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好きになれない女は、結婚を決意できるのか《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:べるる(プロフェッショナル・ゼミ)

「僕と結婚してください。一生大事にします」
一生に一度のプロポーズの瞬間。私は「はぁ……。本当に私、結婚するのか……」と、頭の中の9割が不安だった。1割あった嬉しさから「ありがとう。嬉しい」という言葉を、かろうじてひねりだした。
だから、何て言われたのか覚えていない。こんな言葉を言われて人並みのプロポーズというものをされたのか、記憶にない。ただ一つ「僕は家業を継いで仕事を全うしたい」と言われたことだけは覚えている。
私が好きになった人は、家業を継いで両親と一緒に仕事をして、両親と同居したいという人だった。

私はあまり人を好きになれない。恋愛体質ではないのだと思う。いいなと思う人からは相手にされず、いいねと言ってくれる人は拒絶する。「付き合ってみないと分かんないじゃん」と言われるけれど、付き合わなくても分かる。興味のもてない相手と、気を使ってメールのやりとりをするなんて苦行でしかない。恋愛体質の人は、これが苦行ではないのだろうなぁと、恋愛経験値をあげていく友達を見ながら、私は思っていた。

大学に入ってから「嫌じゃない」と思う人に出会った。好きではなかったが、嫌ではなかった。なので付き合うことにしたのだけれど、これがよくなかった。1年ぐらい付き合って、相手の浮気が原因で別れたのだが「捨てられるぐらいだったら、もう一度取り返して私から捨ててやりたい」と思って、しばらくの間泥沼の三角関係になってしまった。最悪もいいところで、なかったことにしたい過去である。

この経験から私は学んだ。
「好き」な気持ちがないと、泥沼になるということを。

好きじゃないから執着してしまう。好きじゃないから、自分から捨ててやりたいなんて、自分のことばっかり考えてしまうのだ。

だから、次は自分から告白できるぐらい好きになった人としか、付き合わないぞと誓う。

自分の気持ちに忠実でいること、相手を尊重すること。それとお互いが納得する着地点を模索すること。これが一番後悔の少ない恋愛の仕方なのではないかと、大失敗を元に私は考えた。

それからしばらくして、私には仲のいい男の子が出来た。メールするのも会うことも苦行ではなかった。楽しかった。自分の中に「好き」という気持ちを見つけてからは、「好き」な気持ちに忠実でいることを大事にした。付き合うようになってからも、それは同じだった。
自分の気持ちに忠実でいること。相手を尊重すること。お互いが納得できる着地点を模索すること。それだけを気をつけた。

「卒業したら、実家に帰る。ついてきて欲しい」
ある日、彼からそう言われた。
でも、私は嫌だった。一人で生活してみたかったし、やりたいこともあったし、就職も決まっていた。恋愛は遠距離でも出来るけれど、やりたいことは出来ない。

これはもう終わりかもしれない。

今までも、もう終わりかもしれないと思う瞬間は沢山あった。これ言ったら嫌われるかも、これ言ったら喧嘩になるかも……。だけど、私は相手が不快にならないように気をつけながら、自分の意見を話してきた。自分の気持ちに忠実でいたかったから。相手の意見も尊重したかったから、相手の話もきちんと聞いてきたと思う。そしてお互い納得のいく着地点を見つけてきた。だけど、今回はさすがに無理だろうなと思う。だけど、仕方がない。

「私はまだ行けない」
そう正直に伝える。
彼は「うん、分かった。まだいいわ」と言った。
「え? いいの?」拍子抜けするぐらいあっさりなんですけども。
「うん、いいよ。応援する」
私達は600kmの遠距離に住むことになったけれど、遠距離恋愛なんて大体が続かないし、まぁはっきり言ってもう無理だろうなぁと思っていた。

だけど、予想外に続いてしまって、3年が過ぎたあたりで結婚の話が出た。
そろそろ結婚してもいい時期なのかもしれない。なんというか、今がタイミングなような気がする。今を逃したら、もうこの人とは結婚は出来ないような気もする。
だけど、具体的な日程を考え始め、プロポーズをされても私の気持ちは不安でいっぱいだった。

彼のことは、好きだと思う。
だけど、好きな気持ちだけで、結婚は出来るのだろうか? 

