チーム天狼院

【一流の職場の条件】バイト先で悪口を言われるターゲットになったことがあります《川代ノート》


sora

スタッフ川代です。

悪口。

人は何故悪口を言うのでしょうか。どうして人が集まると悪口が生まれてしまうのでしょう。自分だって、いつのまにか、気付かないうちにぽろりと悪口を言ってしまうことがある。本当に軽い気持ちで。「悪口を言うのはいけない」と思っていても、つい言ってしまう。悪口を言ったってどうなるわけでもない。何が生まれる訳でもないのに。どうして?

簡単です。自己保身のためです。悪口を言うことで仲間入れる。誰かの悪口を言っておけば自分が低い立場になることはない。悪口を言うことで自分をコミュニティのなかで優位的な立場に置きたいのです。「自分以外の誰か」なら誰でもいいのです。本当に誰でも。だからそのコミュニティに団結感が不足したとき、細かいストレスが溜まっているとき、あるいは退屈になったときに、絶好のターゲットがあらわれれば、彼らは一斉に群がって悪口を言う。そこに喜びを見いだすのです。

バイト先で悪口を言われるターゲットになったことがあります。

もちろん、天狼院のことではありません。天狼院に勤める少し前のバイト先です。

地元にあるチェーンの飲食店でした。細かいマニュアルがすべて決まっていて、クラウン英和辞典くらいの分厚いマニュアル集があり、バイトはそれに書いてある細かい事項をすべて覚えていなければいけません。だから新人のときに、なにか先輩にわからないことを聞こうものなら、「マニュアルにかいてあるでしょ?読んでないの?」と言われてしまう。お客さんが来ていて忙しいし、いちいちマニュアルをめくって確認するよりは先輩に直接聞いた方が早いし記憶にも残りやすい、ということで私はすぐに聞いてしまうのですが、少しとはいえ結局は先輩の貴重な時間をいただいているわけで、イライラさせてしまうことに変わりありませんでした。

どんくさい、おっちょこちょい、のろま、の三拍子そろっている私は明らかに飲食店向きではありませんでした。出来る限りの努力はしました。仕事を早く終えられるように、その日やるべきことをメモしてポケットに入れていつでも見られるようにしておく。常に次にするべきことを予測しながら動く。時間があるときにはマニュアルを覚える。けれどそのとき就活中だったので、なかなか入れる時間がなく、早朝数時間、週2回くらいしか働けず、当たり前ですが、覚えることが山ほどある職場なのに、少ない日数でスムーズに仕事が覚えられるはずもなく。私はどんどん同期から遅れをとっていました。

「あのさ、川代さんと同じころに入った子はもう全部ちゃんとできてるから。いつまでもこんなことに時間使われたら困る。何度も同じこと言わせないで」

私に教えてくれていた先輩にそう言われてしまったときは、休憩室で泣いてしまいました。ただでさえ1日に5回くらいはなにかで注意される。よかれと思ってやったことがすべて裏目に出る。次はどんな失敗をするかと、常に見られているのが分かるから、さらに緊張してミスをしてしまう。就活中だから地元で気楽に稼げるバイトをしようと思っていたのに、就活以外のところでこんなにストレスを溜める必要があるのか。何度もやめようかと思いましたが、けれどこれは自分のどんくささ、不注意を直す機会を与えてもらったんだ、先輩が注意してくれるだけありがたい、と思って努力しようと思いました。

先輩に認めてほしかった。だから怒られたあと、アルバイトでは必ず30分前には準備をはじめられるようにしました。私はオープンスタッフで、店の鍵を預かっていたので、何時でも好きなときに入れるようになっていました。だから他の人は7時ぎりぎりに到着するなか、毎朝6時30分には店について準備を始めていました。それでようやく普通の人がこなせるくらいの仕事ができました。ここでのバイトが性格的に明らかに向いていないのは自覚していましたが、どうしても諦められなかったのです。

私がやめたくなかった理由には、自分のため、という他にもうひとつありました。悪口を言う人たちから逃げたくなかったからです。

私が一緒に働くメンバーはほとんど決まっていて、たいていがパートの主婦とフリーターでした。みんな4から7年勤務のベテランで、最低でも2年。全員女性です。言うまでもなく、彼女たちの中には長期間一緒に働いてきた団結感がありました。新人が入っても入らなくてもどちらでも構わない。自分のこのコミュニティでの立場は出来上がっているから、それを崩されなければなんでもいい。はじめからそんな雰囲気がしていました。

