「拡大するAKB商法:愛情を“狂気”へ狩り立てるもの」~【ニワカ的アニメ時評】
*この記事は雑誌編集部に参加されている川方賢史さんに書いて頂きました。
先月10日、兵庫県明石市の雑木林に「大量のポテトチップス」が投棄され、容疑者として20代の男性が逮捕される事件が発生しました。以下に事件を報じた“毎日新聞”からの記事を引用します。
~逮捕容疑は5月4日ごろから23日ごろの間、神戸市西区や明石市の雑木林など計6カ所に、ポテトチップス計約1000袋が入った段ボール箱89箱(重さ約208キロ)を不法投棄した、としている。「大量に購入したが、処理に困って捨てた」と容疑を認めているという。
同署によると、ポテトチップスには声優の水樹奈々さんのコンサートチケット応募券が付いており、A容疑者は応募券を切り取って中身を食べずに箱に詰めて捨てたという。応募の締め切りは5月末だった。~
“水樹奈々”さんは声優でありつつ、歌手としても活躍されており、年末の紅白歌合戦にも2009年から昨年末まで5年連続の出場を果たしています。東京ドームや西武ドームでのライブも開催するなど、非常に人気の高い「声優歌手」であります。公式ホームページはこちら→http://www.mizukinana.jp/ ※声優歌手は私の造語。
今回の事件の発端と思われるのが、水樹奈々さんと投棄されたポテトチップスの販売元である「カルビー」のコラボレーション企画。本年の8月3日に実施される「横浜スタジアムLIVE」の”バックステージ”へ10名のファンが招待されることになっていました。逮捕された容疑者は「バックステージにいける特典がついていたため…」と供述しています。
「バックステージ」ですので、普段なら到底“入ることの出来ない”エリアで、憧れの歌手に会える(水樹さん本人と会えることが、キャンペーンの特典に明記されていました)訳で、熱狂的なファンであれば、何としても手に入れたい権利であっただろうことは間違いありません。その「情熱」が今回は“間違った方向”に発揮されてしまった模様です。
それとは全く別に6月24日、今年の4~6月にかけTV放映された、あるアニメ作品のBlur-rayディスク売上枚数が話題になりました。作品タイトルは「ラブライブ!」(公式ホームページはこちら→http://www.lovelive-anime.jp/)と言い、入学志願者減から「廃校の危機」に瀕した在籍する母校を救うため“スクールアイドル=学校に在学している生徒がアイドル活動を行うもの”として活動を始めた女子高生達の物語です。
※前回の記事を読まれた方は「なんか、どっかで聞いたような…?」と思われるかもしれませんが、最近この手の設定が流行っています(笑)
今回発売となったのは、同アニメの「2ndシーズン第1巻」なのですが、その売上げ枚数がなんと「8万2千枚」(!)。同じく前回の記事にて紹介した「メガヒット作品:魔法少女まどか☆マギカ」の売り上げ枚数「7万枚」を超えるという“驚異的な販売枚数”を叩き出しました。それだけ聞くと、大変な人気を誇る作品…と思われますが、実はその裏側で先に紹介した「ポテトチップス投棄事件」を彷彿とさせるような出来事が起きていました。
【爆売れ】『ラブライブ!』BD第1巻の売上は8万2千枚!!しかしヤフオクではディスクだけ絶賛投げ売り中wwwww →http://blog.esuteru.com/archives/7740631.html
リンク先の記事を参照頂ければ、“からくり”がお分かり頂けると思いますが、驚異的な販売枚数を記録した「ラブライブ!」のBlur-rayディスクにも「ポテトチップス事件」と同じく”特典”が存在しました。
来年の1月31日、2月1日に開催される、同アニメ出演“女性声優”による”ミュージックLIVE公演”のチケット最速先行抽選申込券。この特典目当ての「ラブライバー(ラブライブファンの別称)」が、大量のまとめ買いを行い、「不法投棄」こそ行わなかったものの、オークションサイトで不要なディスクを“投げ売り”した…と言う出来事です。
