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僕がワークライフバランスを辞めた理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:カズ(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
僕が30代半ば、働き盛りだったころ、娘が産まれた。
 
妻が懐妊中、僕によく似たこどもになりますように! と願ったせいで、本当に僕そっくりの娘が産まれてきた。ぱっちりした目、太めの眉、小さめの口、ムチッとした二の腕と太もも、短かめの足。瓜二つ。
本当に似ているのだ。
娘を抱っこして歩いていると、全く知らない赤の他人がぼそっと「そっくり……」と呟いて通り過ぎていく、そのぐらい似ている。
 
その頃は、徹夜の日もあるぐらい、仕事は忙しかった。
けれども、こんなにも僕に似た、こんなにもかわいい娘は放っておけなかった。だから、僕は育児にもできる限り時間を割くことを心に誓った。
 
その頃、父親の育児参加を促す言葉が飛び交っていた。イクメン、という言葉もそうだし、
ワークライフバランスという言葉もあった。
 
ワークライフバランス、ワークは仕事で、ライフは娘と関わること。
僕は、全力で働き、全力で育児に取り組んだ。
 
人生で大切なのは笑顔だ、と思ったので、寝返りもまだ打てない頃から、娘の口角を上げる練習をした。
歩き始めて、新聞紙をビリビリに破く遊びに熱中したときは、一緒にビリビリにして、一緒にママから怒られた。
しゃべりはじめて「ママ」より「パパ」を先に言ったことを、親戚中に自慢した。
病気になれば積極的に看病し、病院に連れて行った。
こどもはみんなそうだと思うが、本当によく熱を出した。
 
大変だけれども、僕のワークライフバランスはうまくいっている、僕はそんな風に思っていた。あの日までは……。
 
2歳になったある日、娘はまた熱を出した。
かなりつらそうにしていたので、妻と交代ではあるが、徹夜で看病をした。
 
朝7時から早朝診療をやってくれるあきやま小児科――ぼくらは「あきやまさん」と呼んでいた――にはよくお世話になっていた。
その日も、娘をあきやまさんに連れて行くことにした。朝6時半になり、僕は娘をマイカーのチャイルドシートに載せた。
娘はチャイルドシートはあまり好きではなかった。自由に動けなくなるからだ。でも、その日ばかりは、嫌がることなくおとなしくチャイルドシートに収まった。
 
夜明けを迎えたばかりの薄暗い空の下、20分程度、車を走らせた。
病院には一番乗りだった。診療時間が来るのを待ち、一番に先生に見てもらった。
診断結果がどうだったか、今となってはもう思い出せないが、確かそんなに重いものではなく、僕はほっとしたのを覚えている。
処方箋をもらった。
薬局は病院のすぐ隣だった。薬局の椅子の上で、クスリが出てくるまでの間、僕は娘を抱えたままウトウトして、うっかり娘を落としそうになった。しばらくしてクスリが出来てきたので、それを受け取って僕は車に戻った。
 
夜はすっかり明けていた。また20分ほど車を走らせ、もうそろそろ家に到着するという頃、緩い右カーブに差し掛かった。
家が近づいて気が緩んだのかもしれない。
 
その瞬間、僕の意識が、
 
フッ
 
と突然飛んだ。
 
次の瞬間、
 
ガガガ! ガリガリッ! という大きな音。
 
同時に、ガタガタとした揺れ。
 
慌てて僕はブレーキを踏み込んだ。
 
寝不足による居眠り運転だった。
緩い右カーブに合わせて配置されたガードレールに、僕のマイカーは思いっきり突っ込んでいた。
 
大きく息を吸い込み、どうすればいいかわからなかったので、とりあえずエンジンを止め、ハザードランプを着けた。
まわりを見回すと、後ろの車の運転手、対向車の運転手たちが、心配そうにこちらを見ていた。
 
初めての事故。
茫然自失のまま、どのくらい時間が経っただろうか。
さすがに道路の通行を止めたままにするわけにいかないので、僕は車を今一度動かすことにした。
 
キーを回したら、幸いにもエンジンがかかった。
 
ゆっくり車を動かし、すぐ近くだった家の駐車場になんとかたどり着くことができた。
駐車場に止めると、びっくりしたのが収まったのか、それまで静かだった娘が泣き出した。
 
幸い、僕も娘も、怪我らしきものは見当たらなかった。
 
娘を妻に引き渡し、レッカー車の手配をした。事故にともなう一連の作業を済ませると、僕は一気に恐怖に襲われた。
 
もし、
 
あの道がゆるい「右カーブ」ではなくて、「左カーブ」だったらどうなっていただろう。
 
もし左カーブだったら、
 
おそらく、車はセンターラインを越え、対向車と正面衝突していたのではないか。
そうなったら僕の命はどうなっていたかわからないし、娘の命だってそうだ。
 
僕は身震いをした。
 
その日の午後、特に打ちつけた箇所や痛む箇所はなかったが、念の為病院に向かった。待合室で適当に雑誌をパラパラとめくりながら考えた。
 
僕のワークライフバランスは間違っていたのではないか。
 
全力投球。
ワークを目一杯頑張ったまま、ライフも目一杯頑張ればいいと思っていた。
 
しかし、1日は24時間。48時間になるわけではない。
ワークが増え、ライフも増えると、削られるものがある。
 
何か?
 
そう、睡眠時間が削られるのだ。
 
間違ったワークライフバランスは、幸せを奪う。
僕でなくとも、働き盛りの優しいお父さんたちは、安易に睡眠を削ってしまうだろう。
そしてそれは、持続可能性のない、バランスになってしまう。
 
だから僕は伝えたい。
 
ワークライフバランスではない、ワーク・ライフ・スリープバランスを取ろう、と。
一人でも多くのパパたちが、かわいい子どもたちとともに、幸せな人生を送れるように。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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