人生の予行演習は人生ゲームで
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:卯月そら(ライティング・ゼミ日曜コース)
今日も学校帰りにみんなで久美ちゃんの家に向かう。
そら、小学4年生。もっとも人生のシミュレーションをした時期だ。
あのころ、私たちは毎日毎日、学校帰りに久美ちゃんの家に寄り道した。そう、友達の中で唯一人生ゲームを持っている久美ちゃんの家でゲームをするためだ。
私たちは何故かこの人生ゲームに夢中だった。毎日やっても少しも飽きなかった。
人生ゲームは、西洋版すごろくといったところだ。すごろくと違うのは、みんな同じコースと進むのではなく人生の分かれ道があるところ。一緒の場所からスタートしても、ある地点で分かれ道がやってくる。そこで自分がどちらに進むかを選択するのだ。そして、その選択によってその後の人生が大きく変わる。人生の大きな選択だ。
最終的には、持っているものをすべてお金に換算して一番お金を持っている人の勝ちだ。
「おじゃましまーす!」
私たちは、玄関で元気にあいさつすると、大急ぎで靴を脱いで一目散に久美ちゃんの部屋に向かう。
そして誰からともなく手慣れた様子でゲームの準備をはじめる。
箱を開けて、ゲームを取り出す。床に広げて、さいころ代わりのルーレットをゲームに取り付ける。
そして、みんな思い思いに小さな車を1台選んで、マッチ棒みたいな人間をひとりだけ車に乗せる。これが、ゲームの人生を進んでいく車と自分だ。
そして、人生ゲームを始める前にみんなに紙のお金が配られる。たしか、一律3000ドル。このお金をもとに人生をスタートさせるのだ。
みんなで人生ゲームを取り囲んで輪になって座る。
そして、スタート地点に自分の車を並べる。
さあ、人生ゲームの始まりだ!
人生ゲームは山あり谷ありだ。いろんなところにドキドキする仕掛けがある。
スタートしてから最初のほうは意外に平和だ。特に大きな事件はない。ちょっとしたケガをして治療費が飛んでいくくらいだ。
そのうち、いよいよあの人生の分かれ道がやってくる。ビジネスコースとカレッジコース。就職してすぐにお金を稼ぐか、大学に行って勉強するかだ。
ぱっと見ると次の合流地点までのコマ数は明らかに、ビジネスコースのほうが短い。大学に行くとずいぶんと遠回りしないといけない。
「なら、近いほうがいいよね。ここを抜けると定期的に給料がもらえるし。すぐにお金が貯められるよね」 私は単純にそう考えて特に迷うこともなくビジネスコースに進んだ。すぐにコースを抜けて、そこからは定期的に給料がもらえるようになる。カレッジコースに進んだ友達は、まだまだ分かれ道の中を進んでいる。
「しめしめ。私が一番早いぞ。しかもお金も結構持ってる」
そう思っているうちに、カレッジコースを進んでいた友達がそこを抜けて合流地点にやってきた。
そしてあることに気がついた。
「あれ? もらっている給料の額が全然違う。友達のほうがずっと多い。どうして?」
なんと、彼女はカレッジコースを進んで医者の資格を取っていたのだ。これから先の給料日にもらえる金額が、毎回私よりずっと多いのだ。
しまった……。
人生急がば回れだ。
さらに進んである地点を通過すると、みんな結婚して車の助手席に相手を乗せる。女の人はピンクで、男の人はブルーだ。そして、その後は「女の子が生まれる」とか「双子が生まれる」というコマに止まると、車の後ろの席に子どもをのせていく。子どもがたくさんいたほうがゲームでは有利だ。たくさん子どもが生まれて、6人乗りの車に乗りきらなくなって進んでいく車もある。でも、子どもは自分では選択できない。ルーレットを回して出た目の分だけ車をすすめていった先に何があるかなのだ。
家が火災にあった。と、いうコマに止まってしまった。
ああ、私は火災保険に入っていない。
いままで何回か入るチャンスがあったが、先に進むにつれて保険料が高くなっていくからお金を払うのがもったいなくて買うチャンスを逃したのだ。それに、火災にあうかもわからないし。でも、保険がないのでさらに高いお金を支払うことになってしまった。
そういえば、ゲームが始まる前にずいぶん安く火災保険は買えたはず。ああ、時すでに遅しだ。
もう手持ちのお金が少ない。ゴールまでにあと何回給料日がやってくるだろうか。
宝くじでも当たらないかな。
こうして参加者全員が、いろいろな人生を終えてゴールする。
そして、手に入れたものをお金に換算していく。保険証券、子どもの数などだ。
最後に一番お金を持っていた人が勝ちだ。
私たちは、日々学習しながら、毎日飽きずに人生ゲームをやった。
そして私は大人になった。
もちろん、迷わず大学に進学した。残念ながら、能力の関係で医者にはなれなかったけれど。
社会人になってほどなく、生命保険にも加入した。若ければ保険料は高くない。
もちろん、独り暮らしを始めた時に火災保険にも入った。もしもの時では遅いからだ。
でも、実際の人生で保険を使ったことはまだない。保険っていうのはそういうものなのだろう。そして、宝くじには当たっていない。
とにもかくにも、小学生の頃に夢中になった人生ゲームで私はずいぶん人生を予習した。
あのゲームに夢中になったことも、また私のリアルな人生だ。
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