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メディアグランプリ

扇風機のシール


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:春日まさみ(ライティング・ゼミ特講)

 
 
今年の夏は暑かった。とにかく暑かった。外に出ると命の危険を感じるほど暑かった。
だけど、ようやく暑い夏は終わりそうだ。そして、私は扇風機の拭き掃除をしてしまうことを考える。
うちの扇風機はかれこれ20数年使っている。なぜか色はグレーだ。白は定番だから嫌なんだよね~と、だいぶ生意気だった私がグレーを選んだに違いない。今なら迷わず定番を選ぶからだ。
その扇風機のスイッチの横に申し訳なさそうにシールがきれいに並んで貼ってある。剥がれかけているものもあるが、私はどうしてもそのシールを剥がすことができない。
 
今をさかのぼること20年前、息子が生まれて1歳になった夏。私は息子の指を守るため、扇風機カバーなるものを買ってみた。小さくて細い指を扇風機のカバーの隙間に入れて羽に当たってけがをしないためのものだ。『子供は悪戯をする生き物だ』と、自分の子供の頃を思い出してもそうだし、友達の子供をみてもそうだった。だから自分の息子もそうだろうと思って買った。
 
しかし、3歳になっても息子は扇風機に何の興味も持たなかった。
 
どうして? 何故なの? スイッチ押してみたくないの? ないの? 扇風機の近くまで顔を寄せて「我々は宇宙人だ」ってやらないの? 動く羽に気を付けながら隙間に指を入れてみたくないの? スイッチ切った後、ゆっくりと回っている羽に触ってみたくないの?
 
私は張り切って買ったカバーをそっと外した。
無くても心配ないからだ。
 
それでも諦めきれない私は、息子に扇風機を使った悪戯に誘ってみた。
「宇宙人になれるんだよ! この指が当たりそうなスリリングな感じ! ほらほら! 面白そうでしょ!」
と、息子に見本を見せた。それを見た息子は、それをやっている私が面白いらしくニコニコしていた。
 
ん~私としてはつまらない。
 
息子が幼稚園に入り、友達ができて遊びに行った夏。そこのお宅にはうちには必要が無い扇風機カバーが付いていた。息子の友達は家に入るなりスイッチを足で押して、扇風機に顔を近づけて「あーーーあーーー」と言い始めて(宇宙人の真似をして)ママ友に怒られていた。私がやりたかったことはこれ!!私が母親に怒られたように、息子を怒ってみたかったのだ。ママ友も息子の友達も笑っている。私は良いなぁ~と思った。
それを見ていた息子はさっと友達の隣に座り、初めて宇宙人になった。
息子とその友達が交互に宇宙人になり、それぞれの母親が「やめなさい」と笑いながら怒った。そして、おやつが出てきたことでこの遊びは終わった。
 
子供たちは子供たちで遊び始めた時、ママ友に「扇風機の前で『あ~』って言うの教えたの?」と聞いてみたら、「勝手にやってた」と答えてびっくりした。「隙間に指を入れようとした?」と聞いたら「した! した! 危ないと思ってカバーを買った。」と答えた。
 
えーーーー! ななんと! 自然発生的に行われていた。
 
いや~なんていうんでしょう。息子は本当は宇宙人なのかも知れない、別な意味で。
 
さっ、シールの話に戻ります。
まだ息子が幼稚園時代の話です。とある世界的アニメーション会社のキャラクターが出るアイスショーに息子と行った。生でジャンプとかスパイラルを見たいという母に無理やりすれて行かれる形で……。興奮したのは私だけで、相変わらず冷静な息子。だけど、知っているキャラクターが出てくるので、目はキラキラしていた。
映画を観てもあまりパンフレットは買ってあげないけど、今回は欲しいというので買うことに。
そのパンフレットにキャラクターのシールが付いていた。
 
シールをたんすに貼って母親に怒られたのを思い出し、「好きなところに貼って良いよ」と息子に言っても一向に貼る気配がない……。しびれを切らした私が「ここに貼って良いよ」と扇風機を指さした。息子は丁寧に慎重に真っすぐ並べで貼った。どこまでも几帳面な奴め! 私が貼って良いと言ったので怒れないのも残念だ。
 
それにしても、悪戯をしない。誘ってもしない。結局、私は怒れない。
息子を怒ることで、小さいころの自分の敵を取ろうとしたのか? いや違う。あの親に怒られるかもしれないというドキドキを息子に体験して欲しかったのだ。今思い出してもドキドキしてワクワクする。
 
結局、悪戯をして私に怒られるという体験をしなかった息子。(他の事では怒りました)
私は剥がれかけたシールを毎年見る度、したくないことをさせてしまったと少し罪悪感を持つ。
 
今は大学進学を機に東北で一人暮らし息子。
決して今は几帳面でもキレイ好きでもない普通の大学生だ。
高校生の頃から生真面目から抜け出し大人に怒られることにも慣れ、今では大学生生活を楽しんでいるように見える。
 
宇宙人から地球人になれたみたいだなと、ふと思う。
 
私は今年もシールを剥がさないだろう。
これからも、きっと。
 
 
***

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2018-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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