働き始めてまもなく、気が付いたことがありました。勤務中のみんなのおしゃべりのなかで、必ず毎回同じ話題が出るということです。

「そういえば、この前もさあ」
「なになに、またぁ?どうしたの?」
「あれ、やり方こうじゃありませんでしたか?なんて言っちゃってさ。思いきり間違えてんの。神経疑うよ」
「本当にいいかげんにしてほしいですよねー。おかげで仕事が増えるのはこっちなんですから」
「ねー。マジで迷惑だわ」

こんな会話が、私がシフトに入る度に行われている。もちろん私はその会話には入れません。ひとりでもくもくと作業をするだけです。

会話の中から、店長のことを言っているのだ、と気付くのにそう時間はかかりませんでした。

私を採用した店長は、まだこの店舗で働き始めて4ヶ月くらいらしく、しかも中途採用なので仕事にも慣れていませんでした。けれど働いてすでに数か月たっていて、しかも毎日店に来ているのに、ミスをする。仕事ができない。気が利かない。そういう彼女の欠点を、事細かに非難しているのでした。
ちょっと一言忘れた、ミスをした、ということだけでなく、通常通り休みをとることや、彼女の外見やしぐさまで非難しているのをきいて、ああ、面白がってるんだな、とすぐに察しがつきました。確かに彼女は新人の私に対してもフォローが無かったり、新人研修の予定が分からなかったり、マニュアル本を全部覚えなきゃいけないということも伝えていませんでしたから、私も多少なりとも彼女に不満はありました。けれど休みを規定通りとることや、別に迷惑になっているわけでもない外見のことまでは非難されるべき対象じゃない、と思いました。

そして想像がつくと思いますが、ベテランたちは彼女本人にはいい顔をしました。彼女がシフトに入っているときは当たり障りない会話をする。世間話とか芸能人の噂とか、どうでもいい話。でも「あなたとあまり話したくありません」「あなたを仲間とは認めていません」という空気を出すことに躊躇はありませんでした。本人に直接注意はしない、けれど冷たい態度をとり、裏では思いきり悪口を言う。悪口を言わない人は誰もいませんでした。

「え、そんなことがあったんですか?」

一度、自分も店長の噂話や悪口に相槌をうつことで、「あ、仲間に入れる」と一瞬安心感を抱いてしまった瞬間がありました。私は他のベテランたちと同じように、彼女の悪口を言おうとしてしまっていました。ここで彼女がこの前したミスを言えば確実に仲間に入れる、この辛い孤独感から抜け出せる。そう思ったのです。「この前もこんなことがあったんです。本当になんとかしてほしいですよね」そう言えば自分は優位な立場になれる、私の仕事の出来なさが緩和される、それがはっきりと分かりました。無意識のうちにそこまで計算した自分自身に気付いた瞬間、反吐が出そうでした。

けれどなんとか、「ふーん、そうなんですね」と相槌を打つだけで踏みとどまりました。絶対に何があっても悪口の仲間には入らない、とそのとき誓いました。

店長がやめたのは、私がバイトに入って1か月後でした。
唐突にやめることが伝えられました。しかも、異動ではなく会社自体をやめる、と。

もちろんベテランスタッフたちはここぞとばかりに悪口を言いまくりました。

「いきなりやめるってさ、ほんと非常識!」
「仕事できなかったもんね」
「送別会のとき泣いちゃってましたよー」
「え、送別会なんて行ったの?」
「え、まあ一応顔出しました。髪とか明るく染めちゃってて。わたし笑いおさえるのに必死でー」

彼女はきっと悪口を言われていたことに気が付いていたんだろうな。こんな職場で、しかも悪口言われてたらやめたくもなるわ・・・。そう思いながら、またひとりでもくもくと作業をしていました。

彼女が辞めたことでしばらく盛り上がっていたけれど、1週間もすると店長なんてまるでいなかったかのように、また新人の噂、新店長のうわさでもちきりになりました。私の目からは、また仕事の出来ない店長が来ることをみんな望んでいるように見えました。

