『ガイアの夜明け』魚を置かない魚屋「iPad魚屋さん」《READING LIFE EXTRA》
世の中、本当に便利になって参りました。
iPhoneにiPad、クラウドに無料通話アプリと、技術は確実に進歩しています。
そして、それにつれて、それを使いこなす方のビジネスモデルも進化を遂げているようです。
お金をかけずに店を持てる時代。
そんなフレーズが、現実のものとなって参りました。
その恩恵を受けているのは、会社というより、個人単位の方々です。
魚を置かない魚屋さん。
それじゃあ、魚屋じゃないだろうと思われるかも知れませんが、実際に、ちゃんと魚屋さんなんです。
東京吉祥寺で、タブレットだけをおいて魚を売っている方がいます。吉川仁さんです。
その方法が、実に、シンプルかつユニーク。
吉祥寺と北海道の小樽の店を、iPadとiPhoneで繋いでしまっているんですね。双方向で、テレビ電話のようにやり取りができて、東京にいながらにして、小樽の店に並べられた、今朝水揚げされたばかりの魚を、吟味して、小樽の魚屋さんと値段の交渉などをして、購入することができる。購入した魚は、北海道から配送され、吉川さんには売上の15%が入る仕組みです。
この「iPad」魚屋さん。吉川さんは平日はトラックの運転手をしているので、週末だけ開いているそうです。
誰もが簡単に思いつくようなシンプルなビジネスですが、誰もが実際に実行に移せるわけではありません。
このやり方を聞きつけてやってきたのが、三軒茶屋の洋品店の老舗「三恵」の三代目、飯島さんでした。
大手に客を取られてジリ貧になっていたお店でしたが、起死回生で吉川さんのやり方を導入しました。
すなわち、店にカメラを置いて、一方で、お買い物にいけないお年寄りのために、店をiPodに込めて老人ホームに向かったのです。
昔、三恵の常連だったご婦人は、iPadを通して、およそ十年ぶりに大好きだった三恵の店舗に入ることができました。そして、店内の店員とのやり取りを通じて、いくつか買い物ができたのです。
「懐かしい。本当に店で買物をしているようだった」
そう感激しているご婦人を観て、僕はあることを思い出しました。
それは、43年間書店員をやられていた、紀伊國屋書店の加藤敦子さんからの宿題でした。
「43年間、書店人をしてきて最も後悔していること」加藤敦子さんに聞く《書店をゆく番外編》
「これからは、体が弱って書店に来られない高齢者のために、本を届ける仕組みを考えなければならないと思うのよ。まだ体が動いたり、インターネットを使える人はいいんだけれども、本を読みたくても、書店に行けない人が大勢出てくると思う。そのための仕組みがあるといい」
iPad魚屋さん、そして、三恵さんのやり方は、加藤さんの宿題に対する答えになっているのではないでしょうか。
たとえば、家や病院、老人ホームに居ながらにして、書店で買い物ができる。
この仕組ができたとき、喜んで頂けるお客様が増えるのではないでしょうか。
そんなことを思ったのでした。