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メディアグランプリ

何年経っても涙が出るけど、僕は何に対して泣いているのだろう。


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記事:岸★正龍(ライティング・ゼミ)

 

猿がいたんだ、20年前、僕がオープンした店のショーウィンドウに。ブラジルが故郷だけど日本生まれの、フリップって名前のメスのコモンマーモセット。
そこにオスがやってきて僕はダンスと名付け、すぐにレンチとパンチって子供が生まれた。残念ながらパンチは死産だったけどレンチは順調に育ってくれて、彼ら親子は仲良しで、人気者だった。
彼らの顔を毎日見に来てくれる人たちがたくさんいて、大好きなバナナがガンガン差し入れられて、彼らは確かに街の人気者だった。

僕も。
嫌なことや苦しいことは山ほどあったけど、彼らにメシ食わせてるとあたたかな気持ちになって、ヨシ頑張ろうって。
助けられてた、彼らに、相当。
けれど僕の経営者としての不甲斐なさでその店閉めることになって、彼らを育てられる環境がなくなって、どうしようってときにその店の店長が「家で育てます」って言ってくれて。彼らは僕の元から離れていった。

時は流れて。13年前。
色んな縁に恵まれ、素晴らしい立地の一階にもう一度路面店が出せることになり、フリップとダンスとレンチをやっと復帰させられると、僕は張りきって店の中に彼らの小屋を造った。

自分勝手?
そう。まさに、そう。
店が閉まったときは店長に押しつけたくせに、いざ開店となるといい宣伝だとか、集客に一役買うとか、そんなことばかり考えて彼らを店に連れてきた。

だけど彼らは文句を言えない。
やってきたよ、彼ら。
その店のオープンと同時に親子揃って引っ越してきた。それで思惑通り格好の宣伝として店に人を呼び込んでくれ、11月終わりにオープンした店は盛況のまま正月休みに入った。

さてその休みの間、といっても正月三が日だけだが、「誰が彼らの面倒をみる?」ってそんなくだらないことで揉めたんだ。
別に僕がやればよかった話。当時僕はそこから自転車で10分もかからない場所で別の店もやっていて別の店は元旦から営業していたのだから、ちょっと自転車で走っていってメシやって掃除するくらいはなんでもなかったのに。
でも自分のことしか考えられなかった僕は、その店で育てていて、その店が彼らの恩恵に預かっている以上、その店スタッフが面倒みるべきだと主張した。
ところがその店のスタッフはもうそれぞれの都合を入れていて、でも僕は頑なに主張を曲げなくて、結果彼らは休みの間だけ元いた店長の家に戻ることになって。

そして、
1月3日……

僕が正月の酒におぼれている間に。
連れて帰った店長が、店の小屋に紫外線が足りなかったせいでちょっと弱っていた彼らを日光にあてようとゲージごと外に出してきて、彼が深夜帰宅したとき、彼らは、寒くて、寒くて、寒くて、親子身を寄せあい小さく丸まって、絶命していた。

僕だ。

僕が自分の都合ばかり考えたから。

「客寄せになる」とか「面倒くさい」とか「金儲けたい」とかそんなことばかりを考えていたから。だから彼らを死なせてしまった。言いわけなく。彼らの死は僕のせいだ。

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いま僕の元には猿がいる。
救来って名前。

彼らを死なせてしまったクソみたいな僕が、それでも彼らのためにできることを考えて、クソ頭必死で絞って考えて、世界で一番幸せな猿にしてやろうって新しく連れてきた彼らと同じコモンマーモセット。
それでフリップやダンスやレンチが帰ってくるわけじゃないし、自然から切り離して育てること自体に問題があるってわかっていて、でも世界で一番幸せにしてやるって僕は、いや、僕らはいま救来と暮らしている。
だって僕らは約束したから。フリップと、ダンスと、レンチと、救来を世界で一番幸せな猿にするって。自分のことの前に救来のことを考えるって。

救来は今年13歳になる。
寿命10年といわれるコモンマーモセットでは大層なおばあちゃんだし、生きている年数だけを考えれば、救来は幸せなのかもしれない。
けれど全然足りないんだ。なにが足りないかわからないけど、毎年1月3日にフリップとダンスとレンチに一年の報告をしに行くと、なにかが足りていないからいつも涙が流れるんだ。ひたすらに涙……

僕は、物書きが、結論を書かないことを卑怯だと思う人間だ。だからこの文章を書き始めたとき、僕は僕の涙の意味を書こうと思った。書いて自分の中でも結論づけようと思った。けれど、書きながらまた泣いて、ひたすらに泣いていたら、そんなことどうでもよくなった。
一年に一度、フリップとダンスとレンチに会いに行き、一年の報告をして、まだ全然足りないってひたすら泣く。それでいいんだ。少なくとも今年のいまのこの時点ではそれでいいんだ。
また来年も1月3日はやってくる。それまでの365日間、僕は今日の涙を抱えて生きていく。それでいいんだ。

 

***
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2016-01-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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