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生け花のススメ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤朱子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「パチン、パチン」
静かな空間に鋏を動かす音がする。花を切る鋏の音。整えられた花を丁寧に剣山に刺していく……。
静かな空間、優雅なひと時。
生け花、「花を生ける」というと、どんなイメージだろう。着物姿の女性が和室で正座して生けている光景が思い浮かぶのだろうか……。
 
実は、そんな光景は全くないとは言わないが、かなり珍しい光景だ。実際に花を生ける時、手が水に濡れることもあり、場合によってはとても力が必要だし、そんな綺麗な格好で優雅に生けるのはかなり大変なことだ。まあ、それにお稽古の度に着物を着るなんて、そんなことはなかなか難しいことだろう。そう、着物を着てお花をいけるなんて、花を生けている時の「姿」を見せるためのものだ。
 
お花を習い始めて早12年余り。私は今まで着物姿でお花を生けたことはない。仮に、そんな優雅な姿でお花を生けることができていたとしても、その姿とは裏腹に、心の中はドキドキ、そして頭の中にいっぱい汗をかいて生けている。
 
生け花、華道にもお茶の世界などのように、幾つかの流派がある。日本三代流派と言われるのは「池坊」「草月」「小原」。流派によって「花に対する生け方」や「華道に対する考え方」などの違いがある。しかし、そもそもは、仏前に花を供える際に施されたアレンジから華道は始まっていると言われている。そして、
 
「花材(花)を切って花器に生ける」のは、どの流派もみな同じである。
 
もう一つ特徴がある。生け花はフラワーアレンジメントと比べると、花材(花、草木)の種類や本数が少ない。私が習っている池坊では、自由に生ける場合、3種類の花材、数本を一つの花器に生けることが多い。また、お花は正面から見ることが決まっている。
 
「少ない花材で表現し、まっすぐ向き合う」のが生け花なのである。
 
初めて花に向かい合った時、私は本当にどうしたらいいのか全くわからなかった。ドキドキしすぎて言葉にもならない。
先生に
「どのお花を中心にするか決めてみてください」
と言われたところで、どうしたものやら。よくわからないが、メインになるのはやっぱり咲いているお花か?
じゃあ、中心のお花をどうか扱うのか。お花屋さんから届けられている花材は茎が長いままである。「短くしないと」と思うけれど、とにかく、怖くて怖くて、切れない。切って短くなりすぎてしまったらどうしよう。恐怖との戦いだ。
 
そして、「長さ」だけではない、花には「向き」があると言う。
花材をくるくると回しながら、どっちを向いていると綺麗なのか、どっち向きに使うといいのだろうとか、頭の中に汗をかきながら一生懸命考える。
花や葉が多くついていれば、全体の形の中で、この花は必要なのだろうか、この葉っぱは必要なのだろうか、と考え、切り落として整えなければならない。でも、「落としたら元には戻せない!」と切り落とすか、落とさないかで葛藤する。
 
お稽古の最中に「あっ」とつぶやいてしまうこともしばしばだ。
短く切りすぎたり、花や葉を落としすぎてしまったり。枝を少しだけ曲げたいのに、力が入ってボキッと折れてしまったり。
「やってしまった……」
後悔しても遅い。元には戻らない。目の前のそれでなんとかしなくてはならない。別の使い方をするのか、いっそ使わないのか、と決断する。
 
はじめの頃は慌ててばかりだった。でも、最近は「慌てても仕方がない」と達観する。当たり前の話だが、一度切ったものは元には戻らない。だから生け花は「選択」と「決断」の連続だ。
 
そして、直感的に思う。生け花は思い切って切ってしまった方がすっきりするようだ。全体を眺めて、いらないところを切り落とす。線を綺麗に、シンプルに、際立たせるところのために、他のものを落とす。どんなに花が沢山咲いていても、一番綺麗なものを目立たせる、活かすために切り落としてしまう。
 
同じ種類のお花でも一つとして同じ形のものがない。だから、以前やったことと全く同じことは通用しない。実践、経験が大切で、それが次に活かされる。
完成形は唯一無二のものだ。花器によってもその表情は違う。当然だが、生ける人がその花材に向かい合ってできる形は、みな違うものになる。
 
人生も「選択」と「決断」の連続だ。毎日、目の前に起こる出来事をくるくる回しながら、360度眺めて、それで一番いい「向き」を考え、答えを出す。他のものとのバランスを見ながら、扱っていく。全部が全部、均等である必要はない。小さくしたり、前に出したり。多くのものを一度に扱うことはせず、大事な出来事を丁寧に、まっすぐ向き合う。
与えられる材料はそれぞれ違うものだ。それにどう向き合うか。そしてできる形もその人なり、である。
 
先生に、「色気のない花」だと言われることがある。
まだまだ、人生の色気が足りないのかも。まっすぐ立つだけではダメだ。時にしなだれて、時に流れに任せて傾いて、いろいろな表情を表現できるようにならなければ……。
人生にも表情が大切だということか。
 
人生において、見る目と決断力をつけたかったら、生け花をオススメしたい。
不思議だが、自分が生ければどんなお花も綺麗に見える。
さらに先生の手が入ると、もっと綺麗に素敵になる。人生の先輩がちょっとアドバイスをくれたらパッと目の前が明るくなるような、そんな気分だ。
 
しかも、花器の中で綺麗にその形を保っていられる時間は短い。選択し、決断しても、それは消えていく。
そしてまた、新しい花との出会いにときめくことができる。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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