれて、幼いころは転校を繰り返していた。
引っ込み思案で友達がなかなかできなかった私の親友は本だった。
辛いことがあった時は、現実から連れ去ってくれた。
寂しくて仕方がない時は、そばに寄り添ってくれた。
ワクワクしながら時間を忘れて読みふけった本のことは、今でも鮮明に思い出すことができる。
 
私は、本が大好きなはずだった。
 
「どんな本を読んでるの? 僕はあまり本を読まないから、君が読んでいる本を見せて」
彼からそう言われた時は、言葉に詰まった。
「今、本棚を見られたら、本当にまずい。隠してしまいたい本もある……」
私は、「本棚はまた今度ね。他の場所だったら大丈夫だよ」と何とかその場を乗り切った。
 
彼が帰った後、改めて本棚を見回してみた。
・心に思うだけで願いをかなえる系の本……10冊
思うだけでは、現実が何も変わらないことは、今の私が身を持って証明済だ。
思うことと、行動することはセットだと思う。強い思いを原動力とした行動に勝るものは無い。
行動する気力も起きないほど疲れて、目の前の現実に絶望したときもあった。
そんな時にもできることがあると思えるのは、救いだった。
どうしても現実を変えたかったのだ。
彼には、他力本願で夢見がちな女だとは思われたくない。
 
・恋愛・結婚・復縁マニュアル系の本…15冊
絶対に彼には見られるわけにはいかない。特に「復縁」の本は見られたら終わりだ。
今も捨てられないのは、心の奥で今回も振られると思っているからなのか……。
マニュアル本を読みこんでも、結婚も復縁もできていない。
マニュアル本を心の支えにしていた時は、「マニュアル通りにやっていれば、大丈夫でしょ?」と、目の前の彼を見ようとしていなかったと思う。
目の前の彼をしっかり見て、相手の気持ちも考えつつ、自分から相手に気持ちを目の前の相手に自分から心を開いてみたらよかったのではないかと思う。
マニュアル本に頼ってでも、手に入れたい彼がいたということも、私の一部だ。
 
・うつ病を自力で治す系の本…12冊
私は、念願だった企画部への社内異動を叶えた頃、身体と心に異変を感じるようになった。思うように仕事ができず、成果も上げられなかった。そして、そんな自分を責め続けた。
そのうち食欲が落ち、深く眠れず、朝は起き上がれなくなった。
そして「私なんて、生きていても仕方がない」と思った時、生まれて初めて精神科を受診した。
医師から「ああ、鬱症状ですね」と、言われて初めて鬱を意識した。
この状態からどうにかして抜け出したかった。
救いを求めて本を買い漁った。
時間の経過と共に、異動後の仕事にも慣れて、良い意味で開き直れる様になった頃、鬱症状からは抜け出せていた。本に書いてある対処法やアドバイスは、心の支えになった。
 
私はこれらの本を彼の目から隠すべく、大きなスーツケースの中に押し込んだ。
これらの本を支えに色々なことを自分なりに乗り越えたのは確かだったが、読んでいて楽しいと思ったことはなかった。
私がそういう思いで過ごしてきたこともあるということを、今はまだ彼には知られたくなかった。
 
一方、本棚に残した本もある。
 
資格関連の本、大好きな料理家のレシピ付きエッセー、昔の彼からもらった詩集、昔夢中で読んだ小説……。
それらは、私の人生の明るい部分であり、甘酸っぱく楽しい記憶の一部だ。
時を経た今でも、本を読んだ当時のことを鮮やかに思い出せるのだった。
 
スーツケースに隠した本を読んでいた時は、本当に苦しかった。
もっと人生を上手く運びたいと思った時、迷った時、悩んだ時、辛い時、どうにかして現状を変えたいと思った時、いつも心の支えは本だった。
私は、その時の自分に足りないものを本を読むことで埋めようとしていたのだと思う。
そんな時は、大好きなはずの本を読んでも楽しめなかった。
楽しめてはいなかったが、本にも力をもらい、生き返った私もいる。
本を読んで楽しかった時も、楽しくなかった時もある。
本棚の本は、私の心の中そのものだった。
だから、本棚の本を誰かに見られるのは少し恥ずかしい。
誰かに本棚を見られるということを想像するだけで、心を丸裸にされているような気持ちになる。
また、本棚に並べられない様な本を買いたくなる時が来るかもしれない。
そんな時は、彼に素直に話をしてみようと思う。
本を心から楽しめている時は、「私って今、幸せなんだな」と思って、幸せを噛みしめてみようと思う。

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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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