メディアグランプリ

息子と母が育つとき


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福井裕香(ライティング・ゼミ朝コース)
 
「おかあさん、だっこー!!」
 
3歳にしては少し軽めの13kgだけど、重いものは重い。
もういい加減にしてくれないかな。
そんな風に思うことも少なくない。
 
息子は、乗り物という乗り物がてんでダメな赤ちゃんだった。ベビーカーやチャイルドシート、ショッピングセンターのカートも。乗り物どころか、下に降ろすのもダメ。寝ても覚めても、私にくっついていたい、そんな赤ちゃんだった。おかげで、持病の腰痛を悪化させないために抱っこには詳しくなり、抱っこ紐も20本近く集めて、ママ向けに抱っこ講座を開くほどになってしまった。
 
抱っこをしていれば、息子はご機嫌だった。どうしてもある子育て講座を受けたいと思った時には、電車と徒歩で2時間近く乗り継いで出かけたこともあった。息子を自分の一部のように感じていた。だから、抱っこでどこへでも行けた。私も、息子の体温を感じられる抱っこが大好きだった。
 
でも、徐々に息子との関係は変わっていった。
 
立てるようになり。歩けるようになり。
自我が出てきて、自分の思いようにならないと、泣いて怒った。
あんなに好きだった抱っこも、嫌がるようになった。
それでいて、眠い時や甘えたい時だけ、抱っこを求めてきた。
 
「子どもとは、母親とは、そういうものだ」
 
頭ではわかっていても、都合のいいように振り回されている気分になる。自分の一部だと思っていたのに、自分とは別の人間として成長していく息子。割り切れなくて、少しずつ、自分の中の「何か」の気持ちを犠牲にして過ごす日々が続く。そんな鬱積が溜まって、爆発することも徐々に増えてきていた。
 
「お母さん、今もうだめ、笑えない。顔も見たくない。一人にして」
 
そう言い残して、何度寝室に逃げ込んだだろう?
少し落ち着いて部屋に戻ると、なんとも言えない、悲しそうな表情を浮かべている息子が待っていた。
 
この子は全部分かっている。
 
そんな顔が、余計に胸を締め付けて、私を責めた。
 
ある日、知人から「子育て講座の先生を囲んでBBQしながらのお話会」というイベントに誘ってもらった。
「平日の日中なら一人で行ける!」と申し込んだが、後になって幼稚園は園内行事でお休みだということがわかった。
 
キャンセルしたほうがいいだろうか?
参加したところで、息子の相手をしていたら話など聞けないんじゃないか?
息子はすぐに飽きて「帰ろう」と騒ぎ出すんじゃないか?
帰りは眠くなってぐずって、また「だっこ」って言い出すんじゃないか?
 
イベントは楽しみでも、息子を同伴して連れて行く、ということへの不安が募る一方だった。
 
でも、この不安はすべて杞憂だった。
 
スタッフの方が動画を撮ってくれていて、聞き逃したお話も後からゆっくり聞けた。息子も初めてのBBQが楽しかったのか、肉に夢中になって食べていた。そんな息子を周りの参加者も可愛がってくれて、その間に私は主催者と直接話をすることができた。
 
2次会へと向かう皆を見送りながら、私は息子と帰途に着いた。
 
「さすがに子連れで2次会までは。まっすぐ帰ったほうがいいよね」
 
そう思いながら、でも、なんだか帰る気になれなかった。
 
「アイス食べて帰ろっか」
 
もう少し、息子と楽しく遊びたい。
私は自分の気持ちに素直に従った。
 
新宿駅、15時前。平日とはいえ、買い物客や観光客でごった返している。暑くて皆が休みたいと思うこの時間帯に、子連れで座ってアイスを食べられる店を探すのは至難の技のように思えたが、奇跡的に余裕で入店することができた。
注文したストロベリーサンデーが思いの外大きくて、「わぁぁぁ!」と歓喜の声をあげた息子に、店員さんも、隣に座っていた若い男性も、フフッと優しく微笑んでくれた。まるで中学生の女子みたいにはしゃぐ息子がなんとも愛おしくて仕方ない気持ちになった。
 
お腹いっぱいになって、案の定、帰りには眠くなってしまった。いつもの特急ではなく鈍行列車に乗って、ガタンゴトンと揺られながら息子は私の腕の中で、赤ちゃんの頃のように丸くなっていた。
 
私が抑えてきた「何か」の気持ちってなんだったんだろう?
 
息子の寝息を聞きながら、半ば、私も夢うつつの意識の中でぼんやりと考えていた。
 
私は長女で、年子の妹がいる。物心ついた時には「お姉ちゃん」だったから、母親に素直に甘えるということをほとんど知らずに過ごしてきた。
 
私は、母親に甘えたかったのだ。
 
そんな満たされなかった思いを、息子が代わりに満たしてきてくれたように思う。一心同体のように過ごしてきた息子との蜜月が、私にとって心地いい場所だった。そんな自分を満たしてくれる存在を離したくなくて、すがって、それにも関わらず飛行機なみのスピードで成長していこうとする息子をいつしか疎ましく思うようになったのだ。
 
いつの間にか、眠りに落ちていた。
気が付いた時には、もう降りる一駅前まで来ていた。
 
息子を抱っこして駅に降り立った時、息子がふわっと軽かった。ただ赤ちゃんの時のように抱かれているんじゃなくて、しっかりと手も足も私の体を掴んでいる。少し歩いたところで、息子が「おりる」と言って、私の手を引いてしっかりと歩き出した。
本当に、息子は大きくなった。
 
「おかあさんと、おにくたべたよ! アイスもいーっぱい!」
 
翌朝の開口一番、起き抜けのお父さんに、あのサンデーを見たときの表情そのままに報告していた。
 
いつから「おかあしゃん」じゃなくなったんだろう?
さみしさよりも、うれしい気持ちが胸の中にじんわりと融けていった。
 
***

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2018-07-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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