メディアグランプリ

資格マニアと呼ばないで


 
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記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「資格をたくさん持っているんですね。ひょっとして資格マニアですか?」
履歴書の資格取得欄を見た人から、このように聞かれることがたびたびある。転職活動での面接、職場に異動してきた新しい上司との面談等でこう聞かれると、「来た来た、いつもの質問」と思う。
 
私の仕事は「建物及び動力の管理」なので、専門の資格が無いと従事できない業務が多い。例えば電気、消防、化学品の取り扱い、排水処理等といった業務だ。会社として有資格者を選任して行政に届出をしなければいけないものもある。だから、決して趣味で資格を取得しているのではない。そして何よりも、私にとって資格を取ることは、新しい鍵を手にすることと同じなのだ。
 
私の資格人生の始まりは30年前に遡る。最初に取ったのは「秘書検定」だ。当時私は母の看病のため休学中だったが、そろそろ就職したいと考えていた。しかし、社会の一般常識をよく知らない。当時はインターネットなんてないから、私にとっての情報源は本屋だった。そこで見つけたのが「秘書検定」の本だ。当時、秘書になりたいという思いは特に無かったが、母の看病を通じて「人のお世話をする」仕事に興味が有った。それに、何より基本的なビジネスマナーを学ぶことができる。早速本を購入し、勉強した。「へぇ、そうなんだ」と思うことが多く、面白かった。そして、試験を受けて合格すると、もう一つ上を目指したくなる。結局2級まで取得して、最初の会社に入社した。
 
最初の会社の面接試験の際にどういう話をしたのか、今となってはあまり思い出せないが、秘書検定を取得した理由を話し、せっかく学んだので、できれば秘書業務をやってみたいという話をした記憶はある。入社後、しばらくは人事関係の業務に就いたが、半年位経った頃、事業所長の秘書業務を担当することになった。
 
その後私は結婚を機に会社を辞めた。しかし、4年も経つと何か新しいことを身につけたいと思うようになった。何をしようか? そうだ、学生の時に憧れていた「ブラインドタッチ」に挑戦してみよう。そう思い立ち、ワープロ検定に挑戦することにした。ブラインドタッチができるようになると、文字を打つスピードをもっと上げたくなる。最初は10分で300文字、次は10分で500文字……今までできなかったことができるようになると楽しい。そして、ワープロ検定に挑戦し、合格した。
 
すると、世の中は不思議なものだ。ある日、以前の勤め先の上司から電話がかかってきた。大量の文書を作成するのに人手が足りないという話だ。当時はまだ一人一台パソコンという時代ではなく、手書きの資料をワープロで清書するという時代だった。皆、手書き資料を作るのが精一杯で、ワープロに打ち込む人手が足りないらしい。私は二つ返事で引き受け、ワープロ打ちのアルバイトを始めた。
 
その時の職場が工場の「動力管理」を担当している職場だった。上司が作成する省エネルギーのための提案資料、社員の環境意識を高めるためのテキスト等を清書していく内に、「この仕事、面白そう。清書するんじゃなくて、中身を作る人になりたい」と思うようになった。でも私は工業高校出身でもなければ、大学で建築や工学を学んだわけではない。素人だ。周りの先輩や上司に相談すると、「何か資格を受けてみれば?」と返ってきた。そこで教えてもらったのが、「公害防止管理者」という資格だ。そして、これが運転免許以外で私が初めて取得した国家資格となる。
 
それからいくつかの資格を取った頃、「海外の工場で、排水をリサイクルする設備を導入する仕事があるから、やってみる?」という話が舞い込んできた。資格を取ったと言っても実務経験も無く、ペーパードライバーみたいな私にできるのかな? と不安だった。でも、やってみたい一心で飛び込んだ。そこから私の本格的な仕事人生が始まったのだ。31歳の時だった。
 
私は、何かを習得したいと思った時、資格を取るのが手っ取り早いと思っている。基礎となる理論、関連する法律、実際の技術的な内容を体系的に学べるからだ。それに、目標ができると学ぶ意欲がわく。合格すれば、さらに次を目指したくなる。つまり、新たな目標ができるのだ。ステップアップに向けた道筋が現れてくる感じだ。
 
そして、私にとって資格とは、新しい扉を開ける鍵だ。なぜなら、資格を取ると、いつも新しい扉が開かれ、そこから新しい道が開けてきたからだ。実務経験が無いペーパードライバーであっても、「学んだ」という事実とその「証し」が背中を押してくれた。もし、資格を持っていなければ、せっかくチャンスが舞い込んできても、尻込みしてしまっただろう。
 
もしあなたの周りに資格を沢山持っている人が居たら、資格マニアとは呼ばないでほしい。代わりにこう言ってあげてほしい、「沢山の鍵をお持ちですね」。
 
 
 
 
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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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