新人店長は、前の人とは打って変わってとても仕事の出来る人でした。
すでに店舗で2年働いているので、仕事もばっちりだし、人当たりもよく、笑顔が可愛らしい。てきぱきと仕事をし、気配りも忘れない。みんなの中に入っていくのも自然でうまい。店をよくしようという向上心もある。ああ、今度の人は大丈夫だな、と思いました。

粗が見つからないので、誰も新店長の悪口を言いませんでした。彼女たちは、どこか退屈そうに見えました。

私が悪口を言われている、と気付いたのは、新店長が入ってからすぐの真冬でした。

私はバイトに30分早く来るようにしたことでなんとか人並みには出来るようにはなっていたけれど、新しい仕事を覚えるのに時間がかかるし、相変わらずシフトにはなかなか入れない。同期から遅れているのには違いなく、私はどんどん周囲から孤立していきました。 バイトに入っても必要最低限のことしか話してくれない。話しかけても「あぁ…そうですね」くらいの返事。明らかに前の店長がいた頃よりもみんな冷たくなっていました。どうすればいいかわからず、質問すると「もういいです、私がやるんで」と教えてくれず。 仕事ができない、みんなに迷惑をかけている、というプレッシャーに、どんどん押しつぶされていきました。バイトに入るのが億劫になり、迷惑をかけないことばかりを考える。
でも今ほかの仕事ができないなら接客を精一杯頑張ろう、と思って明るく振舞いました。めげそうになりましたが、厳しくしてもらっているのは私のためだ、ここで踏ん張ればきっと成長できる、鍛えてもらっているんだ、と自分に言い聞かせました。

けれど、私がすぐそばにいる横、薄いドア一枚の向こうで私の悪口を言っていることに気付いてからは、もはや頑張る意味を見失ってしまいました。

「ほんとこの前もさ、あんなミスして〜」
「そうそう!私のときも…」
「てか今さっきもね…」

誰とは言わないけれど、話している内容、私がドアを開けるとピタッと話をやめること、私が出て行くとうしろから盛り上がる笑い声が聞こえることから、明らかに私のことを話していたとわかりました。 ああ、この感じ、聞き覚えがある。 次のターゲットが私になったんだな、と悟りました。

それからは苦悩の日々でした。新しい獲物を見つけて嬉しそうな彼女たちは、段々遠慮がなくなり、私の真横でも悪口を言い出すようになりました。

「大学生だからか知らないけどさ」
「ええっ!大学生だったんですかぁ?フリーターだと思ってました!」
「そうだよ!それにしてもね…」
「大学生のくせにあのミス?ほんとありえな〜い」

彼女たちが私に悪口を聞かせたくてわざと大きな声で話しているのがわかりました。
限界でした。 仕事ができないこと、迷惑をかけていることについて文句を言われるのはまだいい。でも私に直接注意もしないで、冷たい雰囲気で気づかせようとしていること、しかもそれを面白がっていて、仕事の不出来と関係のないことで馬鹿にされるのには耐えられませんでした。 結局それから、シフトを入れることはなく、フェードアウトするようにバイトを辞めました。逃げたくない、見返してやりたい、とも思いましたが、就活でただでさえストレスが溜まっているのに、こんなことで苦しむ時間がもったいないと思いました。

本当に酷くて下らない、最低な人たちだ。

内心で彼女たちを非難しました。彼女たちが悪口を言う仲間に入らなかったことを誇らしくも思いました。

けれどしばらくして、「○○って本当に性格悪そうー」と、笑いながら無意識に芸能人の悪口を友人としていたとき、ふと、ああ、自分に返ってきただけだったんだな、と思いました。

私には彼女たちを批判する資格なんて何もありませんでした。 何度、無意識に、他人の悪口を言ったでしょうか。別に言わなくてもいい悪口を。言ったところでどうにかなるわけでもない、愛の鞭としての批判でも、冷静な分析や人間観察でもない、ただの暇つぶしとしての悪口を。 芸能人のことだけではありません。 友人、数回しか会ったことのない知人、駅ですれ違っただけの赤の他人のことまで。ただのネタとして、暇つぶしとして、あるいは自分の優位性を高めるために、何度悪口を言ったことでしょう。小学生のとき、中学生のとき、高校生のとき、大学にいる今だって、自分が仲間が欲しいから、自分が安心したいから。そのためだけに、いたずらに、無意識に、「相手のため」というお為ごかしを盾に、何度陰口を叩いたでしょう。 恥ずかしながら、私は自分が痛い目に会うまで、その事実に気づかないふりをしていたのです。ずっと。自分は悪くない、と思いたかったのです。

