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週刊READING LIFE vol.139

お願いだから、僕にお支払いをさせてください!《週刊READING LIFE vol.139「怒り」との付き合い方》

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2021/08/16/公開
記事:森 団平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
僕はお金を払おうとしたのだ。そう! 払いたかった。
でも怒りを抑えられなかったことについては少し反省している。
 
カフェでリモートワークをしていた、ある日のことだった。
「プツッ」
突然、パソコンの画面がブラックアウトした。
えぇーそりゃないよ!
このカフェに来てからまだ2時間も経っていない。
作業もメールの返信を書いていたくらいで、さほど重い作業もさせていない。
このパソコンのバッテリー、カタログスペックで確か8時間は持ったはず。
そんなに早く切れるわけがない。
そんなことより、作っていたメールは?
すぐに家に帰って電源に接続したが、案の定メールは消えていた。
けっこう書くのに時間がかかったのに。はぁ。
 
その2週間後、オフィスでリモート会議をしていた時だ。
またもや、うちのパソコンがブラックアウトした。
会議を始めて一時間も経っていない。再度電源を接続し直して会議に参加したが、相手先には平謝りしてなんとか許してもらった。
本当にうちのパソコンはどうなっているのだろう。
 
仕方がないので、PD(Power Delivery)と呼ばれるパソコンでも使えるUSB充電器を買った。外出先で電源がなくてもこいつさえあれば、長時間仕事が出来る。
出来るはず?
 
このアイデアはある程度成功した。PDを繋げば8時間業務も十分可能だ。
しかし、うまくいかないこともある。PDの充電を忘れていたり、カバンに替え入れ忘れたりする。そういう時に限ってリモートワーク中に電源が切れるのだ。
その結果、僕も遂に諦めた。
 
このパソコンは何かがおかしい。
そこで改めて、ネットで調べてみた。
バッテリーが減ることはあるのだろうが、こんなに減ってしまうものなのか?
調べてみると長く使い続けていると確かにバッテリーは弱くなっていくらしい、とはいえ普通は半分くらいまでで2時間で切れるようなことにはならないらしいが。
自分のパソコンを調べてみたら、バッテリーの総量が、購入当初の20%まで減っていた。そりゃ持たないわけだよ。
しかし、このパソコンを使い始めて3年くらい、そんなに減るものだろうか?
これは不良品案件ではないのか?
 
そう思って、購入した業者に連絡してみたところ、
「修理はうちでは取り扱っていないので、サービスセンターに連絡してください」と言われた。お任せ出来たら楽だったのだが、仕方ない。
 
それからすぐに、某社サービスセンターに連絡してみた。
電話をかけると、電子音と共に機械音声が流れる。
あーこれは長い奴だな……。
購入ですか? お問い合わせですか? 個人ですか? 法人ですか?
一つ一つ選択していくこと約5分、うんざりしたころ、やっと窓口に人が出てきた。
「お客様、要件は何でしょうか?」
「御社のパソコンですが、バッテリーが20%まで落ちています。まだ3年しかたっていないのですが不良品ではないでしょうか?」
「3年たっていると保証期間を過ぎていますので不良品としては対応致しかねます。」
 
まぁ仕方ないか。そう言われるとは思っていた。
「では、有償で構いませんので修理をお願いします。」
「わかりました、では指定の住所まで送ってください。」
「送りますが、どの程度掛かりますか?」
「2週間程度です」
……、えっ2週間!!
2週間もパソコンがなかったら仕事が出来ない、リモートワークが出来なくなるのは死活問題だ。
 
「2週間は待てません、代替え機などは出せませんか?」
と聞くと、出せないとのこと。
この時点で、なんだか怪しいものを感じていたのだ。天下の大企業の対応としてどうなのか?
まぁ出社すれば、会社に予備のパソコンもあるので何とか仕事は出来なくはない。諦めよう。と思い梱包してパソコンを送った。
データをサーバーに移して、パソコンを初期化してから送るので結構手間だ。
 
