『ガイアの夜明け』俺のフレンチ「回転率の錬金術師」坂本孝氏《READING LIFE EXTRA》
とある企業の新年会の会場、70歳を超える社長が社員たちの前に立ってスピーチします。
居並ぶのは、日本でもトップクラスのシェフ30人と従業員たち。
彼が従えるグループ店舗の自慢のシェフたちでした。
彼は、海千山千の一流シェフたちに向かってこう言います。
「(1000万円以上とっている)銀行の支店長よりもいい報酬をとらなかったら夢を実現できない」
彼こそは、今話題の立ち食いレストラン、「俺のフレンチ」、「俺のイタリアン」などを仕掛ける会社の社長坂本孝さんでした。
坂本さんの言葉に、明らかにシェフたちの顔が変わります。
たしかに、人生や仕事はお金では換算できないかもしれない。けれども、坂本さんが言うように、お金があれば、自分の店を開くなど、夢は膨らむのです。
「原価ジャブジャブ使ってください。人件費ジャブジャブ使ってください」
そう坂本さんが言うように、坂本さんが展開するレストランでは、業界の常識とは逆行した戦略をとっています。原価を切り詰めることなく、人件費を切り詰めることもなく、それでいて、一流の料理を信じられないような低価格で提供している。
それを可能にしているのは、坂本さんがある「錬金術」をこの業界に持ち込んだからでした。
それこそが、「回転率の錬金術」でした。
そもそも、高級レストランは、価格は高いけれども、回転率がとても悪い。けれども、「俺のフレンチ」は違います。立ち食いにすることによって、回転率を上げ、それで低価格化を実現してしまったのです。
しかも、その目標も実に明白です。
2,5回転以上で黒字になる。
そして、連日行列になることによって、この回転率はゆうに超えているのです。
誰もが目につけていないところにフォーカスを当てて、それを金に変えてしまう。坂本さんがやっていることは、まさに現代の錬金術です。まさにビジネスとは、こういった独自のフォーカス・ポイントを見つけることが、主眼となってくるのではないでしょうか。
もちろん、これは8月末にオープンさせる予定の1店舗目のリアル書店「東京天狼院」においても言えることです。誰もが思いつかないフォーカス・ポイントを得るために、僕は今、天狼院オリジナルの10のビジネスモデルを構築準備中です。乞うご期待。
ちなみに、坂本さん、来歴をみてみると面白いことに気付きます。
ブックオフの創業者だったんですね。
新古書店業と高級レストラン。一見、まったく違った業態に見えて、きっと坂本さんには同じに見えていたのでしょう。
ブックオフでも坂本さんは革命的なシステムを導入しました。
それまで、「目利き」しかできなかった本の買取を、アルバイトスタッフでもできるように、書名によらずに値段を決めることにしたのです。それで、古書店業でもっとも問題となる「買取」をクリアし、ブックオフはその業界の王者となります。
つまり、ここでも、坂本さんは自分だけの「フォーカス・ポイント」を見つけていたということになるでしょう。
そこに錬金術が可能なフォーカス・ポイントを見出すことができれば、坂本さんにとって、業界の同異など些細なことでしかないのだろうと思います。
まさに、ビジネスの錬金術師。
我々は、坂本さんから多くを学べるのではないでしょうか。