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簡単レシピ


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記事:千葉美紀(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「これ、買っていい?」
小学生の娘が派手なパッケージのお菓子を手にしている。ねるねるねるね、という名前のお菓子で、パッケージの中には2種類の粉が入っている。付属のトレーにその粉を入れて、水を入れて、練る。粉ごとに違った味が楽しめて、混ぜるとまた別の味に変化する。こういった自分で何か手を加えて作るお菓子を、娘は好む。いいよ、と返すと嬉しそうに買い物かごに入れた。
 
「大人になったら何になりたい?」
娘に尋ねると、いつも答えは同じ。
「パティシエ」
甘いお菓子が大好きなので、自分でも作ってみたいと思っているのだ。
 
私は料理が苦手なため、スマホアプリで、レシピを検索する時には、必ずと言っていい程、「簡単」というキーワードを付け加える。普段の食事を作る時にも、いまだに失敗することがあるが、一番苦い思い出は、バレンタインチョコの失敗だ。
 
小学生の頃、チョコレートを初めて手作りした時は、鍋にチョコレートを入れて、直火で溶かした。なめらかさのない、もっさりしたチョコレートができ上がった。そのチョコレートは、当時気になっていた男の子の家のポストに入れた。あれは、あげるべきじゃなかったと、今では反省している。
 
大人になって、久しぶりに手作りした時は、なめらかに口の中でとろけるトリュフを作る予定だった。でき上がったものは、とても固い、石のようなチョコレート。レシピを見ながら作ったはずなのに、どこをどう間違ったら、トリュフチョコが石になってしまうのだろう。愕然としながら、チョコレートは買うものだ、と定義した。二度と作るまい。
 
パティシエ志望の娘の料理歴は、まだ浅い。自分から何か作りたいということはなく、夕食の支度を手伝って野菜を切ったり、フライパンで火を通す時に焦げないように混ぜる、マヨネーズやドレッシングでサラダに味付けるとか、そんな程度だ。お菓子だと、ねるねるねるねだけではなく、ホットケーキミックスを作ったホットケーキくらいなら、作ったことがあった。
 
「チョコレートを作りたい」
世間にバレンタインデーの気配が忍び寄る2月のある日、娘はチョコレートへの挑戦を決めた。禁断の手作りチョコレート。好きな男の子がいるわけではなく、お友達同士でチョコレート交換をしたいそうだ。最近のバレンタイン商戦は、本命・義理にあきたらず、友達同士の友チョコや、自分へのご褒美チョコにまで発展している。
「じゃあさ、買ってこようよ。今は色々なチョコレートがあるんだよ」
「えー。作りたい」
私の提案はあっさりと却下され、娘のチョコレートを作り手伝うことになった。
 
私はスマホを手に、レシピのアプリで検索する。キーワードは、チョコレート、簡単。検索ボタンを押すと何件ものレシピが画面に並ぶ。さあ、どれにする? かわいいチョコレート、おいしそうなチョコケーキ、面白い形のチョコレート。レシピを眺めているときりがない。娘の希望は、色とりどりの飾りをのせたかわいいチョコレートだ。たくさんのレシピの中から、参考にするものを選び、作ってみることにした。
 
チョコレートを溶かす時は湯せんで。直火を当てるのではなく、湯をはったボールの上にチョコレートを入れたボールを置くだけで、とろける。ここで、少し生クリームを加えるのがポイントらしい。ハート型のアルミカップを何個も並べて、溶かしたチョコレートを分け入れる。娘は真剣な顔で、チョコを分けている。なかなかきれいにできている。その後は飾りつけだ。楽しいと言いながら、カラフルな小さい粒々の砂糖菓子をトッピングしていく。作業は終わり。冷やして、固めて完成だ。
 
数時間を置いて、娘の初手作りチョコレートが完成した。さあ、試食タイム。うんうん、売り物には及ばないけど、固くないし、なめらかだし、おいしくできている。こんなに簡単なら、来年もできそうだ。改めて、自分の失敗チョコが奇跡的だと思う。
 
私は夢を叶えなかった人間だ。かなわなかったというより、挑戦しなかった。レシピのおいしそうなでき上がり写真を眺めてばかりで、作ろうとしなかったのと同じだ。レシピを見ているだけでは、料理はでき上がらないし、食べることはできない。夢を見ているだけでは、かなえられない。
 
娘は本当にパティシエになるのかな。まだ小学生だから、夢は変化していくと思うけど。夢をかなえるレシピは、自分で探して、考えて、練って。いつかでき上がったら、素敵な写真と一緒にポストしてほしい。
 
食べたいものを作るように、思い描く未来は作っていける。簡単に夢をかなえる方法は、検索しても見つからないと思うけど、私も挑戦してみたい。
 
さて、今晩は何を食べようか。

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2018-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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