私にとってこれは、究極の趣味本かもしれない
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:山田THX将治(リーディング・ライティング講座)
誰でも、趣味を持っているものだ。
趣味のこととなると、時間とお金を掛けることに制御が効かなくなるものだ。それは往々にして、共通の趣味を持つ方しか理解出来ないことだろう。
特に、大人になっても趣味に走っている人を、傍(はた)ではどこか呆れて見ているのでは無いだろうか。
そういっている私は、他に類を見ない映画フリークだ。これまでに15,000本を超える映画を観賞してきた。還暦を越えた現在でも、学生時代と同等の年間300本を超える映画を観ている。
それは勿論、レンタルや配信で観るのではなく、実際に映画館へ足を運んで観るのだ。これは特に、自宅でテレビやPCのモニターで映画を観賞する方を下に見ているのではない。勿論、映画を映画館で観ることのみが正当だと声高に意見するものでも無い。
私にとっては、映画観賞が一種の行動様式になってしまっているだけのことだ。
映画を観るまでに、どの作品を選び、どこの映画館へ出掛け、誰を誘って、何を着て行き、帰りに何を食べ、その際何をお喋りするかといったことが関連するからだ。そう、映画館での映画観賞には“5W1H”を考えなければならないのだ。
映画館へ行くことは、とても便利なことがある。それは、映画館に置いてあるチラシ(フライアー)を入手することが出来ることだ。また、映画本編の前には、必ず次回上映予定作品の予告編(トレーラー)が付いているからだ。チラシや予告編を観ることで、次に観賞する作品を絞り込むのに役立つのだ。
ただ、チラシは保存に手間取り、予告編は大して観たくも無い筈の作品が、何故か観たくなるという連鎖を起こしがちになるので、注意しなければならない。
これは映画ファンに限ったことでは無いが、趣味に走り出すとやたらと趣味に関するグッズが集まってくる。
特に映画ファンはその傾向が強く、先程のチラシの他、前売りで買い求めた観賞券の半券やムビチケ、そして、映画のプログラムと、どれもこれも大切に保管したくなるものが多い傾向にある。
そんな映画ファンの声を代表する様な本が在る。新井巌・著『洋画プログラムに夢中だった頃』(言視舎・刊)がそれだ。
本の内容は、1955年から1988年に日本で公開された著者の貴重な映画プログラムの写真と、その映画にまつわる想い出が綴られているものだ。
シナリオライターを父に持つ著者だが、私が生まれる前の作品をリアルタイムで観ている(本書より)ことから、戦中のお生まれと察することが出来る。しかも、映画黄金期といわれた1950年代の作品でも、数多くの男性、特に男の子に好まれそうな作品を観ていることから、かなりの映画好きと思われる。
今回、この本をお勧めするのは、著者の新井巌氏が、映画の専門研究者や学者では無いということだ。新井氏の本業は、コピーライターだ。この『洋画プログラムに夢中だった頃』を読むと、本の題名もさることながら、一文一文が短くて読み易く、それでいて的を射た表現をされていると感心してしまう。流石に、コピーライターが綴る文章は違うものだと、私は感じ入った。
新井氏は、映画の他、クラシック音楽やオペラに対する造詣が深いらしく、その方面の著作も残されている。
映画に関する本は、兎角、小難しく読み辛いものが多い。
それは、映画の専門家と称する学者や研究者が、まるで学術論文の様にはいた本が多いからだ。そこには、上から目線の文章が続き、取り上げる映画も芸術色が強く娯楽性の少ない作品が多い傾向にある。
そういった、一般受けしないような作品が続くと、思わず行間に、
「お前等、こんな映画も観ていないのか」
と、高飛車な感情が綴られている様な気がしてならない。
ところが、映画の専門家でなく文章がとても上手(読み易い)新井巌氏の『洋画プログラムに夢中だった頃』は、我々一般の映画ファンと目線が同じなので、決して上から目線になってはいない。
しかも、テーマが映画のプログラムということは、新井氏が実際に映画館へ足を運んだ証拠だ。その上、映画館へ行ったということは、試写等で無料にて映画を観ているであろう専門家と違い、新井氏は我々と同じく木戸銭(入場料)を自分で払って、映画を観ている筈だ。
有料で映画を観ているということは、映画選択を誤り悔しい思いをしたこともあったのではと考えられる。我々と、同じ痛みを知っていると考えてもいいだろう。
こんな共通点が、『洋画プログラムに夢中だった頃』に親近感を沸かせるのだ。
クラシカル映画を観る際、何から観ようかと迷った時等、この本はとても役立つとも感じた。
私も、もし可能なら、こんな映画の本を書いてみたいと思った。
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