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おばあちゃんが教えてくれた「人生でとっておきの秘訣」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ひらいさおり(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「あなたに。人生で、とっておきの秘訣を、教えてあげるわ」
顔じゅうのシワを寄せて、顔を近づけながら、その人は言った。
 
昔も今も変わらない小さな町に、不思議なおばあちゃんがいる。
おばあちゃんといっても、私と血がつながっているわけでも、親戚でもない。
とある町のマンションで1人、マッサージをしている。
今年で82歳。背は小柄で、髪は美しい白髪。いつも品のいい化粧をしている。
 
大きなマンションの入口には、常駐の管理人がいて
「ギギギー」
と、音の鳴りそうな重い木の扉を開けてくれる。
 
エレベーターに乗り、部屋の前でコールを鳴らす。
ドアを開けると、部屋の中はいつも、澄んだ空気が漂う。
部屋は、美しい花々と選び抜かれた木製家具が数台置かれているだけで、余計なものは何1つない。
小奇麗に整えられた部屋は、まるで森の中にある神社に来たかのような清々しさだ。
 
「とてもきれいなお部屋ですね」
 
「モノが沢山あるのがきらいなのよ。若い時はルブタンの靴でもなんでも沢山持っていたけど、モノが多いと、掃除も大変でしょ。この年になったら、次の世代にどんどん渡して。身軽にしていくのが一番よ」
優しさの奥にも強さが見える。柔らかい笑顔でそう言った。
 
おばあちゃんとの時間は、決まって2時間。
最初の1時間は、ずっとおしゃべりタイム。
後半の1時間に、おばあちゃんがマッサージをしてくれるのだ。
 
「82歳のおばあちゃんにマッサージされるって、どうなの?」
「むしろ私がおばあちゃんをマッサージしてあげたほうがいいんじゃない?」
そう思い、何度かおばあちゃんの肩をマッサージしたことがある。
肩に指が入らない。あまりの硬さに驚いた。
 
「私はねぇ。人の体を触るのが好きなの。人をマッサージすると、自分も気持ち良くなるのよ。好きだから、やめられないのねぇ」
 
おばあちゃんは、いつもゆっくりと、穏やかな口調で話をする。
家族がヨーロッパで勲章をもらった話とか。
社長として海外を飛び回り、ビジネスをしていた話とか。
おばあちゃんの話には必ず、何か気づかせてくれる学びがあり、話題が尽きることはない。
 
この日は、おばあちゃんが所有する別荘の話になった。
「今も仕事が楽しくて、軽井沢になかなか行けないのよ」
別荘の周りには、おばあちゃんが大好きな畑もある。
「管理してくれる人にお願いして、畑を全てお花畑にしたの。手つかずの畑よりも、お花が咲いていたほうが、ご近所さんも皆さん楽しめるでしょ」
送られてきたお花畑の写真を手にしながら、微笑んだ。
 
「私はもう、ただただ皆さんのために。徳を積んでいくことに決めたのよ。どうやったら人様のためになれるか。ほら、私2回も死にそうになったでしょ。死ぬかと思ったら、また生きられたのよ。だからもうこの残りの命は、もう皆さんのお役に立てればそれでいいの」
 
2年ほど前、おばあちゃんは、肝臓癌になった。
病院の検査で発見された時は、ステージ4。
医師に、余命3が月ほどと診断された。
 
家族は皆、これはもう長くないだろうと、遺産相続の処理をした。
おばあちゃんのマッサージ店も、閉店の手続きが済まされた。
今後訪れる葬儀の話もすすめ、家族の誰もが諦めていた、そんな時だった。
 
「私は生きる! 私は治る!」
おばあちゃんは、医師が止めるのも聞かずに病院を出て、自宅に戻った。
毎日、治ることだけをイメージし、一心に自分の体をマッサージし続けた。
 
1ヶ月後、再び検査に訪れた時。
なぜか、癌は消えていた。
「ありえない。不思議な事が起こった」
あまりの出来事に、医師は何度も画像の確認を繰り返した。
 
その数か月後、定期検査後の病院の前で、今度は段差につまづき、股関節を骨折した。
病院の目の前だったので、そのまま入院。
「この年齢で股関節の複雑骨折は、さすがにもう歩けない。寝たきりだな」
家族は皆、諦めながら見舞いに訪れた。
「このままじゃ寝たきりになっちゃうわよ」
数か月後、おばあちゃんは再び医師を説得し、自宅に戻った。
 
それから毎日、おばあちゃんは、ほふく前進をするように、両腕で自分の体を引きずった。
寝たきりで弱った腕の筋肉を鍛え、少しずつひざをついて歩けるようになった。
ひざ歩きを繰り返しながら、立つことを練習していたら、今度は立ち上がれるようになった。
杖を突きながら「今日は1歩。明日は2歩」と、歩きはじめ、徐々に杖なしでも歩けるようになった。
毎日、練習を続けていたら、1年後、普通にスタスタ歩けるようになった。
 
「人の意志にはね。力があるの。信じる力は、何にも勝るのよ」
おばあちゃんは、そう言った。
 
「いい? あなたに。人生で、とっておきの秘訣を、教えてあげるわ」
顔じゅうのシワを寄せながら、顔を近づける。
 
「人生は全て、あなたの思う通り。あなたの思い描く事が、そのまま現実になるの」
まるで映画に出てくる老婆のようにも見えた。
 
人生を前向きに強く生きた人ほど、奇跡のストーリーを語れるのかもしれない。
 
マンションを出た時、空は青空に変わっていた。
私もいつか、そんなふうに、話せるおばあちゃんになる。
初夏の風を感じながら、そう心に決めた。

 
 
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2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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