メディアグランプリ

「数字が苦手」なら、克服よりも酢豚を眺めてみる。


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記事:東みわこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
職員室に呼ばれた理由は分かっていた。
確か高校二年生の期末テスト。「超」を何個つけても足りないほど数学ができなかった。回答用紙がまっさらのままだと恥ずかしいので、必死で計算するが結果は赤点。追試が決まる。友達が先に帰る姿を見送りつつ追試に挑むが、前回よりますます分からない。おかしい。勉強したはずなのに。せめて「次の計算をせよ」くらいは解きたい。追試の結果、また赤点。
 
再追試という救済が、ごくわずかの生徒に与えられた。追試の結果脱落した精鋭が、ぽつんぽつんと座席に座ってその時を待つ。はっきり言って互いの顔を見るのも嫌だ、恥ずかしいから。食えない毒キノコが椅子から生えているような風景。そんな無意味な緊張感を覚えた再追試。結果は「0点」。ついに点さえ取れなくなった。
 
「再追試0点」の偉業を遂げた私は職員室で先生を悲しませた。テストをやるほどに失われたのは、先生の「教える技術の自信」であった。「先生ね、もう、どうしていいか分からんわ」。額に手のひらを当てて呟いた先生の顔は今も忘れられない。国公立大学へ進学する生徒を輩出するこの高校にとって、私の作った伝説はかなりの痛手だったのである。
 
私は私自身に悩んだ。どうしてこんなに数学ができないのか、理解できないのか。逆に、国語の成績は学年でトップ圏内であったため、先生方も悩んでいた。
 
そこで私は本屋に行った。実は当時、数学者である秋山仁先生のブームもあって、数学が好きになる本とかを必死に読んでいた。それでも再追試0点なので、根本的に何かが間違っていると考えた。
 
本屋で出会ったのは「読む数学」を謳った内容の文庫本だった。そもそも数学はどうやって始まった学問なのか、歴史とギリシャの数学マニアたちの話、そしてコラムとして1ページに数学の文章問題が載っていた。私はなんとなくその問題を解いてみた。長文で、「以上のような条件からそのギリシャ人は何歳ですか」という内容だったが、私は見事正解したのだ。びっくりした。自分が解けるなんて! 巻末の回答ページを見ると、きっちり公式を当てはめた計算式が載っていたが、難しくて私には分からなかった。だが私は文章をひとつひとつ読みながら考えて導きだした。その時私の中で「ああ、私の国語力を使えばよかったんだ!」と、本当に目の前が明るくなった。
 
数学は難しい、だが「超絶苦手」を感じていたのは「算数」と「数字」のほうだった。なので小学生の算数ドリルを買って「たす・ひく・かける・わる」だけをもう一度練習し、文章問題は数式うんぬんより言葉と図や絵を使って考えた。
 
「数学を数学以外の要素で考える」このおかげで、高校で習う「数学」はちっとも身につかなかったけれど、大学進学が叶った。今では「数字に強い」ことが日常で最も大切であると思う。さらに生活の質を高めることにもつながる。
 
では、この「苦手なこと」を、私は克服したのか? そうではない。「変化」させたのだ。
それは、中華料理の「酢豚」を見ればとても分かりやすい。酢豚に入っているあの「パインアップル」。なんでフルーツが入っているんだ! しかもあんかけ! 醤油や中華調味料ベースにフルーツを合わせたこの「酢豚にパインを容認していいのか」論争は、決着がつくことなく展開されてきた。
 
パインを「苦手なこと」とすると、せっかく酢豚が美味しい料理なのにパインがゴロゴロ入っているだけで酢豚全体が苦手になってしまう。私もこれ以上、酢豚を嫌いになりたくない。
ならばパインそのものを変化させてみる。パインを入れない酢豚を作ればいいじゃない、という結論は「苦手を変化させる」ことにはならない。
「パインは本当にゴロゴロ入れるものなのか?」だけを考えてみると、酢豚を眺めながら色々な「新しい視点」が浮かんでくるはずだ。
料理ができるできないは関係ない。今は酢豚のパインを変化させることだけにフォーカスする。
まずは、酢豚にカットしたパインを添えるだけにする。酢豚を食べた口直しにパインが爽やかに存在できる。それから、パインをみじん切りにして入れてしまい、パインの姿を消してみる。パインの味がするのに見えないマジック。
こんな方法はどうだろう? 豚肉をパイン汁に漬けておく。その肉で酢豚を作る。パインの酵素でお肉柔らか、しっとりほんのりフルーツが活きる。
 
固定観念の酢豚そのものを嫌がって敬遠するよりも、「自分ならこんなやり方で『パイン入りのマイ酢豚』を考える」プロセスが一番大切だ。それは自分の得意なことや、難なくできることを再確認することでもある。
 
「苦手」に真正面からぶつかっても、無駄だ。「苦手」という怪物はこちらの気持ちなど知る由もない。「苦しませる手を使って」くるだけなのだ。だから闘っても意味がない。克服しようと思うから余計に辛い。美味しく変化できたなら食べて自分の糧にし、できなかったらそのときは離れて大丈夫。タイミングがめぐってくるかも知れないし、ずっと関わらないほうが生きやすいことだってある。悩んだら「酢豚のパイン思考」で、肩に力を入れず生きていきたい。
 
 
 
 
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2019-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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