食パンは嫌いだけど、1斤食べるのが楽しみになった!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:久田 一彰 (ライティング・ゼミ特講)
「なんでこんなに今日は街が騒がしいんだ!」
次々と人がこちらに向かってくる。
手にはライブグッズを手にした人達や、ユニフォームを着た人達が、その興奮冷めぬまま、駅へと向かう。
こっちは仕事帰りでとても疲れている。
気圧が下がってきて、頭痛もする。
パンを食べコーヒー飲んで一息ついていると、隣にどっかと先ほどのライブ帰りのお客が座り、思い思いに喋り始める。
遠慮なしにこちらの耳に会話を浴びせてくる。堪らなくなり、イヤフォンをするが、ついには店を出て、駅ビルの地下へ逃げ込んだ。
目の前に変なお店がある。
前来たときは無かったぞ。
「ふう~ん、こんなところにパン屋が出来てるんだ、えっ? 食パン専門店?」
実は「食パン」はあまり好きではない。
「だって、口の中の水分が取られていき、乾燥するよね。味もどちらかというと薄いし、
パンのみみも少し固い、噛んでも噛んでも、いつまでも口の中に残ったまんまじゃん」
さらに白状すると、同じ理由でクッキーやビスケット系も得意では無い。
どちらかというと、惣菜系や菓子パン系、レーズンバターを練り込んでいたり、自分でジャムやチョコレートを塗りたくったパンが好きだった。
塗る物が無いときは、牛乳や汁物で流し込んでしまうことも度々あった。
しかし、この店の名前と食パン専門店がどうにも気になる。
毎回の焼き上がりは全てソールドアウトしている。
目の前には一袋のみ。
どうやら本日最後の様だ。
見えない何かに押されるように、買ってしまった。
「しかも1斤もどうすんのさ。まあいい、明日になったら考えなよ」
自分にツッコみながら、電車で帰る。
車内でウトウトしていたが、ふっと目が覚めた。
マスクをしているのにもかかわらず、何かの匂いがしてきたのだ。
「この匂い何?」
周りを伺うが分からない。
もう一度鼻から空気を吸い込む。
「やっぱりいい匂い、パンの匂いだ」
袋で包まれている、手元の食パンからだ。
「こんなに良い香りがするのか、さっきパン食べたけど、すぐに家で食べよう」
駅を降り、信号待ちでもパンをもう一度嗅ぐ。「いい、とてもいい」
台所で早速紙袋から取り出す。
ビニル袋には蒸気の細かい水滴が付いている。焼きたての証拠だ。
1斤の重さを手に載せる。
長さが25センチほどあるが、その感触と弾力に驚く。
柔らかい。
これは味も期待できそうだ。
包丁で2~3センチだけ切って、皿にのせる。香りがいい。
簡単に手でちぎれた。
そして一口食べる。
うまいっ!
しっとりしている。
今度はかじりつく。
みみまでうまい!
良い具合に歯が沈み込み、噛み切れる。
味もバターのような甘さがちょうど良い。
口の中でも程よく水分が残り、コーヒーで流し込まなくてもそのまま味わって食べ切れた。
あっという間に1枚なくなった。
このペースだと1斤食べきれると確信。
次の朝、早速ノーマルとバターを塗ったトーストを食べ比べる。
ノーマルも美味しいのには変わりなかった。
果たしてバタートーストはどうだろう。
バターを載せ、トースターへセット。
チン!
楽しみに蓋を開ける。
ああ、この色はずるいやつだ。
小麦色に黄色がかった感じ。
カリッと焼き上がった中に、とろけたバターのかたまり。
まずは一口。
サクッとみみを切る音が心地よい。
思わず目が開き、眉毛が上がった。
ふわ~っとバターとパンの香りが体に入ってくる。
おお! 美味い!
焼き上がりの感じが見事に再現されている。
とにかく美味い!
何でこんなに美味いんだろう。
買ってきた袋の中の小さなパンフレットを見て、その美味しい7つのこだわった理由に驚き納得した。
”卵とマーガリン不使用”
”究極のやわらかさと口どけの良さを実現するため、製粉方法にこだわったきめ細やかな小麦粉”
”添加物を一切使用していないフレッシュなクリーム”
”口どけよくきめ細やかな生地を生み出し、上品な香りと芳醇な味わいを与えてくれる国産バター”
”奄美大島や種子島産のサトウキビを使用。ミネラルを豊富に含み、まろやかでコクのある甘みが特徴の黒糖”
”アンデス山脈の大自然に育まれたミネラル豊富な岩塩ローズソルト”
パンフレットを見ながら、変わった名前の食パン専門店が、テレビ番組「ガイヤの夜明け」で取り上げられているのを思い出した。
「考えた人すごいわ」
「うん間違いないっ!」
「午後の食パン これ半端ないって!」
「これ3つともパン屋の名前? しかも高級食パン専門店ばかり、なんでこんな名前にしたんだろうね」
そして、今回買ったパン屋の名前も「偉大なる発明」
JR小倉駅直結「アミュプラザ小倉」の地下1階に、12月にオープンしたばかりだった。
正直、
「名前が珍しくて買っていくんじゃ無いの? でかいおじさんのイラストでインパクト打ち出しただけ?」と思っていたのだが、食べたら美味いのだ。
食パンの純粋なおいしさと、目を惹く看板名があわさり、戦略的に仕掛けられていた。
どんなお店なのか、いつ開いているのか、ウェブサイトで調べるとここにも驚きがあった。
「パンがなくなり次第終了」
これはまた行くな、素直にそう思った。
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