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「ごめんなさい」という病気が「ありがとう」に変わるまで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北林万里奈(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ここにいてごめんなさい」
後悔の心や自分への自信のなさから、こんな罪悪感でいっぱいになったことはありますか。
私はこの「ごめんなさい」病の経験者だということを、ここに告白します。
 
最初にこの「ごめんなさい」を強く意識したのは、高校時代に初めてアルバイトをしたファミレスでした。
緊張して焦ってしまい、お皿をことごとく割りつづけました。暗記して覚えた座席も、動きが伴うと自分の現在地がわからなくなり、頭が真っ白になってしまいました。
 
いつも笑顔で接客する店員に感謝を感じて始めたアルバイトでしたが、感謝されるどころかお客さんからのクレームを受けてばかりです。
毎晩、店長や先輩たちから指摘される夢を見るほどでしたが、それでも接客は上手くなりません。とうとう自信が完全になくなり、「ここにいてごめんなさい」という気持ちになっていきました。
卑屈な気持ちになっていると、周りの態度も変化していきます。
「あのさ……レジ内の金額が売り上げと合わないんだけど……思い当たらない?」
遠慮がちに、けれどはっきりとそう尋ねられた瞬間、こう思いました。
ああ、疑われてしまうほど、私って信用がないんだ。それなら辞めよう。
記念すべきアルバイト初体験は、三ヶ月でむなしく幕を閉じました。
辛いと感じる場所から離れたことで、とても気が楽になったと記憶しています。
 
これは自分に向いていると感じたアルバイトもありました。ウェブサイト制作の仕事です。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
自分のデザインでお客さんに喜んでもらえることにやりがいを覚えた私は、新卒でウェブ制作会社に就職し、アシスタントデザイナーとして働き始めました。
入社当初も「発想力がすばらしい」と評価してもらえていたので、もしかして私はデザインの天才なのかも……と、半ば本気で思っていました。
 
しかし、世の中はそこまで甘くありません。
「とうていお客さんに出せるレベルじゃないから、もっとアイデアを出して」
職場の先輩の言葉は、褒められつづけ天狗になっていた私の鼻をへし折りました。
得意分野だと思っていたもので失敗することは、苦手分野で失敗するよりもずっとショックが大きいのだと、そのとき悟りました。
今なら期待していたからこその言葉だったとわかりますが、まだまだ未熟だった私は、「ここにいてごめんなさい」と激しく落ち込み、デザイナーになった自分の選択を後悔するようになりました。
 
大好きだったデザインが楽しめなくなり、会社に行くのが憂鬱な日々。
このままではまずい。
本能的にそう感じたある日、思い切って近所の心療内科を予約しました。
 
診察の時、先生に言ってもらったこの言葉を、今でも覚えています。
「早い段階で来てもらえて本当によかった。ありがとう」
「ごめんなさい」ばかり呟いていた私にとって、「ありがとう」は救いの言葉でした。
感情のまわりを覆った氷の塊が、あたたかい日の光で溶けていくかのようでした。
後日会社に事情を説明した私は、業務量を調整してもらいながら治療をすすめることになりました。
 
少しずつ心の余裕を取り戻していたある日。とある広告代理店のデザイン提案の仕事が舞い込んできました。
世界中の誰もが知っているようなメーカーのウェブサイトのコンセプトを決める大仕事です。
案を出してみないかと声をかけられたとき、私は一瞬ためらいました。また失敗するかもしれない。自分のせいで、誰かに迷惑をかけるかもしれない。
しかし、不安に思う気持ちより、その仕事に携わってみたいというワクワク感が勝ちました。
挑戦させてもらった結果、私の提案が満場一致で採用されることが決まり、メインデザイナーとしての一歩を踏み出すことができたのでした。
 
あれから三年。
新人時代に夢見たような天才ではなかったけれど、ご縁があって今もデザインの仕事を続けることができています。
お客さまや一緒に働く仲間から喜びの言葉をもらうたびに、諦めずに続けてよかったと感じる日々です。
 
以前、私が頭の中で唱え続けていた「ごめんなさい」は、今や違う言葉にとって代わりました。
「ありがとう」です。
 
初めてのアルバイトで大失敗したファミレス。アルバイト時代、デザインを喜んでくれたお客さん。プロの世界の厳しさを教えてくれた先輩。「ありがとう」と言ってくれた心療内科の先生。仕事のペースを落とすことも、前に進むことも応援してくれた会社。私をプロとして初めて認めてくれたお客さま。
どの場所、どの登場人物が欠けていても、今の私はここにはいないからです。
 
「ここにいてごめんなさい」病の経験者として、私がお伝えできることは二つあります。
一つは、今が辛いのは、解決したいという強い気持ちがある証拠だということ。
もう一つは、どんなに苦しい「ごめんなさい」の経験も、後から「ありがとう」に変換することができるということです。
 
その場から逃げてもいい。立ち止まって助けを求めてもいい。
頑張った自分の心を守るために、行動してみませんか。
「ごめんなさい」が「ありがとう」に変わる日は、そう遠くないのかもしれません。
 
 
 
 
***

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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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