メディアグランプリ

バズーカー通ります


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【9月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

戸田 奏(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
嘘みたいだが実際にあったお話である。
 
以前、我が家のマンションの前の道路でしばらく工事をしていた。そこに、車と通行人の交通整備をするために、警棒を持って立っている60歳くらいのおばさんがいた。
すごく明るい素敵なおばさんで、前を通るたびにニコニコ挨拶をしてくれていた。
 
ある日、私はベビーカーに1歳半になる娘を乗せて、そのおばさんの前を通った。いつも通り元気な声で挨拶をしてくれたおばさんは、工事をしている区画の反対側にいる、同じく整備をしている人に向かって、いきなりこう言った。
 
「バズーカー通りまーす!」
 
私は「ん? ベビーカーの聞き間違いかな?」と思いながら普通に前を通った。しかしその後、何度か娘をベビーカーに乗せてそのおばさんの前を通ったが、やっぱり
 
「バズーカー通りまーす!」
 
と言っているようにしか聞こえない。
 
私はこのおばさんの発言がすごく気になって仕方なくなった。例えば、耳の穴に水が入って、なかなか抜けなくて気持ちが悪い、という感じで、気になりだしたら止まらなくなった。
そこで、このおばさんがどうしてベビーカーをバズーカーと言うのか、勝手に考察してみることにした。
 
一つ目の仮説は、単に「ベビーカーという単語をバズーカーと間違えて覚えている」というものを考えた。
しかし、果たしてそんなことはあるだろうか。
確かに「ベビーカー」と「バズーカー」を言葉の響きだけを並べて考えてみれば、文字数、伸ばす部分、そして最後の「カー」の部分は同じであるので、似ていると言えなくもない。でも、それぞれの役割が、一方は赤ちゃんを乗せるものであり、もう一方は武器である。別次元で違うものだ。
例えば、日本語には「柿」と「牡蠣」、「花」と「鼻」などといった同音異義語というものが沢山あるが、ベビーカーとバズーカーは同音ですらない。これだけ用途が違い、同音でないものを間違えて覚える可能性は低いのではないだろうか。
 
よって、この仮説はあまり有力ではないと思われる。
 
 
二つ目の仮説は「おばさんの中ではベビーカーはバズーカーと同じ扱いであり、無意識のうちにベビーカーをバズーカーと言ってしまった」というものを考えた。
一つ目の仮説では、ベビーカーとバズーカーは全く違うものとしたが、今度は共通点がないか探してみることにした。調べてみた結果、なんとか共通点が見つかった。
 
① 移動式(携帯式)である
② 構造が単純である
③ 搭載しているものがある(弾丸か子供か)
 
確かにどちらも移動が可能である。ベビーカーは、親が子供を移動させるときに使用するものだし、バズーカーは、肩に担いだり背負ったりして携帯することが可能だ。
次に、構造はどちらも単純である。ベビーカーは、基本的には赤ちゃんを運ぶためのスペースがあり、レバーや車輪がついているだけだ。バズーカーも、そもそもの定義は「単純な作りの移動式筒形火器」というものであった。
最後に、どちらも搭載しているものがある。ベビーカーは子供であり、バズーカーは弾丸である。
 
このように、確かにベビーカーとバズーカーは共通点が存在した。
しかし、ここまで調べてようやく共通点を見つけなければならなかったものを、このおばさんが無意識のうちに言い間違えたりするだろうか。
 
実際私は、バズーカーはアニメや漫画の世界でしか見たことがなく、実際にはどんなものかは全然知らなかった。
しかも、アニメや漫画で描写されているバズーカーは、先程の定義は無視されていることがほとんどで、二次創作ばかりだという。
現代日本では、私のようにアニメや漫画でしか見たことがない人がほとんどではないだろうか。よって、このおばさんが、実際のバズーカーの定義を知っている可能性は極めて低いだろう。
 
よって、この仮説も厳しいのではないだろうか。
 
 
三つ目の仮説は「このおばさんは、ベビーカーにバズーカーのような危険性を見出していて、もはやベビーカーはバズーカーと認識している」というものを考えた。
 
二つ目の仮説で見つけた共通点の中に、「搭載しているものがある」というものがあったが、もしかしたら、このおばさんにとってベビーカーとは「子供という弾丸を搭載した、移動式の武器」なのではないだろうか。
 
考えてみれば、確かに子供とは弾丸だと言えなくもない。
実際、我が家の娘は、早めのイヤイヤ期が訪れており、いつどこで癇癪が爆発するか分からない状況である。
このおばさんに子育て経験があったと仮定すれば、我が家の娘は「イヤイヤを爆発させるかもしれない弾丸」であり、そんなものを搭載したベビーカーがもはや武器に見えているという可能性はないだろうか。
このおばさんに子育て経験があるかも知れないと考えることは、単語を間違えていたり、バズーカーに詳しい可能性より高いと思われる
 
よって、私はこの三つ目の仮説が一番有力だと考えた。
 
 
ここまで考察してきて、私は仮説を証明するため、おばさんに直接聞いてみることにした。
ドキドキしながら、ある日娘を連れておばさんに話しかけた。
 
「どうしてベビーカーをバズーカーと言うんですか?」
 
それに対するおばさんの答えは……、
「え?」だけだった。
 
 
結局「ベビーカーをバズーカーと言っていたことに気づいていない」だった。
そして、つい先日工事は終わり、この恐ろしく天然なおばさんに、もう会えなくなってしまった。
どこかの工事現場でまた、ベビーカーをバズーカーと言い続けてくれているといいな。
 
 
※正しい名称は「バズーカ」ですが、記事内容の関係で「バズーカー」と表記しています。

 
 
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2018-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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