恋愛と結婚は違うと、いくら私でも何となく分かっている。恋愛は2人だけの問題だけれど、結婚となれば両親とか親戚とか関わる人も増えるし、子どもが生まれたら養っていかなくてはならない。今までと違うんだろうなということは、分かってはいる。

しかも、相手は同居を望んでいるので、両親と兄弟とも関わる生活になる。家業のことは気にせず外で働いていいと言われているので、これはとりあえずいいとするけれど、なかなかハードルが高い……。同世代の子で、義理の両親と同居したいなんて人はまずいない……。キッチンと玄関は別の二世帯同居だけれども、大丈夫なのだろうか。

そして、私は仕事もやめ、地元も離れて、知り合いもいない土地に1人で行く。
……ハードルが高すぎる。

「好きだから」という理由だけで、持ち点全部を賭けてしまっていいものなのだろうか? 普通、もっと将来性とか経済力とか色々加味して結婚相手って決めるんじゃないのかな? リスクを配分して、持ち点を賭けるんじゃないのかな? 
「好きだから」ってだけで、結婚を決めてもいいのだろうか。ギャンブルみたいじゃないか。

いや、もちろん、彼からちょこちょこと情報は聞きだして、家のこととか、仕事のこととか聞いている。「仕事はちゃんとしてるし、親はうるさくないから大丈夫」と言われる。たぶん、その通りだと思う。だけど、ちょっと腹が立つ。私のこと考えてる? あなたは今まで通りの生活だけれど、私は大きく生活が変わるんだよ。分かっているのか。「わかってる」というが、なぜそんなに受け答えが軽いのか。重く言ってもらっても困るが、軽い。

そうやって結婚について考えすぎてしまったらしく、ある日突然、職場の男の人が全員気持ち悪くなった。現実が受け止められなくなったのだ。

私が働いていた部署は男性が20名、女性が4名という男が多い職場だった。10代~50代までの色々な年齢の人がいて、仲が良かったのでお昼休みや休憩中や移動時間に、よく喋っていた。仲は良かった。なのに急に、若者も尊敬する上司も、仕事を教えてくれた先輩もおじさんも全員、気持ち悪くて仕方なくなった。喋るのも嫌になり、男の人が使った直後の固定電話を使うことも出来なくなった。
仲が良かったから、みんなオープンに色々話すぎていた。10代の子は「彼女いるけど、同期の子も狙ってるんですよ」と、平気で私に言ってきたし、20代の子達は風俗にハマッていて、私の前でも堂々と情報交換をしていた。30代と40代の人たちは、仕事と家族サービスでとにかく疲れていて、住宅ローンに悲鳴を上げていたし、50代のおじさんたちは、子どもの学費を払うのが大変だと言いながら、せっせと浮気していた。

今まで話半分に「はいはい、そうなんですねー」「ばかだなぁ」と聞いていたこと全部を間に受けて聞くようになってしまった。
「男ってこんなもんだよ」「結婚てこんなもんだよ」「ちゃんと現実見てる?」「好きだからって浮かれてるんじゃないの? 良く見えてるだけじゃないの」と、言われているようだった。彼らの言動の一つ一つが、私には悪魔の囁きのように聞こえてきた。

彼らがいるのが現実で、私が夢を見ているだけのような気がした。「好きだから何とかなる」と、浮かれているだけのような気がしたのだ。

これが、現実というものなのか。
これが、結婚というものなのか。
なんだか恐ろしくなった。私の許容量を超えてしまって、現実も男の人も受け付けられなくなった。

それなのに、彼と彼の家族は気持ち悪くなかった。
義父と義弟と喋っていても、気持ち悪くなかった。みんなが食べた食器を片付けても何も思わなかった。

それは不思議な安堵感だった。世界中の男の人が全員気持ち悪くなっても、この家の人は大丈夫なのかもしれない。
もう、この家にしなさいって何かが言っているような気が、する……。

だけど、踏ん切りがつかない。
心の奥底では、もうこのまま結婚するのがいいんだって分かっていた。だけど、どうしても心の中に不安があって、ぬぐいきれない。

なんかもう、すっごい好みの人とか現れてくれないかな? 今やってるドラマの役柄ですごいタイプの人がいるから、そんな人現れてくれないかな? もしくは博多華丸大吉みたいな人、現れてくれないかな。安定感あるのにおもしろくて刺激もくれる人なんて、結婚相手として最高じゃん。そんな人、現れてくれないかなーーー! とか真剣に思ってしまう。もうこの不安をどうにかしたい。どうにかして欲しい。

