メディアグランプリ

落ち椿はシンデレラ


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記事:丸山ゆり(ライティング・ゼミ平日コース)

「ああ~、ほんま、やっぱりうわさ通りやわ」

先の週末、私はひとり京都へ行ってきました。
人々でにぎわう京都の城南宮さんは、ちょうど梅の見ごろを迎えていました。

ちなみに、なぜか関西人は、「〇〇さん」と神社でさえも親しみを込めて、さん付けで呼びます。
住吉大社は、住吉さん。
今宮戎神社は、えべっさん。

いつかのテレビで紹介されていた、その見事な映像が忘れられなかったのです。
一年越しで観たかった、枝垂れ梅。

桜は、その開花が天気予報でも予測されるほどの、国民みんなが待ちわびる花。
それに比べ、梅の花は春の訪れを告げてくれるにもかかわらず、静かに咲いているように思います。
なんだかそんな可憐な梅の花を、今年はどうしても観たかったのです。

お天気にも恵まれ、春らしい青空の元、そこに咲く花々はそれぞれの意志があるかのように、自由に揺れていました。
初めて観る枝垂れ梅。
その庭で満開の時を迎えた梅は、なんとも色っぽいピンク色をしていました。
そのピンクの花が、細い枝のしなりとともに揺れる姿はさらに艶っぽいものです。
枝の揺れを見つめていると、時折ドキッとしてしまうくらいです。

梅の花は、咲き始めてから満開を迎え、散りゆくまでの時間がとても長いと言われています。
その妖艶な姿をたくさんの人に見せたい思いからなのでしょうかね。

何よりも、テレビの映像からでは味わえなかったのが、香りです。
むせかえるような鼻をつくようなものではないのだけれど、なぜかずっと忘れられないような、そんな香りでした。
人の記憶にひとしずくの印象を残してくれる、上品なそれにしばし酔いしれました。
時に風に吹かれ、花びらが舞い散る姿もまた、美しいと思えるものでした。

そんな梅の姿を写真に収めようと、多くの人が梅の花の周りに群がっています。
どの人も、目の前の梅を美しく撮ることに夢中で、梅の木ごと人だかりでした。
われこそは、最高の梅の瞬間を撮るんだ、という意欲が伝わってくるような熱気にも包まれていました。
梅を観ているようで、人を見ているような。
これも今の時代の一つの風景なのかもしれませんね。

そんなことを思いながら、ひとり梅林を楽しんでいると、あるものに目がひかれました。
梅の木と同じように、そこにはたくさんの椿の木があり、それぞれがまた誇らしげに立派な花をつけていました。
椿は濃い緑の葉の中に、赤いはっきりとしたフォルムの美しい花をつけています。
そのコントラストからも、とても美しいものです。
こんなにたくさんの椿を見たことがあっただろうか?
それくらい、また椿にも愛おしさを感じずにはいられませんでした。

梅とは対照的な花、椿。

見事な花を眺めていると、ふと足元で目がとまりました。
椿は、その散り方が潔いものです。
まだきれいな花がそれごとポトリと落ちるのです。
「えっ?まだまだしっかりと咲いていたのに?」
そんなふうに、こちら人間の期待を裏切るような花の一生にも思えます。

これまでの私の知識では、花は散って終わるもの。
ところが、椿の木々から早々に落ちたその花は、苔の上でさらにその美しさを放っていたのです。
あちらにも、こちらにも、その花の角度を計算しているかのように、緑一面の苔のキャンバスに描かれた絵のように。

この日、私が一番目を向けたのが、実はこの落ち椿だったのです。
息をのむような美しさに、しばし足が止まりました。
このような美しさがあるだろうか?
いや、これを美しいと思える私たち日本人の精神性は素晴らしいものだな、と。
それは、風情という表現を持ってでしか、あらわしようがない、そんな光景でした。
落ちてしまった花は、本来はそこでおしまい。
人はそんな花から目を離してゆくものです。
ところが、この落ち椿を観ると、残念どころか、グッと心をつかまれたような空気がそこに流れているのを感じました。

そう、それは子どもの頃読んだシンデレラの物語を思い起してくれました。
みすぼらしい姿で、不当な扱いをされているシンデレラ。
ところが、最後にはかぼちゃの馬車に乗って、王子様の元へと向かいやがてはお妃となったシンデレラ。

本来はみすぼらしい姿である、落ちた椿。
ところが、そこにはさらに美しさが加わり、まるで主役のように存在感が増しているのです。

それが証拠に、カメラを向ける人の数は、実は枝垂れ梅の木の前よりも多かったのです。
ああ、この風情ある美しい落ち椿。
本当は、この落ちてしまった花が主役になるだなんて。
落ちたからこその美しさ。
そんな後ろ髪をひかれるような光景。
それらを記憶に残して、私は城南宮さんを後にしました。 

 
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2019-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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