もう既に、皆さんお気づきかと思われますが、以上の二つの出来事には“明白な共通点”があります。実際に販売されている“商品それ自体”ではなく「特典サービス」が目当てのファンにより、引き起こされた点において、ほぼ同じ現象と言えるのです。
さらに勘の良い方はタイトルに掲げた「A○○商法」との関連も、お分かりいただけると思います。お分かりでない方のために念のため、参考となる以下のリンクを紹介させて頂きます。
AKB商法とは – ニコニコ大百科 – ニコニコ動画
→http://dic.nicovideo.jp/a/akb%E5%95%86%E6%B3%95
リンク先にてご確認頂けるように、その方法には様々なものがあります。アニメ業界からは、現状まだ直接的な“批判”は挙がっていませんが、芸能界(特に音楽業界内)からは批判的な意見がいくつか出ている模様です。
販売側がある意味、“ファン心理”を逆手に取り、商品の「複数もしくは大量購入」させようとする手法は、確固とした「売上」が必要なビジネス面からは止むを得ないのかも知れませんが、あまり褒められたものでは無い気がします。
またクリエイター側から意見を述べるならば、本来「価値判断の基準」となるべき、創り上げた「コンテンツ」自体ではなく、「おまけ」で販売を促進する方法は、ある意味「バカにしている」もしくは「本来の“コンテンツ”価値自体を貶める」ものです。はっきり言えば「舐めてんのか?この野郎…」と言うところ。※「おまけ」をつけることで“爆売れ”する作品は、そもそもの“コンテンツ”自体に「力がある」ことに他ならない場合が多いのではありますが…。
前回の記事でお伝えした通り、現在のアニメ業界ではTV放送した作品をBlur-rayディスクなどへソフト化した売上で製作費を回収するモデルが一般的(注!:出版社が企画元の場合、書籍やコミック等の販売向上があれば「OK」と言うスタンスの企業もあります)のため、どうしても「数を稼ぐ」必要があるのは理解できます。
が、あまりにも「その事のみ」に偏ってしまうと、今回発生した「不幸な出来事」のような事件も起こります。また繰り返しになりますが、「コンテンツの価値そのもの」を製作側から貶めるような“やり方”についても一考の余地があると思われます。
さもなければ、同様な“事件”が繰り返されるでしょう。なぜなら「アニメファン(特に“ガチオタク”)」ほど、“盲目的に愛情を作品(および周辺設定)に注ぎ”、時に“狂気”とも言うべき「偏愛」を示す種族はいないからです(対抗できるのは「ドルオタ(=アイドルオタク)」か「鉄オタ(=鉄道オタク[“てっちゃん”とも言います])」くらいでしょうか)。
かく言う私も「にわかオタク」を気取ってはいますが、アニメ関連本は「何冊あるか分からない→50冊位はあると思う」状態。テレビ放送を録画したBlur-rayおよびDVDディスクが「150枚」を軽く超え、愛用のi-Phoneには「アニソン=アニメの主題歌」などが200曲以上収録されています。※でも、このレベルは「にわか」なのです(笑) 真のオタクの道は厳しいのです!
真のオタクとは、作品のシリーズ化のために「お布施(=関連商品を購入すること)」を払い、関連フィギュアを多数買い求め、好きなキャラクターがプリントされた「抱き枕カバー」と共に眠りにつく…そんな人々です。毎年2度の“コミケ”で「薄い本(=同人誌)」を購入し、次々と販売される過去作品の「Blur-ray-Box」をもひたすら買い揃え、“搾取”され続けることを「自嘲気味」かつ「マゾヒスティック」に肯定する…。それが真の“オタク”なのです。
願わくば、これ以上の“狂気”が発生しませんことを…。
©2013 プロジェクトラブライブ!
川方賢史さん、ありがとうございました。
前回に引き続き、アニメ界の記事!いやあ奥が深い。
次回も楽しみにしております!(天狼院書店スタッフ山中)
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