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メディアグランプリ

「みんなの恋人」だった彼女。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大和田絵美(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ただいまより、新郎新婦ご入場です。みなさま、盛大な祝福でお迎えください」
開いた扉の先から、幼馴染の親友の顔が見えた。
当たり前かもしれないけれど、今までで一番、綺麗だと思った。
彼女は今日、隣でタキシードを着て微笑む「女性の」パートナーと永遠の愛を誓う。
 
その報告を受けたのは秋だった。
渋谷のスクランブル交差点が上から見下ろせる、私と彼女のお気に入りのカフェ。
いつもヘラヘラと頼りなく笑っている彼女が久々に見せた真面目な顔。
「結婚式をすることになって、来て欲しいんだけど……」
思いもよらぬ言葉に驚きを隠し切れなかった。
彼女に、結婚を真剣に考えるほどの相手がいるとは知らなかった。
「びっくりした! でも、結婚、おめでとう」
私も彼女も29歳。
結婚するには、いい年頃だと思う。
彼氏と呼ぶような存在からは久しく遠ざかっている私は、湧き上がる若干の嫉妬をグッと飲み込みながら、祝福した。
幼馴染の彼女は一番の親友。
幸せになることはもちろん嬉しい。
でも、目の前の彼女はちょっと目線を下げて、ため息をついた。
「結婚じゃないよ。結婚式」
「? それって何か違う?」
「結婚……出来ない人だから」
いつも端切れの良い彼女にしては珍しく言い澱んでいた。
 
結婚出来ない相手……
謎解きのクイズを出された時のように、斜め右上を睨みながら考える。
不倫?
無戸籍の人とか?
犯罪者? もしかして、日本中を震撼させたような凶悪犯とか。
逆にすごい有名人だったりして。巷で大人気のアイドルとか。
それとも、とても仲良しで有名な「実の」お兄ちゃん。
勝手な妄想がぐわーっと広がってくる。
 
「違う。違うよ」
何も言っていないのに、顔を見ただけでエスパーのように考えを読まれる。
これが幼馴染の絆ってやつだ。
「女の人なの」
「えっ?」
「だから、相手は女の人なの。結婚式は出来るけど、籍は入れられない」
 
幼馴染の親友が、同性の女の人と結婚する……
 
親友がレズビアンだと言うことを、私はその日まで知らなかった。
本当に知らなかったし、疑ったこともなかった。
 
でも、昔から何か人とは違う不思議なところがある人だった。
見た目が可愛いわけでもなく、人に甘えるのが上手なわけでもない。
かと言って、ボーイッシュなわけでも、姉御肌なわけでもない。
それなのに、彼女の周りにはいつもたくさんの女の子が集まっていた。
動物園のパンダのように、彼女の周りには人の笑顔が多かった。
学生時代の昼休み、彼女はいつも誰かの膝の上に座ったり、膝枕されて眠ったりしていた。
移動教室の時は、誰かが彼女の荷物を持ち、いつも誰かに手を引かれて歩いていた。
登下校の時は、宝塚の男役のようにスラリと長身で1つ下の女の子がいつも一緒だった。
彼女は「みんなの恋人」だった。
 
バレンタインは圧巻で、彼女は毎年大きな紙袋を持って登校してきた。
特に後輩からの人気が高く、この日はあらゆるところから何人もの後輩が彼女と接触するチャンスを窺い、チョコレートを渡していた。
とにかくモテた。
中・高の6年間、女の子から絶大の人気があった。
でも繰り返すが、見た目が可愛いとか、甘え上手とかではなく、ボーイッシュでも姉御肌でもなかった。
ただ、何となく儚げで、刹那的で、支えてあげなくちゃという雰囲気を持つ人だった。
後輩からも「先輩のこと、守ってあげたいんです!」と言われるような人だった。
 
大学生になり、私は彼女と離れ離れになった。
たまに会う時、彼女が左手の薬指に指輪をしている時もあって、会話の内容から恋人がいるんだなと思うことも多かった。
指輪のデザインは短期間で変わり、恋愛が長続きしないタイプだということも何となく分かっていた。
恋人の存在を隠そうとはしなかったけど、積極的に話すこともなかった。
名前も聞いたことがなかったし、写真も見せてもらえなかった。
幼馴染で親友なのにと、何も話してくれないことを寂しく思ったこともある。
でもまさか、女の人と付き合っているなんて、思ってもみなかった。
 
彼女は言った。
「本当は一生秘密にしようと思ってた」
「でも、結婚式をやるって決めたら、やっぱり絶対来て欲しいなって思っちゃって」
「ごめんね。戸惑わせて」
女同士の結婚式。
女同士の恋愛……
予想外のカミングアウトに、私の心は大きく波打った。
 
彼女が幸せになれるイメージが湧かなかった。
父親は医者で、彼女は何不自由なく育ったお嬢様だ。
お見合いの話も何度もあったと聞いている。
ご両親は、早くいい人と結婚して欲しいと思ってるに違いない。
同性婚は、日本では認められていない。
女子高だった、あのメルヘンチックな環境とは違う。
もちろん子どもだって産むことは出来ないだろう。
人と違う人生。そのことに彼女が耐えられるとは思えない。
いつか後悔するのではないだろうか。
 
私は、彼女に幸せになってもらいたい。
 
「賛成は出来ない」
気付くと、思わずそれだけを口にしてしまっていた。
 
うつむいていた彼女の目が潤むのが分かった。
「ごめんね。急に変なこと言っちゃって。忘れていいから」
忘れていいから。
彼女の声は震えていた。
その後に、彼女の声にならない叫びが聞こえた。
「ワスレテイイカラ、キライニハナラナイデ」
言葉がなくても、顔を見ればエスパーのように考えが読める。
「私のこと、嫌いにならないで」
これこそが、彼女が今まで真実を話さなかった理由なんだと知った。
 
彼女と別れた後も、私は彼女のことを考え続けた。
 
昔から何か人とは違う不思議なところがある人だった。
周りにはいつもたくさんの女の子がいたのに、彼女はいつも寂しそうだった。
彼女はきっと気付いていた。
このメルヘンな環境だからこそ許される女同士の「疑似恋愛」に。
卒業したら、自分だけがひっそりとマイノリティとして生きていかなくちゃいけないということに。
マジョリティの世界で、マイノリティの気持ちを隠しながら、彼女はずっと頑張っていたのかもしれない。
「女性が好きだ」という本当の気持ちを知られたら、みんなに嫌われてしまうとずっと怖れていたのかもしれない。
だから、誰か一人を好きになるのではなく、「みんなの恋人」になる日々を選んだ。
そう思うと、堪らない気持ちになった。
儚げで刹那的、それはまだ高校生なのに、すでに「普通に」幸せになることを諦めていたからなのかもしれなかった。
それが彼女の魅力の一つだと思っていたけれど、彼女はずっとセクシャルマイノリティである自分の未来を悲観していたのかもしれない。
 
いつも一緒にいたのに、一緒に笑っていたのに、私は何も知らなかった。
 
そこまで考えて、やっぱり彼女に幸せになってもらいたいと思った。
マイノリティで幸せになる彼女の未来を、これからも見届けていこうと決めた。
 
嫌いになんか、ならないよ。
 
彼女のカミングアウトから数日後、私は手紙を書いた。
「御結婚、本当におめでとう」と、大きく書いた。
 
 
 
 
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2020-04-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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