おっさん化改造手術で生まれ変わった私
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記事：桑原康子 （ライティング・ゼミ 木曜コース）
「先日摘出した卵巣には何も問題ありませんでした。しかし……ついでにソウハした子宮ナイマクにイケイセイカがみられ……」
摘出した卵巣の検査結果を聞きに来たはずなのに、子宮って言った？
「まだガンという診断ではありませんが、一日一日ガンに向かって進んでいる状況です。半年や１年間様子を見るという選択肢はありません」
何を言ってるんだろう……？ 今、ガンって聞こえたけど……。
ガンと言われて、よく「頭が真っ白になった」と聞きます。でもその時私が気になっていたのは「先生、今日も鼻毛が出てる」でした。最初に受診した日から毎回鼻毛が出ていて、こっそり「鼻毛せんせい」と呼んでいた主治医。その「鼻毛せんせい」、実は県立病院の婦人科ではトップの医師です。
「今から妊娠・出産の希望があるなら他の治療法もありますが、そうでないなら子宮と残っている卵巣を摘出するのが、一番確実な治療法です」
いやいや、私もう５０歳ですよ？ 閉経したから卵巣膿腫を取ったのに、妊娠とか無いの知ってますよね？ もう使わない子宮と卵巣、ガンで死ぬくらいなら取ります。取ってください。
医学の進歩というのは想像以上でした。最初の卵巣摘出と同様、腹腔鏡手術で子宮と残りの卵巣も摘出しました。腹腔鏡手術というのはお腹を切って開くのではなく、２～３か所小さな穴を開けて、そこからメスとカメラを入れお腹の中で手術を行うのだそうです。手術の翌日着替えの時に見てみたら、おへその左右に小さな絆創膏が貼ってあるだけでした。これでどうやって子宮と卵巣が体外に出てきたのか魔法のようでした。
術後の経過もよく、５日目には退院することになりました。
「摘出した子宮を調べたところ、子宮体部にすでにガンができていました。しかし、転移している可能性が低いステージⅠという状態です。この後の治療はありませんが、３か月に１度は受診してください」
やっぱりガンだったんだ……。
でも考え様によっては、早く見つかってよかったのかもしれません。転移の可能性は低いと言われたし、抗がん剤で抜け毛に悩むことも、どこかが痛むこともありません。残った卵巣を取ったので、不定愁訴（いわゆる更年期障害）は心配でしたが、不思議なくらい何もありませんでした。手術前と何も変わらない生活。月経もなくなってむしろ良かった、楽だし。
それは甘い考えでした。元々肥満体型の私ですが、ぽっちゃりというレベルは「少しだけ」超えてます。ふと気が付くと、体重は変わらないのに制服のウエストがきつくなってきました。「おかしいな？」と思っていたある日、メイクする時に鏡を見ていて愕然としました。あごの辺りに産毛というにはちょっと太すぎる毛が！ これはヒゲと呼べるのでは……。あわてて抜いて何事もなかったような顔をしていますが、内心は「私、おっさん化してる？」と動揺の嵐です。そう思って気にすると、なんだか抜け毛が多いような気がしてきました。多すぎる髪が悩みだったのに、分け目から地肌が見えています。ヒゲの次はハゲ！
卵巣と子宮を摘出するということは、イコール「おっさん化改造手術」だったのです。女性ホルモンが０になって、他にも何か影響があるか調べてみると「骨粗鬆症」「コレステロールの増加」「生活習慣病のリスク」など出てくる、出てくる。女性の体は女性ホルモンによって守られていることに、初めて気が付きました。そう思うと、毎月憂鬱だった生理すらなつかしく感じます。
ヒゲとハゲはなんとかごまかせても、生活習慣病は命取りになりかねません。手術から２年経つ頃には、人生最高体重まで増えてついに「脂肪肝」と検診で言われました。
まずい……。これは本気でまずい。制服が入らないとか、そんなレベルの問題ではありません。ダイエットの知識だけなら誰にも負けませんが、今まで何度もチャレンジしては挫折してきました。
そんな時佐賀市が運営しているスポーツクラブで、「スリムアクアチャレンジ」の募集記事を見つけました。プールで運動してやせようというチャレンジです。私の体重でも、水中なら膝や腰に負担がかかりません。水着を着るのはちょっと勇気がいりましたが、まわりはお年寄りばかりです。近眼の私はどうせ何も見えていないので「なりふり構わず」です。一念発起してプールで運動を初めて１０か月。熱心な指導員の励ましと、褒められて伸びる性格のおかげで、マイナス１０ｋｇまできました。ぎりぎりぽっちゃりの範囲に入ったと思います。「脂肪肝」も解消しました。血液検査を受けてもすべて正常範囲です。ここまで結果が出たのは、たぶん人生で初めてです。
先日、３か月ぶりに鼻毛せんせいの診察を受けました。
「再発せずにやっと３年経ちましたね。３年が一つの区切りです。よかったですね」
ガンになっておっさん化しました。でも、そのおかげでダイエットに成功したし、何よりも自分の体をみつめることができた３年間でした。鼻毛せんせい、ありがとうございました。今度の受診の時には勇気を出して「鼻毛出てますよ」って言いますね！
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