パソコンを送ってなんと2営業日後、思っていたよりすんなりと修理されたパソコンが届いた。早くほしいとお願いしたかいがあったかな?
修理と言っても、聞いたところによるとバッテリー換装した他の機体を送るだけらしい。
 
改めてバッテリーをチェックすると、新品と同じ8時間は持つだけの容量が復活していた。
おかげで、リモートワークもリモート会議もバッテリーにビクビクしながらやらなくていい。
よかった、本当に良かった。
 
そう、本当ならこの話はそれで終わるはずだった。
しかし、ここからが本当の闘いが始まることになる。
 
そう、「お支払い」だ。
 
支払いの手順は、修理品が届いた後一週間後くらいに、メールで請求書が届くとのこと。
しかし、1週間後、請求書が届かない。
もしかして、請求担当者が忙しくて手が回っていないのかもしれない。
天下の大企業様に限ってそんなことはないと思うが。
 
更に一週間待った。しかし請求書は届かない。
迷惑メールに分類されているかもしれないと思ったが、やはりなかった。
 
これはおかしい、なにか手続き漏れで請求書が発行されていないのではないだろうか?
そう思い、サービスセンターに電話を入れる。また5分自動音声に苛立ちながら、一つ一つ応えていく。
応対に出たサービスセンターの人は、事務的だがしっかりと状況を聞いてくれて、
「遅れていますが請求書を発行するのでお待ちください」
と説明してくれた。
良かった。これでお支払いが出来る。サービスを受けた以上ちゃんと対価を払うべきだ。
 
そして待つこと一週間待望のメールが? メールが届いた。一応。
 
件名に「Invoice ○○、企業名」そして、本文には何も書いておらず、添付のみのメール
怪しい。怪しすぎる。修理をお願いしていなかったら企業名が書いていなかったら絶対開けない感じのウイルスが入っていそうなメールだった。
しかし、怪しいとはいえこの添付が恐らく請求書だろう。
 
恐る恐る添付を開けると、そこには、企業名、修理の受付番号、そして請求額が書いてあった。
良かった、請求書だ。これで支払うことが出来る。
 
支払うことが出来る……。 支払先は?
支払先が書いていない! その請求書には支払方法も、口座番号も何も書いていなかった。もちろん別途支払先について情報を貰っているわけでもない。
 
これじゃ支払いできない!
なんだよ! 三週間も待ったのに。
 
直ぐに、僕はサービスセンターに電話をかけた、都合三回目だ。
修理受付に繋がり、現状を伝える。
「請求書に、請求先が書いていないのですが、どこに払えばいいのですか?口座番号を教えてください」
口調が尖り、早くなる。
 
帰ってきた返事は、
「こちらは修理受付窓口になっておりまして、請求についての問い合わせは別の窓口になります。
「では、請求関係の窓口に繋いでください」と言うと、
「こちらからは繋げませんので再度こちらの電話番号までお電話ください」
えっ、なんで繋げないの? こういうのってサービスセンター内で連携しているんじゃないの? 血圧が上がってくる、落ち着け、まだ大丈夫。
 
諦めて、教えられた電話番号にかけると、そこで言われたのは、
「こちらは個人の窓口になっておりまして、法人様については、別の連絡先になっております。電話番号をお教えしますのでそちらにかけてください」
 
あっ、ダメだ。さっきはギリギリ耐えたのに、何かが頭の中でプツって切れる音がした。
 
「先ほど、御社の修理担当からこちらにかけるように言われたのです、そこが違うということは、そちらの落ち度だと思いますので、電話を掛け直させるのではなく、そちらが電話を繋ぐべきだと思いますが、いかがでしょうか!」
 
沈黙が落ちた。三秒後、こちらの意図を組んでくれたのだろう、担当者は、法人の窓口に繋いでくれた。
やっと、これで正規の窓口に繋がった。これで支払いが出来る。
そう僕は安堵した。
 
そして、VS法人請求担当。
そうもうこれは闘いだ。僕がしっかりお金をお支払いするための闘い。
 
もう、こちらの状況を説明するのも三回目だ。うんざりする。
なにも引継ぎしてくれないので、全部自分で説明しないといけない。
僕はお支払いがしたいだけなのに、某携帯会社も、某保険会社ももっとスムーズに連携しているぞ。
 
