5秒以内に飛びこんでしまえ!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:なかむらしょうこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
ピピピッピピピッ
手探りで、枕元のiPhoneを探す。
「あと、5分……いや10分」
いつからだろう、「早起きは三文の徳」が実行できなくなったのは。
「ごちそうさまでした!」
張り切って料理を作った後に残るのは、油まみれの調理器具と、ごちそうをたいらげられたお皿たち。
「明日でいっか……1日くらい洗わなくても大丈夫だよね」
いつからだろう、「ダイエットは明日から」精神が、生活に染み込んでしまったのは。
「締め切りまで、後3日か……。わたし、追い込まれて花が咲くタイプだもん」
3日後……。
「あかん、終わらない。無理だぁあ」
はい、残念。追い込まれても花は咲きません。
頭ではわかっていても、なかなか体が動かない。やる気がおこらず結局怠惰してしまう日々。今日も、なんだか無駄な時間を過ごしちゃったな……と自己嫌悪に落ちいってしまう。
ピピピッピピピッ。
「あと……10分……」
その日の朝も、ごそごそもそもそとアラームが鳴ってから10分、いや15分後に体を起こした。キッチンでお湯を沸かして、コーヒーを入れる。まだ、気だるく頭が冷めない中、最近、見はじめた、自己啓発系のYouTubeチャンネルをひらく。
わたしは、あと数ヶ月したら仕事を辞める。フリーランスで仕事をするぞ! と決めていた。しかし、その気持ちを上司に伝えることができずにいた。今日こそ言おう! 今日も言えなかった……の繰り返し。ずるずるとモヤモヤがたまり、退職を伝える恐怖も増していってしまう。
もともとは、YouTubeも見ないし、自己啓発系の本も全くと言っていいほど読まなかったのだが、「退職/伝え方」と、藁をもすがる思いで、ググりまくっていたら、このチャンネルに辿りついたのだ。
クリス・モンセンさんが運営している「クリスの部屋」。クリスさんはとにかくテンションが高い。常に雄叫びをあげているような元気いっぱいのお兄さんだ。
「今日はやる気がめっちゃくちゃ出る方法を教えるぜ! やる気が出る方法を身につけたら人生変わるぜ!」
と、いつものテンションの高さで、今日のトピックを語っていた。わたしは、正直、彼のテンションの高さに触れることで、心を鼓舞していたくらいで、話の内容にあまり真剣に耳を傾けていなかった。だから、今朝も、クリスさんいつも元気だな、その元気いただきますよ、と、その程度に思っていた。
「5秒カウントする間に動きはじめる。ただこれだけ!」
ん? 5秒? 根っからのめんどくさがりやで、そこに輪をかけてエンジンをかけるのに時間がかかるわたしは、「5秒」という超短い時間がひっかかり、めずらしくちゃんと耳を傾けた。
どうやらメル・ロビンズさんという方が提唱した「5秒ルール」という法則の紹介だ。
「5、4、3、2、1、GO!」
頭が考え出してしまう前に、めんどくさいという言葉が頭をよぎる前に、恐怖心が芽生える前に、やってしまおう! というわけだ。頭の中で色々な考えがうごめき出すのが、だいたい5秒。だから、5秒カウントする間に、動いてしまえ!
これなら、わたしでも簡単に実践ができるのではないだろうか。クリスさん、今日は元気とともに、わたしにぴったりのルールを教えてくれてありがとう。
台所のシンクにちらりと目をやる。昨夜使ったお鍋にフライパン、お皿たち。いつものわたしなら、朝は忙しいし、今日の夕ご飯を作るときでいいよねと後回しにする。見て見ぬふり。しかし、今日のわたしは違う。「5、4、3……」とカウントをはじめ、すくっと椅子から立ちあがり、スポンジを濡らし、シャカシャカキュッキュ。あっという間に片付けが終わった。
「あれ? こんなに簡単にできるのか」
すると、次に洗濯機の中に意識が向く。確か、乾燥をかけたバスタオルがまだ入りっぱなしだったような。「5、4……」と、洗濯機に向かい、乾燥されたバスタオルを取り出し、ささっとたたんで、定位置にしまう。
「おやおや? 洗濯物をたたむのって、別に苦じゃないじゃん」
ギリギリまで寝ていたものの、5秒ルールを駆使して動いていたら、いつもより早く朝の身支度も終わり、いつもより早くオフィスについた。
「締め切りまで、後3日か……これは、後にして、先に簡単そうなこっちを……」
勝手に、ストップウォッチが発動する「5、4、3、2、1……GO」。午前中で締め切り目前の仕事はクリアできた。
翌朝は、アラームとともに体を起こし、朝のうちに家事をさくさくっとこなす。昨日の夕ごはんの後片付けは、昨夜中にしてしまっていたから、その代わりに今日は別の家事ができる。
「5秒ルール」のおかげで、自分でも驚くほどテキパキと1日を過ごすことができるようになった。するとどうだろう、家の中はきれいな状態が保たれるし、仕事でギリギリガールっぷりを発揮することもなくなった。
なんて晴れやかなんだ!! バンジージャンプで飛び降りるときのように、しのごの言わず飛び込んでしまえば、後はばいーんばいーんとゴムの力で勝手に体が動き、終わった後には爽快感が待っている。
「そうだ。この5秒ルールを使えば、退職の意思も伝えられるかもしれない」
ピピピッピピピッ。
ついにその日はやってきた。5秒以内に起き、家事をこなし、いつもより早く家を出て、誰よりも早くオフィスに到着する。ほどなくして、上司も出社。
心臓はバクバクと鳴りやまない。今日こそ言わなくちゃ、だけど、やっぱり……
「5、4、3、2、1、GO!!!!!!」怖いという気持ちが生まれそうになる前に、5秒しか測ることができないストップウォッチを押し、いざ、飛び込む。
「お話ししたいことがあります……退職させてください」
言えた。ずっと伝えることができなかったことを、ついに伝えることができた。それまでバクバクしていた心臓は、徐々に平常運転に戻る。
「残念だけど、応援しているよ」
上司は、あたたかく受け止めてくれた。なぜ、わたしはあんなに怖がっていたのだろう。ようやく、ずるずる引きずっていたモヤモヤと恐怖から解放された。
それから、数ヶ月が経ち、今はフリーランスとして活動をしている。
自分で仕事を作らなくてはいけない日々。会社はもう守ってくれない。この企画、受けなかったらどうしよう、この発言叩かれたらどうしよう……毎日、いろいろな恐怖が襲ってくる。しかし、わたしはその度にストップウォッチを押して対抗する。
「GO!」
めんどくささと戦うには、几帳面な性格である必要はなかった。
恐怖に打ち勝つには、強靭なメンタルは必要なかった。
5秒カウントする。
その間に、飛び込んでしまえ!
そう、ただ、これだけ。
***
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