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破水は突然に、思いやりのバトンリレー


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大湯咲子(ライティング・ゼミ日曜コース)

真夜中の午前0時、ポンっとお腹で風船が割れるような感覚があった。
 
いままで感じたことのない感覚。
 
半年以上、ぶつけないよう、転ばないよう、大事にしてきたお腹。
 
大きくなってくると、うつ伏せになることもできない。
 
第二子の妊娠中は、おなかが張りやすくて、いつもパンパンになっている感覚で苦しかった。
 
そんなお腹を抱えながらも、毎日4歳の長女と一緒に9時頃には就寝し、疲れた体は娘の隣でいつも寝落ちするように眠りについていた。
 
しかし、あの日は何故だろう、眠ることができなかった。
 
娘の隣でスマホを開きつつ、ゴロゴロしていたのを覚えている。
 
そんな中、突然、風船が割れるような感覚が訪れたのだ。
 
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
 
第一子の時は、こんなことなかった。
 
出産予定日は、まだ2週間以上先だった。
 
その日は日中、産婦人科に通院しており、「子宮口(赤ちゃんの出口)は少し開いているけど、まだかかるかな」という医師の言葉もあった。
 
はるばる実家から来て一緒に通院してくれた母は、その言葉に安心し「また明々後日ね」と笑顔で帰って行った。
 
出産予定日の2週間前である3日後から出産日まで、私の家に泊まってもらうことになっていた。
 
当時、夫は単身赴任で週末しか帰ってこられず、私の両親も夫の両親も他県に住んでいた。
その日は平日で、家には私と娘の二人きりだった。
 
ポンという感覚の後、特に痛みはなかった。
 
ただ、お腹の中の何かが割れるとすると、赤ちゃんと羊水を包んでいる卵膜が破れるという破水以外に思いつかない。
 
娘を起こさないよう、そっと布団をでて、トイレに行った。
 
さらさらとした水のほうなものがティッシュをじんわりを濡らす。
 
破水していた。
 
どうしよう。
 
思考が停止する。いや、思考がぐるぐると回りすぎて、パニックになっていたのだと思う。
 
そんな数秒の間にも出てくる羊水の量が増えていく感じがする。
 
体を動かすとさらに量が増え、床にしたたり落ちた。
 
まずは、病院に電話をした。
 
「できるだけすぐに来てください」とのこと。
 
上の娘のことを相談すると、「保育所ではありませんのでお預かりする場所はありません」と電話越しの声がとても冷たく感じた。
 
すぐに病院に行かなければならない。
 
しかし、娘は連れていけない。
 
できるだけとは、具体的には何分? 何時間??
 
時限爆弾のボタンが押された感じがした。
 
よくバラエティー番組で、風船が割れるまでにクイズに答えるゲームがあるが、今回はその逆だ。
 
羊水が流れ切ってお腹の風船がしぼんでしまうまでにすべての問題を解決しなければ、私もおなかの中の子も、どうなってしまうのかわからない。
 
夫に電話した。
 
もし寝ていたらどうしようという不安が頭をよぎったが、幸い、夫はすぐに電話にでた。
 
寝ぼけた声だが、少しほっとした。
 
一通り状況を説明した。
 
私は一人でも病院にいける。
 
陣痛タクシーは申込済みだったので、電話をすればすぐに来てくれることは第一子の時に経験済みだ。
 
ただ、娘を見ててくれる人がどうしても必要だった。
 
まだ4歳。今はぐっすりと寝ているが、一人残しておくことはできない。
 
一番近くに住んでいるのは義母だった。
 
電車が止まっている時間なので、車で来てもらうしかない。
 
夫からの電話で、2時間程度で義母が来てくれることになった。
 
夫は朝一の新幹線で帰ってくるとのこと。
 
娘をバトンに例えた出産リレーは、私が第一走者、義母が第三走者、夫が第四走者をつとめることになった。
 
しかし、まだ私と義母をつなぐ、一番大事な第二走者がいなかった。
 
羊水はその間も少しずつ流れ出てきていた。
 
午前0時10分。
 
遠くの親戚より近くの他人と思い「もしもの時は助けて」と冗談半分で伝えていた近所のママ友グループに、LINEメッセージを送った。
 
「夜分にすみません。先ほど破水してしまいました。至急病院に行かないといけないのですが、娘は連れてくるなと言われてしまいました。本当に申し訳ないお願いなのですが、どなたか娘を見ててもらえないでしょうか」
 
午前0時20分。
 
病院への入院準備をしつつ、ママ友からの返信を待っていたが返信はなかった。
 
すでにみんな寝てしまったのだろう。私だっていつもは寝ている時間だ。
 
仕方ない。娘を置いて病院に行くしかない。
 
娘は夜起きることはほとんどない。義母が来る午前2時頃までなら、きっと寝ててくれるだろう。
 
ただ、万が一起きてしまった時に泣くだけならまだしも、私を探して家の外に出てしまったらどうしようかと、それだけが不安でたまらなかった。
 
午前0時32分。
 
陣痛タクシーを呼んだすぐ後に、ママ友の一人から返信があった。
 
「いけます!」
 
ああ、神様! と飛びつくように返事を書いた。
 
30分以内には到着できそうだという。
 
第二走者が決まった。
 
バスタオルを股に挟んだ滑稽な格好で、私は陣痛タクシーに乗り込んだ。
 
ママ友が来るまでの30分間、「娘が目を覚ましませんように」と祈りながら。
 
午前0時55分。
 
ママ友から到着したとの連絡があった。
 
娘はぐっすり寝ているという。
 
よかった!!
 
その直後に私も病院に到着し、すぐに出産準備となった。
 
午前1時45分。
 
分娩室に移動。
 
そのころに、第三走者の義母が家に到着した。
 
分娩台の上で、ママ友へのお礼と義母への連絡事項をLINEで送る。
 
いい時代になったものだ。
 
「そろそろスマホ回収しますね」
 
スマホを看護師さんに預けて、子宮口が全開になるのを待った。
 
その後のお産はびっくりするほど順調だった。
 
全ての手配が完了して、ほっとしたのだろうか。今まで感じなかった陣痛も少しずつ強くなってきた。そして、すぐに激痛のピークが訪れ、するりと出産。
 
午前3時前には我が子の産声を聞くことができた。
 
その後、昼過ぎには、夫と娘も病院に顔を出してくれた。
 
娘は「起きたら、ママがおばあちゃんに変わっていた」と笑顔で話してくれて、その時心からほっとしたのを覚えている。
 
あっという間の3時間だった。
 
のんびりスマホを見ていたのに、3時間後には第二子を胸に抱いていた。
 
あれから一年近く経つ。
 
子どもはすくすくと成長しているが、今でもたまに考える。
 
もし、娘が起きてしまったら。
 
もし、ママ友の助けがなかったら。
 
もし、夫が電話に出なかったら。
 
どこかでバトンを落としてしまう状況を想像してゾッとすることがある。
 
今ならもっと良い解決策が思いつくし、そもそももっとリスクヘッジしておくべきだったと反省するが、とりあえず、私のお産は幸運にも、家族や友人の思いやりリレーによって無事に終えることができたのだった。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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