彼女たちはそのことを教えてくれただけでした。 私は自分のことを悪口なんて言う卑劣な人間じゃない、と思っていたけれど、とんだ厚かましい勘違いだったのです。

誰だって無意識に、誰かの悪口を言ってしまう。人を傷つける可能性がある。悪口ではなく本人のため、と思うなら直接伝えればいい、やんわりとでも伝えればいいのに陰で言う。自分では批判や分析だと思っていたとしても、他人からすれば悪口だと思われることもある。 思い返せば、今までしてきたほとんどのバイトで、ほとんどの人が悪口を言っていました。たいていは仕事が出来ない人やコミュニケーションが苦手な人がターゲットになります。そして休憩室ではみんな徹底的に標的を叩き、本人には直接伝えないけれど冷たい態度をとるというのもみんな共通しています。 そして要領のいい新人は、その叩かれている人をいち早く発見し、自分が仲間に入るために同じように悪口を言うのです。たいしてその人のことを何も知らないのに。噂話をしておけばみんなが盛り上がるからです。
でももちろん、そんなことをしたところで叩かれている人が変わるわけでもない。仕事ができるようになるはずもない。むしろやる気がなくなって当たり前でしょう。 でもみんなが悪口を言うのは、そうしなければ「本当の」仲間には入れないことをわかっているからです。

天狼院にいると、ほとんど悪口を聞くことはありません。本や会社の批評、分析がなされることは多々ありますがそれは純粋な探究心から生まれるもので、たいていはよりよいビジネスとは何か、よりよい文化とは何かという点にフォーカスされるので、良い点と悪い点、どちらも挙げたうえで自分に取り入れる部分を追及することが目的としてあることがほとんど。言ったところで何のメリットもない悪口や愚痴を言う人はほとんどいません。
私が看板を出し忘れても、イベントの司会で滑っても、それについていちいちみんなに報告して笑うスタッフは誰もいない。そんなことしている暇がないからです。天狼院には面白いものがたくさんあって、面白い人がたくさん来て、毎日刺激があって。そのぶん仕事もたくさんあるけれど、全部面白いし自分の成長のためだとわかる。

みんなが、天狼院を面白くする、という一つの目標に向かって一丸となって働いているので、悪口なんて言うことすら思いつかないのです。そういう仲間と一緒にいると、もっともっと頑張ろうと思う。みんなが頑張るだけ頑張ろう、と。

切磋琢磨。この言葉が相応しい、面白い場所で今働けていることが、本当に幸せです。今までどのアルバイト先でも、誰かの悪口によって団結が保たれていたのを見てきました。どこにでも必ず悪口を言われるターゲットがいて、その犠牲があって成り立っていた仮初めのチームワークでした。本当の信頼関係なんてどこにもなかった。

でも天狼院は、そんなものがなくても、一致団結して目標のために突き進める。みんなそれぞれ自分に出来ることをやろうと頑張れる。自分が出来ない部分を補ってくれる仲間に感謝できる。お互いがそれぞれにいいところがあると認め合える。そんな場所を作ってくれた三浦さん、スタッフ、そしていつも来てくださるお客様に、心から感謝しています。

だからこそ。この大好きな場所をもっともっと面白くするためにも、自分自身が人として、天狼院のスタッフとして、恥ずかしくない人間になろうと思います。 私は本当にまだまだで、どんくさくて、おっちょこちょいで、のろまで。ジンジャーエールをオレンジジュースと間違えるし、看板も出し忘れるし、イベントの司会で滑りもするけれど。
でも、卒業まで、あと約半年。3月に辞めるそれまでには。

「私は天狼院のスタッフです」

自信を持って、誇りを持って言えるように、成長したいと思います。

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2014-07-15 | Posted in チーム天狼院, 記事

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