当たり前だけれど、好みの人は現れなかった。職場の人を気持ち悪く思うことはなくなっていたけれど、好みの人は現れなかった。

「全部、超分かる!!!」
私が今思っていることを友達にベラベラと喋ったら、友達はそう言って共感してくれた。

友達は私の5歳年上なのだけれど、今1年半付き合った彼氏と結婚を考えているのだという。友達の彼氏は少し変わった仕事をしていて、収入が少ない上に不安定だった。付き合っている時はそれも含めて好きだったし、それでよかったけれど、結婚となると不安になったと話してくれた。
分かる! 分かる! と、お互い首がもげるんじゃないかというぐらい、うなずきあいながら2時間ほどしゃべり、お互いの思いを吐き出しきった後に、友達がこう言った。

「でもさ、結局、好きになれないんだよね」

その一言にはっとする。

……そうなのだ。
どんなにどうしようと悩んだところで、結局他の誰かを好きになれないのだ。

友達は前の彼氏と別れてから、6年間彼氏が出来なかった。モテるので言い寄られているのを、私も何度も見たことがある。でも、誰も好きにならなかったのだという。
私も付き合っている5年の間に、電話番号聞かれたり、告白されたりしたことがなかったわけではない。だけど、誰にも気持ちは揺れなかった。メールのやりとりを、楽しいと思う人すらいなかった。

好きというだけで、結婚してもいいのかは分からない。
好きというだけで、結婚して、やっていけるのかも分からない。
だけど、好きでなければ始めることも出来ない。

好きでなければ、船に乗って、結婚というチェックポイントに向けて一緒に航海することも、その先の未来に一緒に向かうことも出来ない。
その船がどんなに立派な豪華客船だとしても「好き」という気持ちがなければ、私は泥舟にしてしまうだろう。海の真ん中で溺れて、瀕死の思いで陸に帰るのだ。

あぁ、そっか。好きじゃなければ、踏み出すことも出来ないのか……。

私と友達はしみじみとその事実を噛みしめた。そして「怖いけど、進んでみようか」と、言い合った。船にのり、航海へ向かうチャンスが目の前にあるのならば、やってみようと。

これから先の航海はとんでもなく恐ろしいものなのかも知れない。今までの常識なんて通用しないのかもしれないし、とんでもなく大変なのかもしれない。同居で大変な思いをするかもしれないし、浮気されるのかもしれないし、住宅ローンで悲鳴を上げるのかもしれない。

でも、結局、私のやり方は今までと変わらない。自分の思いに忠実でいること、相手を尊重すること。そして、納得できる着地点を模索すること。通用するのかは分からないけれど、やれるだけ、やってみよう。先のことは分からなくて怖いけれども、進んでみよう。

ようやく私は結婚に対して、前向きに考えることが出来るようになった。

その時ふと、自分が今まで辿ってきた道筋を振り返ってみた。

自分の気持ちに忠実であること。相手を尊重すること。納得できる着地点を探すこと。
これを繰り返してきた中で作られたものは「信頼」だった。

どんな時も、彼は私の話を聞いてくれた。私の意見を分かってくれた。どうしたらいいか一緒に考えてくれた。どうにもならないことは、今まで一度もなかった。もうだめかもしれないと思う時も「大丈夫」と言ってくれた。
そう気付いた時、どんなに「一生大事にする」と言葉で言われるよりも、心に響いた。たぶんこれからも、何かあったらこの人は私の話をきちんと聞いてくれる、と思った。一緒に納得できる答えを探してくれると思ったのだ。

でも、それよりも大きな「信頼」は、自分自身への「信頼」だった。
私は、この人を大事に出来ている、と思えたのだ。
この人を幸せに出来る。いや、違う。私がこの人を、幸せにしたいのだ。

あれから8年。私は今も結婚生活を続けている。思ったより順風満帆だった気もするし、壮絶だった気もするけれど、意外と何とかなっている。
でもまだ8年しか経ってないので「好きだったら結婚しちゃいなよ~。大丈夫、大丈夫~」と誰かに自信をもって言うことは、まだ出来ないなぁと思う。そう言えるように、これからも結婚生活を末永く続けていけるといいな、と思う。
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2018-05-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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