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100からの引き算、0からの足し算


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川村 紀子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
こどもたちが通う小学校で『なわとび週間』が始まるという案内をみて憂鬱になった。
なわとび週間には、なわとび検定表が用意され、全校生徒が休み時間に取り組む。
「なわとびか……」
 
 
 
わたしは小さい時から運動音痴で、なわとびにもいい思い出が無い。
あやとびも二重とびもほとんどできず、上手にとべる同級生たちがまぶしく、
それに比べて、自分はみっともなく、なさけなかった。
学校でのなわとびの時間は自分の『できない』を目の当たりにするはずかしい時間。
ただただ、早く終わることだけを願っていた。
 
娘もまた、小学生になっても、なわとびができなかった。
ダウン症のある娘には筋緊張低下症という特徴があり、その影響もあり運動全般が上手ではない。
歩き始めたのも3才。ゆっくりゆっくり成長していた。
 
なわとびは単純なようで、様々な動きを同時に瞬時に行うなかなか複雑な全身運動だ。
「なわとびができるようにするにはどんな練習をしたらいいのでしょう?」
障害のある子の運動機能に詳しい専門家に相談し、少しずつ練習してきたが、
その時の娘の様子からは、なわとびができるようになるイメージは湧かなかった。
なわとび週間の間中、娘がションボリしている姿が浮かんできて、胸がきゅっとした。
 
しばらくして、PTAの用事で学校に行ったら、中庭でなわとびをする子どもたちの中に娘がいた。
同級生たちはなわとび検定表にのる様々な技を器用にこなしていた。
娘はなわとびのロープを持って立っていた。
「なわとび、いつか、とべるようになりたいね」
そう話しかけると、
「さと、とべるよ!」と元気な声が返ってきた。
「え? そうなの?!」
「うん!!」
 
娘はニコニコ笑顔でなわを持ってかまえた。
そして、なわを背中側から足の前までゆっくり回しておろし、なわの上でジャンプした。
そして、得意そうな笑顔でわたしを見た。
 
いやーそれは、なわとびをとべるって言わないのよ……
両足をそろえてジャンプしてないし、なわを動かしてとぶ連続性もない。
娘にどうやって伝えたら、自信を失わずに「できていない」という現実を理解するのだろう。
伝え方を考えながら、なわとびもどきを続ける娘をぼんやりみてた。
 
娘はすごく楽しそうだった。なわをまわし、ジャンプして。
ここで「あなたはとべていない」と指摘する必要あるかな?
そんな気持ちが湧いてきた。
 
なわとびの行動を分解してみると、
左右の手でなわの両端を持ち、前後に回し、
なわに触れないように上下に両足をそろえてとぶ、を繰り返す、ということ。
娘の動きはゆっくりだが、なわとびの完成形にいたるまでの過程にいる、と言えなくはない。
 
できない状態をゼロとすれば、娘は
・なわとびを両手で持つことができる
・なわを後ろから前に回すことができる
・なわをふまないようにまたぐことができる
0+1+1+1……娘にはなわとびがとべる、といえる要素が3つもある。
 
わたしの見方は、理想の状態から、できていないを引く見方だ。
・両足をそろえてジャンプしてない
・なわを動かしてとぶ連続の動きが無い
・すべての動きがゆっくりすぎる
100-1-1-1……この見方で、見えてくるのはたくさんの課題。
 
できているところに注目する娘の見方の方がうんとしあわせで、力が湧くなぁ……
感心した。指摘するのはやめた。
「うんうん、上手になわを回しているね!」
そう声をかけると、娘はさらにうれしそうになわを回した。
できているところに注目すると、笑顔が増える。
 
それから数年がたち、娘も4年生にもなると、自分はなわとびをとべないという事実に気づいた。
なわとびがとべないことに腹を立てたり、落ち込んでもいた。
「わたしもなわとびをとべるようになりたい!」という気持ちはひしひしと伝わってきた。
 
なわとび週間が来週から始まるという時、専門家にまたコツを教えていただく機会があった。
手取り足取りの指導を受け、娘は熱心に取り組んだ。
そして、ついに、とべた!
その瞬間、娘の全身から、うれしい!の気持ちがほとばしった。
もう一度、とんでみた。
また、できた!
 
「さと、4回とぶ!!」
娘は自分で目標を立て、挑戦しだした。
何度か失敗しながらも、4回連続でとぶと、「次、10回とぶ!!」
「次、20回!!」目標をどんどん高め、果敢に取り組んだ。
娘は結局、この日、あわせて200回近くとんだ。
帰宅後、父親に
「さと、175.2回、なわとびとんだよーーーーー」
なぜか小数点で報告していた。はりきっていた気持ちが伝わってきた。
 
目標をいきなり100にしない。
小さな目標を掲げ、できた!!!のうれしいエネルギーで満たす。
そのエネルギーは自信をうみ、やってみよう、と次の挑戦へと背中を押す。
目標を少し高め、できた!を積み重ねる。
これもまた、足し算方式だ。
 
娘はわたしに挑戦の仕方を教えてくれた。
人と比較して自分を卑下することもなく、
高い理想から自分のできないところを数え上げるのでもなく、
シンプルにゼロから足し算していく。
欠けている部分への注目ではなく、小さな丸をたくさん積み重ねる。
 
わたしは半年前から、キックボクササイズを始めた。
加齢と共に運動音痴はさらにひどくなり、できないことだらけだ。
どんくさく、一人、みんなと動きがずれている。
だけど、そういうことも含めて、毎レッスン、楽しくて仕方がない。
あと1センチ、高く足をあげる。
あと1回、腕立てができるようになる。
小さな目標を小さくクリアして、いつもどんな時も、うれしいエネルギーで満タン。
来週もまた、小さな小さな「できた!」の「〇」を積み重ねる。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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