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生前葬 〜死を思うことで、いまを生きる〜

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ヘルズキッチン(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
「生前葬をしよう」
そう思ったきっかけは、私の仕事のパートナー(A)が前立腺ガンになり、同じ時期にその父親(92才)が入院したからだ。
 
この15年、Aとは一緒に会社を作り上げ、ともに辛苦に耐え、ときには喜び、そして家族ぐるみでも一緒に過ごしたりしていた。
 
この春、Aとともに会社の雇用保険の健診で、人間ドックを受けた。
 
軽い気持ちで「コレステロール値、高いんだろうな〜」と笑いながら結果を聞けば、なんと前立腺に黒い影があるとのことだった。再検査が必要とのことで、専門の病院を紹介され、冷や冷やと検査結果を待った。
 
「前立腺ガンですね」
冷や冷やは、氷結に変わった。
 
「落ち着いて聞いて欲しいのですが、ステージが2なので、初期段階です。前立腺ガンは、ガンの中でも比較的治りやすい。切れば治る段階ですよ。100%治ります」
 
先生の穏やかで優しい説明で、ホッとしたのもつかの間、「ただグリソンスコアが高いです。グリソンスコアとはガンの『やんちゃ度』なのですが、10のうち8という数字はかなり高め。ガンが転移していないとは言いきれませんので、MRIを受けてください。転移していたら、切っても治りませんので」
 
またもや落ち着かない1週間が過ぎた。
 
ついに結果を聞きに行くと、
「転移なしです」
 
肩から首が落ちるかと思うほどホッとし、Aは素早く手術の日程を決め、4週間後には、摘出手術のため、入院することになった。
 
入院して5日後にお見舞いに行った。たまたまAの父親も車椅子でお見舞いに来ていたところだった。父親はちょうど、退院した頃だったようで、足も悪く病み上がりではあったが、息子が心配で駆けつけたとのこと。
 
二人は、しんみりとお互いの病をいたわり、本当に久しぶりにゆっくりと語っていた。お願いだから聞いて欲しいということで、私も同席しながら彼らのこれまでの半生を聞いていた。
 
父親も昨年、膀胱ガンを患い手術をして完治したものの、入院が長引いたせいで歩きづらくなってしまった。リハビリをしながらなんとか生活しているものの、そろそろ完全に歩けなくなるかもしれない。
 
いっぽうAは、仕事熱心で、ひたすら仕事一筋で駆け抜けて来たところ、今回のガンの宣告によって、初めて人生にブレーキをかけた。
検診の結果待ちの時に、「死ぬかもしれない」という思いを数週間も抱えていてことで、かなり落ち込んだり、有り難さを感じたりと、命の尊さを考え続けていたと。
 
父親も、ガンを克服したけれど、胸水が溜まったりして副作用も出始めており「いつまで生き続けられるかわからない」と笑顔でさらっと語った。
ただどれだけ自分が生かされているか感謝しかないと、二人は死を目の前にしたことで、今生きていることの大切さ、こうやって親子ともども語れる時間の大切さをしみじみと感じていた。
 
何より、聞いている私が励まされ、私も生かされている有り難さや健康でいられる大切さを心から感じたのだ。
 
たまたま同じタイミングでお見舞いに来なかったら、こんな大切な話は聞けなかった。人は病の時や、事故などになって初めて命の大切さや、周りへの感謝に気づくのだろう。
 
それで思った。
「生前葬をやりませんか」と彼らに話を持ちかけた。
 
「生きているのに、死ぬことを話すのは不謹慎」
そう言われて育った方も多いだろう。
 
反面、最近は「終活」という言葉も流行り、死ぬ前に、相続、事務作業、手続き、遺言など、一人で済ませなければならない「冷たい事務」的なことはしているかもしれない。
 
ただ、死んでから、感謝や愛情を伝えたりするのは遅すぎる。後悔してしまうだろう。そして死んだら天国には何も持っていけない。
ただ、愛だけは持っていける。
 
生きているうちに、死を見つめ、お互いに「生かされていることに感謝」する方がどれだけ嬉しいだろうか。
さらに、生きる活力が出るだろう。
 
私はこの親子のお陰で、「いまを生きること」の大切さ、愛情を分かち合う大切さを感じた。この感謝の気持ちを「生前葬」という場を持つことで、多くの友人や知人に知ってもらいシェアして欲しかったのだ。
 
「ぜひ、やろう。とてもいいアイディアだと思う。これを機に心配してくれた皆さんにも感謝を伝えるいい場になると思う」
と親子は快諾してくれた。
 
目標は10月。さあ、あと2ヶ月は、忙しくなってくる。そんな忙しさも、感謝しながら準備を着々と進めている。
 
 
 
 
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2019-08-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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