脆くても輝くガラクタ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:外村省吾(ライティング・ゼミ日曜コース)
「……その注文は受けれません」
大学1年生の6月。
美容師から言い渡された一言だった。
「……いや、カットと縮毛矯正をお願いしたいんですけど、」
「ダメです!」
さっきより、強い口調で言われた。
縮毛矯正を注文する私が信じられないそうだ。
少し呆れ果ててるようにも見える。
癖の強い髪の毛。根元でグリンっとうねる。
雨が降る気配が分かる。
雨が降ったら、汗をかいたら、もう終わり。
私は天然パーマがコンプレックスだった。
小学生から高校生まで苦しめられた。
小学生の頃は意識しなかったけれど、中学生になる頃、髪を短く切らないといけなかった。
短くなると髪の動きは激しさを増してくる。
前髪は右へ左へブンブン揺れるし、変なところで跳ねるし収集がつかない。
当時はコンビニでヘアワックスを購入して対応していた。
ただ、あまりにもツヤがあったり、付けすぎるとバレてしまう。
「中学生が色付くな!」
と、先生にバレては手洗い場で髪を濡らされてしまう事もあった。
高校生になっても髪の毛はうねり続けていく。
次第にワックスがバレない付け方の技術を修得したり、ヘアアイロンという武器も手に入れた。
それでも、限界があるのだ。
朝は完璧に仕上がっていたのに、学校のトイレで鏡を見る度にいつものクルクルヘアーに戻ってる……
梅雨の湿気や夏の暑さは天敵だった。
癖毛の友人同士で集まっては、直毛の人を妬んでいた。
そして、大学生になった。もう、校則なんてない。
始めは薬局で買ってきたストレートパーマを試す。
カラーリングと同じ要領で作業をする。
これで本当に今まで苦しめられた癖毛から解放されるのか?
半信半疑だった。
結果は全く効果なし。
次に、ストレートになるムースをつけてみる。
これも効果なし。
髪が真っ直ぐになりやすいシャンプー
もちろん効果なし。
残された手段はやっぱり美容室でちゃんと縮毛矯正をしてもらうことだった。
値段はカット込みで13000円。
高い……!
当時の私には大きな出費だったので、
昼食をおにぎり一つと炭酸飲料でやり過ごしたりして節約した。
そして、やっとお金が出来た。
いつものカットと縮毛矯正を美容師に注文した。
だけど、その注文は受けれないと言う。
「縮毛矯正はしない方がいいですよ!」
「外村さん、なんでする必要があるんですか!」
当時、担当してくれた樋口さんは驚きを通り越して呆れて、少しだけ怒ってもいた。
「いつものようにカットとシャンプーだけしますね!」
……分かりました。
やっぱりこのクルクルの髪の毛とは一生過ごすのか。
ぼんやり鏡を見ていた。
樋口さんは何故かご機嫌だった。
「外村さん、本当に良い癖だよね~♪」
あー、そうなんですか。
とりあえずそう答える。
「今時、こんな髪質の人いないですよ」
へー、そうなんですか。
とりあえずそう答える。
「私も癖毛がよかったなぁー」
……えっ!? 癖毛がよかった!?
どういう事なんだろう。
そんな事言う人がいるのが衝撃だった。
このクルクルがいいのか……
考えてる間に手際よくカットが終わった。
その後も、手際よく髪を流してもらって、髪を乾かしてもらった。
「今日はスタイリング剤つけます!」
つけます……!?
今日はこの後予定もないから家でゆっくりしようと思っていたのに。
縮毛矯正の注文は断って、スタイリング剤は勝手につける……。
どういう状況か分からなかったけど
流れに身を任せてみた。
「このぐらい手にとって、始めはグッと持ち上げてください! そこから最後は毛先を捻ってください!」
最後の最後まで力強く訴えてきた。
あなたの癖毛は良いと。
帰りながら、今のままでも良いかもと思った。
家に帰る予定だったけど少しだけ街にくり出した。
次の日、大学に行くと直毛の友人がパーマをかけていた。
何故、パーマをかけたのか? 尋ねてみた。
驚いた。
その友人は直毛である事がコンプレックスらしい。
「外村は良いよね~何もせんでもパーマやけん」
いやいや、良くはないと思った。
けれど、私が憧れていた直毛も人によってはコンプレックスになるのか。
不思議だなとも思った。
コンプレックスは骨董品みたいだなと思った。
コンプレックスと感じている自分から見ると、ガラクタのように思える。
けれど、他人から見ると実は価値があるモノかもしれない。
ガラクタなんかではないかもしれない。
私のクルクルな髪の毛も誰かにとっては価値があるように。
私が憧れていたストレートな髪の毛も誰かにとってはガラクタであるように。
髪質に限らずコンプレックスなんて沢山ある。
声や身長、顔やら隠せない事から、
考え方や性格等の自分の中に閉まっているもの。
ガラクタをみんな少なからず抱えている。
コンプレックスだって思っていたけど、
ガラクタだって思っていたものが実はそうではないと分かる時がある。
それは弱さをさらけ出せた時なのかもしれない。
弱さにも色んな大きさがあると思う。
大きな弱さをさらけ出すのは恐いだろうなと思う。
けれど、実はそういう人の方が魅力的なのかもしれない。
コンプレックスという弱さが価値に変わる。
勇気は必要だけれど、弱さを強さに変えることが出来るかもしれない。
思うように纏まらない自分の髪の毛をいじりながら最近は思う。
もう少し弱さをさらけ出せたら、実は強くなれるのかもしれないと。
抱えているガラクタには、実は価値があるのかもしれない。
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