レコーディングダイエットという名のスマホゲーム
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記事:原 千重子(ライティング・ゼミ木曜コース)
2015年の秋。私は悩んでいた。1か月に一度必ず着るスーツが、ついに悲鳴を上げるようになったからだ。うすうす感づいてはいたが現実を見ないようにしていた私も重い腰を上げてダイエットすることを決意した。
しかし、運動大嫌い、お酒と食べることが大好き、とにかくズボラ、という性格な上に、当時仕事は激務で時間が不規則、食事はコンビニで済ませるという生活の中で果たしてダイエットなんて出来るのかと思っていた矢先に、ある一冊の本と運命の出会いを果たす。その本で提唱されていたものが何を隠そう「レコーディングダイエット」なのである。
なんだこれ? それが私の第一印象だった。書いてあることは至ってシンプルで簡単。むしろこんな簡単なことで本当に痩せるのか? と疑うほどだった。あまりにも簡単だったし、スーツのためにもやせなければいけないという危機感を感じていたこともあり、とにかく始めてみることにした。
まず私が最初にやったことは体脂肪まで測れる体重計を購入することと無料のカレンダーをダウンロードして印刷することだった。「レコーディングダイエット」の名の通り、毎日朝起きたら体重を量り記録することが全ての基本となるからだ。
初日恐る恐る体重計に乗った。10年ぶりに乗った機械は、私に忖度することなく絶望する現実をつきつけてきた。あの絶望は今でもなかなか忘れることが出来ない。ずっと友達が「痩せているね」と言ってくれたのは、心のBeautyPlusが「昔の私」に加工していてくれただけにすぎなかったのだと、その時はっきりと悟った。そして「危機感」がはっきりとした「危機」に変わった瞬間でもあった。
現実がわかったところで、次にやったのは二つの事だった。すなわち「水(もしくはノンカフェインのお茶)を一日1.5リットルから2リットル飲む」「基礎代謝分のご飯を食べる」これだけ。
水に関して言えば、性格がズボラなので、水を1.5リットルなんていちいち量って飲むわけがなく、1.5リットルペットボトルを購入して飲んだ。そうすれば、自動的に毎日の目標が達成できる。
基礎代謝はネットで調べて年齢と日常動作の強弱を入力すれば、すぐに判明するのでそれを参考にした。ちなみに私の場合は1200キロカロリーが基礎代謝だったので、1200~1250キロカロリーになるように調整して食べることにした。くどいようだが「レコーディングダイエット」という名前なので、当然食べたものとそのカロリーも記録していく。初めはアプリで記録していたがいろいろと面倒だったので、最終的な食べたものの記録手段はTwitterになった。なにしろ手元に常にスマホがあるし、SNSにあげることでダイエットを宣言している友人たちにアピールも出来たので私には合っていた。ここでコンビニ中心の食生活が役に立った。ありがたいことにコンビニの食品はほとんどのものにカロリー表記があり、計算がとても楽だったのだ。
本は私の生活を見ているかのようだった。飲みに行くことが大好きな私は、急に飲み会に誘われることも多かった。すでに1000キロカロリー摂取した日に飲み会に誘われたら「どうしよう」と思ってしまうようなことも先回りして対処法が書いてあった。だんだん痩せていって着られる服が増えたことが嬉しくて買ってしまうことも、ダイエットそのものが会話のネタになることも、気づけば本に書いてある通りになっていったのだ。
そうして1年経ったある日。久しぶりに会った後輩に言われた。「あれ? 痩せました?」
日々の生活を変えることなく、多額の金銭を払うことなく、苦労も無理もせず、飲みの誘いを断ることなく、ズボラな私がこの生活を1年も続けてしまった。結果的に体重は7キロ落ちていた。悲鳴を上げていたスーツは入るどころかブカブカになってしまった。洋服のサイズが13号から9号になっていたのだ。運動嫌いでも少しは運動してみようかなと思い、キックボクシングジムに通えるようになった。あんなに嫌いだった写真に積極的に写るようになった。健康診断の結果からA以外が消えた。勧めた友人もダイエットに成功して最高の状態でウエディングドレスを着た。レコーディングダイエットに理解のあった主人も私に合わせて食事をしていたら痩せてしまった。
日々の生活を変えていないと思っていたら、気づかないうちに生活が変わっていった。
ふと、友人に勧められたスマホゲームをやりながら思った。楽しいから毎日ログインして、目の前の小さな勝利条件を積み重ねていたら、レベルが上がって強くなっていた。これってレコーディングダイエットに似ているな、と。
私は言いたい。「毎日スマホゲーム出来る人はレコーディングダイエットに成功できる!」やっていることはどちらも変わらない。平凡だった主人公がいつの間にか世界を救うのか、平凡だった自分がいつの間にか自分を救うのかだけの違い。だって、こんなズボラな私が出来たんだもの!
この「レコーディングダイエット」という名のスマホゲームに私は心から感謝している。
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