「というわけで、御社に支払いを行いたいのですがどうすれば良いでしょうか?」
帰ってきた答えは「請求先については、別の窓口が担当しておりまして」
「えっ、ここ法人窓口でしょう? そう教えられて繋いでもらったのですが!」
息継ぎもせず続けて言った。
「僕は支払いがしたいだけなんです! 口座番号を教えてくれればいいんです」
はぁ。どうなってるんだ、某大手! ここまでたらいまわしにしておいて、更にまわそうって言うのか! 余計に回るのはお皿だけで十分なんだ。
 
こちらの、意図が伝わったのか?
「わかりました、現在システムの不具合もあり、少々時間がかかるかもしれませんが、担当部署より再度請求先についてご連絡させていただきます」
と返答があった。
ガチャン、と受話器を置く。
はぁ~~、と長いため息を着いて、椅子にぐったりと座る。
そうして周りを見渡すとちょっとビックリしたような同僚と目が合った。
 
あっ、やっちまった……。
顔が熱くなっていくのを感じた。あの剣幕で電話をしている僕を見てどう感じただろう?
なんで、あんなことで熱くなってしまったのか。もう少し冷静に対応が出来たのではないか。グルグルと熱が頭の中を巡っていく。ダメだ。
 
「お騒がせしました! 申し訳ありません!」
とだけ伝えて、夕暮れのオフィスを後にした。
 
あ~。どうしたんだろう? 自分が、情けない。 向こうは向こうであの対応はどうかと思うけど、こんな場所で怒りを露わにするなんて、社会人のやることではない。はぁ~~。
 
家に帰る気にもならず、東京駅に向かって歩く。
ダメだなぁ。グルグルと自分に対する怒りが巡る。
東京駅を通り過ぎた、次は水道橋を目指す。家とは反対方向だ。
でも、とにかく歩きたかった。
怒りは収まらない。でも歩いているうちに疲れてきたのか。何も考えられなくなってきた。
水道橋を越えて更に歩く。そのまま歩くといつの間にか新宿に着いていた。
ざっと10キロ以上は歩いたことになる。
身体はずっしりと疲労を訴えていたが、頭はいつの間にか軽くなっていた。
何はともあれ疲れた、ちょっとどこかで休もう。
 
コーヒーでも飲もうかと目についたカフェに入ると、そこはパティスリーだったようで、たくさんのケーキが並んでいる。疲れたし食べてもいいかな。
ショートケーキ、チーズケーキ、モンブラン、どれも美味しそうだ。
でも、今、僕が食べたいのは、そこのシュークリーム!
帽子のように乗せられたシュー生地の下には、生クリームとカスタードがぎっしりと、うずたかく積まれているそのシュークリームが食べたい。
スプーンでクリームをすくって、口に運ぶと甘さが身体に染み渡っていく。
次は苦めのコーヒーを飲むと、脳細胞が冷却されて引き締まっていくのを感じる。
疲れた身体には、シュークリームが一番。異論は認める。
でも僕はシュークリームが好きなのだ。
 
無心にスプーンを動かして、最後にシューをつかんで口の中に放り込んだとき、僕は元に戻っていた。元の穏やかな自分に。
 
頭を空っぽにして、そして糖分を取り込む、大体の怒りはこれで収まる。
 
今日は、失敗した。
間違いなく失敗だろう、でもやってしまったことは仕方ない。
明日、同僚にはちゃんと説明しよう。
そしてこれからは、ちゃんと怒りをその場で押さえられるように注意しよう。チョコでも食べれば大丈夫。
 
あれから数ヶ月。
某社からは何の連絡もない。
メールも電話番号もご存じのはずだが、なぜだろう。
きっとシステムの不調とやらがいまでも続いているに違いない。
 
僕はお金を払おうとしたのだ。でも支払先を教えてくれない。
そう、だから仕方がないのだ!
 
 
 
 

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2021-08-16 | Posted in 週刊READING LIFE vol.139

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