メディアグランプリ

堕ちた一杯


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記事:中南ひかる(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 「好きってなんだろうね?」
 
 女子会の終わり際にで友人の一人がほろ酔い気味で呟いた。その場に居た4人は全員首を傾げた。好きという感覚はきっと様々でこれが正しいとされることはない。辞書を引いて解決するような単純なことでもないだろう。実際私も今だにわからない。小学校の頃テレビに張り付いて見た学園ものの恋愛ドラマのような、こっそり隠れてドキドキしながら部屋の隅で読んだ少女漫画のような心踊る恋がいつか私も大人になればできるのだと夢見ていた。
 高校で女子校に入り、現実を知った。男性アイドルの話で十分心が満たされたまま大学に上がり、大学生になって一人暮らしをしてバイトをすれば素敵な出会いがあるかもしれないと密かに思っていた。大学に上がり、デパ地下のケーキ屋でクリスマス当日にアルバイトをするようになった。気が付けば恋愛ドラマや小説どころか、人気の恋愛ソングに「胸キュン」もしなくなっていた。どうせ夢ばかりだろうと、荒んだ大学生になっていった。
 しかし或る時転機が訪れた。少女漫画でよく目にする、何か自分を目覚めさせるような風が吹き、気が付けば景色が以前より色鮮やかに見えるようなヒロインの情景と感覚。出会った時の感動や幸せ、切なさや寂しさをくれた存在。
 
 嘗て思い描いていた恋愛の感覚を私にくれたのは、もやしてんこ盛りの一杯のラーメンであった。
 
 人ではないのかと思われるかもしれない。人ではなかった。しかし残念だとは微塵も思っていないしこれは真っ当な感覚だと私は信じている。
 私にとってそのラーメンは、少女漫画風に表現すると桜咲き胸を膨らませて迎えた新学期、たまたま隣の席になった問題児の男子だ。初めてその店のラーメンを口にした時、余りにも脂っこい、駅からもかなり歩かないといけないしコストパフォーマンスも悪いじゃないか、と思った。私は大学に入学してからラーメンを食べるようになりインターネットで話題のラーメン屋は旅先でも足を運ぶほどであった為、自分の中のラーメンランキングでの上位ランクインはないだろうとその時は思った。濃すぎるスープとてんこ盛りのもやしに最初は正直引いた。しかし、よくラーメンを一緒に食べに行く人たちはその店を大層気に入っており、自分も好きではないが麺は食べたいので気乗りはせずとも付いていくことが数回あった。
 同じ店に渋々付いていき年に何度もいくことで発見もあった。個人経営のラーメン店である為、いつ行っても同じ店主がいて一杯を提供してくれる。店主も人間であり毎日の一杯の味はその店主の加減により変化している。その日その日でスープやチャーシューの味が変わるのだ。同じ一杯は二度と味わえない、何度か行かないとわからないこの変化に気づけた喜びもあった。そして恐ろしいことにその具材やスープの微妙な変化は時に奇跡のような、悪魔のような一杯を生み出す。
 
「どうしよう、かなり美味しい。」
 
 変化に気づいたのはその後一人で自身のラーメンランキング第1位であった店を訪れた時だ。いつものように券を買って渡し湯気の立つ丼が目の前に置かれ、いざスープをすするとすぐに違和感を感じた。濃さもまろやかさもあってナイスバランスなのにそれはあくまで優等生的で、なぜか満たされない。もやしの量が少ない。その感覚は衝撃だった。これまでの普通が普通ではなくなった。それまでお気に入りであったラーメンが少女漫画風に言うと初めは憧れられていたにも関わらず最終的にはヒロインにアプローチしても振られてしまうような切ない立ち位置の先輩的存在になってしまったのである。気が付けば私は完全に「あの一杯」の虜となっていた。
 あの一杯と出会って、私は考え方も行動も変わった。受動的にそのラーメン屋に赴いていたのが、能動的に「あそこ行こうよ」と提案するようになった。その店のSNSアカウントを調べ、その店が機械の故障により休業とわかると心が痛み店主が心配になった。駅からの距離なんて関係ない、たとえ値上がりしようとも構わないあの一杯が食べられるならば。そしてふと少女漫画のヒロインや片思い系恋愛ソングの歌詞に共感したのである。漫画やドラマのような恋愛感情は実在するものなのだと、ここに来てようやく理解することができたのだ。
 
 「好き」って、きっとこういう事だ。
 
 しかし、人の顔と同じく味の好みはそれぞれである。女子会で他人に自分の彼氏を見定められそんな事ないのにと内心傷つく乙女心と同じである。そのラーメン屋を「そうでもなかった」と軽く言われショックを受けたり悔しくなることもあるが、合わなかったなら仕方ない。自分がその一杯(相手)を好きで満たされているなら、それは十分幸せな事ではないだろうか。
 人間の三大欲求は食欲・睡眠欲・性欲である。私が出会った「あの一杯」然り、冬の朝目覚まし時計がなっても包み込み駄駄を捏ねたように外に出られなくしてしまい人々を陥れる布団然り、その瞬間人の中に生まれた炎のようなものはイケメンの青年がヒロインの女子を思わず後ろから抱きしめる時の感情エネルギーと変わらないのではないだろうか。相手を人に限定さえしなければ少女漫画の疑似体験は誰でもできる事なのかもしれない。
 恋しさが人を動かし、惑わす……やはり人との恋愛があっても人生は面白いかもしれない。
 
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2018-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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