メディアグランプリ

いつかチンアナゴになる日まで


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記事:和田恭子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
チンアナゴ、という海の生き物をご存じだろうか。
犬のチンに顔が似ているからという、ちょっとコメントに困る安直な理由で名前をつけられたウナギ目アナゴ科の一種で、海底の砂の中からちょろちょろと顔だけを出してゆらゆら揺れている細い立ち姿を映像で見たことがある人もいるのではないかと思う。ムーミン谷にいるニョロニョロにも似ている。
うちの母などは「ああいう細長くて、にょろりと動くものは好きじゃない」と言って敬遠しているが、愛嬌のある顔と姿に癒されるという人も多く、私もその一人だ。
水中でにょきっと立っている姿が数字の「1」に似ているという理由で、11月11日はポッキーやプリッツ、もやしといったメジャーな商品と並んでチンアナゴの日でもある。
アナゴと名がついてはいるが、おいしいのかは知らない。
 
このチンアナゴ、全長は30~40センチくらいあるのだが、通常は10センチ程度しか砂の上に出ていない。臆病なので、身の危険を感じたらすぐ砂の中に隠れられるように準備しつつ、ぼーっとした顔で立っている。
敵だと思えば1~2秒で砂に潜って姿を消してしまうが、仲間に対しては気が強く、チンアナゴ同士で喧嘩する場面もよく見られる。この時も自分の穴からは動かず、水中に出た部分だけで威嚇しあったり噛みついたりするのだが、姿勢が低くなるのでわかりやすい。
ほとんど移動したり泳いだりすることはない彼らだけれど、数少ない例外が食事時で、エサとなるプランクトンが漂ってきた瞬間、「おまえ、本当にさっきまでボケてたあいつか!?」とびっくりするくらい豹変する。
直径1センチもないくらいの彼らだが、小さな口を限界まで広げて流れてくるエサを捕まえようと頑張る。少しでも多く口に入れようと頑張り過ぎて警戒心など吹っ飛んでしまい、一生懸命に隠れていたはずなのに気付けば体の大半が砂から出てしまう。
たまには必死で首を伸ばすあまり尻尾まで抜けてしまい、慌てて空いている場所に埋まりに行ったりすることも、夢中でエサを追いかけているうちに隣の仲間とぐるぐるに絡まってしまうこともある。
挙句の果てには、流れて来たものは取り敢えず口に入れてみるという好奇心旺盛な部分もあるので、仲間のフンをぱくっとやってしまうこともあるらしい。
口に入れてみるだけで、「あ、これ違うわ」となればすぐに吐き出すというのだが、事前に分からないのだろうかとか、食に関しては危機感ゼロだなとか、ツッコみたいことは尽きることなく出てくる。
けれど、「いっぱい食べたい!」という飽くなき欲求とその為の努力は嫌いではないし、ふと我に返って絡まった仲間から離れようとするような少しおばかなところも含めて可愛いと思ってしまうのだから、結局、私のチンアナゴに対する憧れは変わらない。あばたもえくぼとは、よく言ったものだ。
 
そう、私はチンアナゴに少しの親近感と大いなる憧れを抱いているのだ。
「チンに似ているね」というのは、哺乳類サル目ヒト科の私としては正直あまり褒め言葉とは感じないのだけれど、つぶらな瞳はうらやましい。
江戸っ子で非常に沸点が低いけれど忘れるのも得意な私は、喧嘩が日常茶飯事というところも、その相手と数分後には絡まり合っているというところも、とてもよく理解できる。なんなら握手したいくらいだ。
また、基本インドア派で、特に今のように寒くなってくる時期はいつも以上に家から出たくなくなるので、できることなら彼らのように自分が決めた場所から動かずにエサが流れてくるのを待って過ごしたい。
それでも「ちょっとお勧めの店があるんだけど」と呼ばれると喜び勇んで出かけてしまうところも、コンビニで新製品を見つけるとつい買ってしまうところも(おいしくなくても吐き出しはしないけれど)、目の前に流れてきたものは口に含んでしまうチンアナゴとの共通点を感じる。
目先のことに夢中になり過ぎて「あ!やばい全身出ちゃってた!」と慌てふためいて泳ぎ去るチンアナゴの姿には、思い当たる事柄があり過ぎて、つい自分を重ねて目頭が熱くなってしまう。
 
ここまで似通っているのに、チンアナゴにあって私にないものが愛嬌というか、愛され力だ。
別に馬鹿になりたいわけでも失敗を増やしたいわけでもないが、自由に生きているように見えるのに受け入れられているチンアナゴのことが、私にはまぶしく見える。
チンアナゴ的には、きっと「そんなに楽なもんじゃない」と言いたいだろう。人間には分からない苦労もあるだろう。
けれど、私はいつかチンアナゴのような存在になれる日を勝手に夢見て、明日からも人間社会の中で、すくっと立っていようと思う。
 
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2018-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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