新卒ちゃんと学ぶCRM<入門編>
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:Kurosawa Arisa(ライティング・ゼミGW特講)
「あのぅ……先輩」
自席で資料と格闘している私に、もじもじしながら声をかけてきたのは今年の4月に入社したばかりの新卒ちゃんだ。身長155センチという小柄さと性格の人懐っこさに、密かに次代の営業として期待をかけている。
キーボードから手を放し、できるだけ優しく「どうしたの?」と聞いてみた。
「その……」
「質問かな?」
コクコクとうなずく新卒ちゃん。
「シーアールエムが、よく、わからなくて……」
歯切れの悪いそのセリフに、私は「あー、それは聞きづらいわな」と納得した。
今日の研修で我が社の製品について説明したのだが、そこで出てきたCRMの概念がうまく伝わらなかったらしい。ちなみにCRMは我が社製品の核となる概念なので、わかってもらえないとヒジョーにマズイ。新人研修マニュアルにまだ色々と改良が必要だなー、なんて思いつつ、この場で教えてみることにする。
「CRMがなんの略かは覚えてる?」
「えーっと、カスタマー リレーションシップ マネジメント?」
「そうそう。日本語にすると?」
「顧客……顧客関係管理?」
合ってるよ、という意味をこめてうなずいてみせる。
“顧客関係管理”ってこの直訳がなぁ、わかりづらいんだよな。まあ中身がわかるとこれしか訳しようがないってわかるんだけど、これがまずとっつきにくいよな。
自分の新卒時代を思い出しつつ思わず心の中で愚痴っていると、新卒ちゃんは研修で渡したテキストを席から持ってきて捲りだす。
「顧客との関係を構築・管理するマネジメント手法で、とにかく顧客情報と履歴情報をたくさん集めて? 分析して? お客様にアプローチするとたくさんお客様がくる、んですよね?」
なんで? どうして? と顔に張り付けて問いかけて来る新卒ちゃんに私はもっと手前から教えるべきだな、と判断する。
「とりあえず、その辺は一旦置いといて」
「はい……?」
不思議そうにしている新卒ちゃんを尻目に、机の引き出しからハガキを1枚取り出して手渡した。トマトパスタの写真の上に大きく〈お誕生日おめでとうございます!〉と書かれたハガキは、製品説明のためのサンプルハガキだ。
「こういう割引のついたハガキ届いたことない? もしくはメールとか?」
「あります! よくいく服屋さんのブランドとか、通販サイトとか」
元気のいい返事に、体験したことがあるなら半分はわかってるようなもんだな、と内心ほっと胸をなでおろす。
「通販サイトがわかりやすいからそっちで説明するぞ。通販サイトだと、最初に住所の他に生年月日を登録しないと使えないところもあるよな。なんでだと思う?」
新卒ちゃんは目をぱちくりとまたたかせると、手渡したハガキをじっと見る。
「こういうハガキを送りたいから?」
「正解!」
やったー! という顔で新卒ちゃんは「えへへ」と笑う。この愛嬌がいいんだよねえ。うんうん。
「通販サイト側からすると、きっかけは何でもいいからとにかく使ってもらえる回数を増やしたいんだ。割引で取れる利益が減ってもかまわないくらい使ってもらう機会を作ることを重要視してる。通販サイトを使うことを習慣化してほしいからね」
「うーんと……習慣化するとたくさん買ってもらえるようになるからですか?」
おお! 新卒ちゃんできる子!
「そうなんだよ! 使ったことがない通販サイトより使ったことのあるサイトの方が使うでしょ」
とりあえずここはこれで締める。でもここにも細かい理論はあって、3か月以内に3回利用されると固定客になりやすいというのがある。お店なりサイトなりの存在を必要な時に顧客に思い出してもらうためには、3か月以内に3回利用してもらうことが必要って話なんだけれど、新卒ちゃんに今話すのは早いだろう。
「習慣化してほしくて送る割引特典なわけだけど、たまに困る特典が来たりしない?」
新卒ちゃんに不思議そうな顔をされてしまったのでさらに付け加える。
「新卒ちゃんだったら、そうだな。例えば、おじさんが好きそうな時計の紹介とか、遠くの店舗でしか使えない割引券とか」
「あー。そういえば最近、チェーン店のレストランから新店舗オープンしました! て、近いけどあまり行かないところの割引券が届きました……」
「そういうのってさ、なかなか使ってもらえないし、送った側も送るコスト考えるとあまりしたくないんだよね。でもしてしまう。なぜでしょうか?」
うーん、と考え込む新卒ちゃんを待ちつつ、机に置いている熊のキャラクターが描かれたマイカップのコーヒーを飲んだ。
「私がどのお店を使うのか、お店の人がわからないから、ですか?」
「そう! わからないから、的のずれた割引券が届く。でももしお店側が今までどのお店に行ってたかを把握できれば、新卒ちゃんのよく行くお店の割引券が届くようになるわけだ。そしたら使いやすいよね? それをできるようにするのが、CRMです」
途中までうんうんと力を強く頷いていた新卒ちゃんがきょとんとした顔をしたあと、また考え込み始める。
「……お客様にとって必要なものを提案できるように、色々な情報を集めて分析をする、ってことですか?」
「そうだよ! 一旦新卒ちゃんが理解する分にはそれで大丈夫。細かい表現については、これから覚えていこうね」
「頑張ります……!」
※登場人物はすべてフィクションです。
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