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メディアグランプリ

銭湯で出会った魔女たち


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山本さおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
私は今、とてつもなくお風呂に入りたい。
なぜなら、この寒いけれどもぬるっとしたあたたかさもある空気の中、遅刻しそうで、猛ダッシュで走ったからだ。
すっかり汗だくになり、いつもお世話になっているヒートテックさえ恨めしい。
いつも持ち歩いているはずの手ぬぐいも今日はすっかり家に忘れてきた。
汗でダラダラになってしまい、最悪だ。
 
今、お風呂に入るなら銭湯がいい。
銭湯で軽く体を流した後に、ゆったり、広い湯船に浸かる。
家では味わえないあの広々として、遠慮のない銭湯……
 
思い出すのは、別府の銭湯だ。
大分県別府市は、日本で有数の温泉地であるが、私にとっては、おばが住んでいることもあり、今までに何度か訪ねている。
 
おばの家から歩いてすぐのところに、別府のシンボルとも言える古い銭湯「竹瓦温泉」がある。
冗談でなく、洗面器と石けんと回数券だけを渡され、「いってこい!」とおじに言われた。
 
純和風の旅館のような建物に入り、のれんをくぐって、浴室に入ると、浴室の真ん中に浴槽が一つ、床に埋まっており、それ以外には何もない。壁際に蛇口がついていたような気もするが、覚えていないレベルだ。
 
浴槽の縁には「←あつ湯」「ぬる湯→」と書いてある。ビビりの私は迷わず「ぬる湯」を選んだが、あついじゃないか、あついよ、これ……
温度計があったので、どうにか近づいて見てみると、44℃を指している。
隣では、おばあちゃんが平然と「あつ湯」ゾーンで肩まで浸かっている。
これが湯どころ別府の人なのかと驚かされ、私は脱衣所であしたのジョーみたいに真っ白になって、のぼせてしまった。
 
その翌日には、歩いてすぐの銭湯「海音寺温泉」にも行った。別府では、「銭湯=温泉」なので、家で湯に浸かる習慣はほぼない。小さいこどもからご老人まで、みな近所の銭湯へ行く。
そこでは、脱衣所に入るとすぐにおばあちゃんに呼び止められた。
「これを肩にぬってもらえんやろか。」
渡されたのは軟膏だった。
まったく見ず知らずの人間に、軟膏を渡し、身を委ねるおばあちゃん。
おばあちゃんの湯上がりのほかほかした背中に手で直に軟膏を塗ってゆく。
おばあちゃんに「はい、大丈夫よ。ありがとね」と言われ、何ともいえないほっこりした気持ちになった。
これが「人の温かさ」かとまさに人の体温をとおして知った。そしてその後、懲りもせずにぬる湯でのぼせるのであった。
 
その後、銭湯にハマった私は、東京都内でも銭湯をいくつか巡るようになった。
広い湯船に、知らない者同士で静かに湯に浸かり、それぞれのペースでジャグジー風呂に行ったり、炭酸泉に移動したり、サウナに行ったりと、湯船を出入りする。
広い湯船がお気に入りであることはもちろんだが、この自由に出入りする感じが好きなところだ。
 
もっと好きなところは、銭湯で出会う人たちだ。
洗い場では「お湯出なくなったわね」と隣のおばちゃんと怪訝な顔を見合わせたり、露天風呂では小っちゃい子どもに「あついねぇ」と話したり、銭湯で湯船に浸かった分、正に「裸の付き合い」をした思い出が増えていく。
 
この間行った、東上野の寿湯では、人生で初めて「おかまドライヤー」にチャレンジした。昭和の美容院で、パーマをあてる機械があったと思うが、そのおかまの部分がそのままドライヤーになっている代物である。古めかしいソファに座り、おかまをかぶると、謎の上昇気流で髪の毛はくるくると風に巻き込まれていった。結果、半乾きにしかならず、しかも髪の毛はくねくねと波打つというへんてこな髪型になってしまった。しかし、私のことはどうでもいい。私のあとにおかまドライヤーをつかったおばあちゃんのことだ。おばあちゃんは、「せめて一枚でも引かなきゃね」と、そのおかまドライヤーのソファに全裸で座った。そのときの笑顔が忘れられない。おばあちゃんの髪の毛はちゃんと乾いたのだろうか。
 
昭和な「おかまドライヤー」があった一方で、最近は、リノベーションされた銭湯も多くある。例えば、銭湯の絵といえば、富士山のペンキ絵を想像するが、最近はペンキ絵の方が貴重で、プロジェクションマッピングの銭湯絵などもあり、スタイリッシュな印象だ。他にもシルク風呂や炭酸泉、露天風呂に岩盤浴と、うっかりまたのぼせてしまいそうな楽しめる湯船がたくさんある。
しかし、楽しい湯船だけではなく、銭湯に行くと必ず、おもしろい人たちに出会う。まるで白雪姫に食べさせる毒リンゴを作る魔女のようなおばあちゃんたち……もはやおばあちゃんたちは、毒リンゴをつくるためにぐらぐら煮立ったその鍋に浸かっているかのようだけれど、喜んでその湯船に浸かっている。7人のこびとのような子どもたちは、無邪気に湯につかり、あついあついと飛び出していく。
 
さて、私は白雪姫のようなつるつる色白美肌を目指してみようか。それとも魔女の仲間入りをしようか。
これからの銭湯ライフが楽しみでしょうがない。
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/69163

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2019-02-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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