メディアグランプリ

好きだった女子にパンツを下ろされた僕の疑問。

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岸さん パンツ

 

記事:岸★正龍(ライティング・ゼミ)

 

僕は女子が苦手である。
恋愛対象として男子しかダメと言う意味ではない。
むしろ恋愛対象としての女子は大好きだ。
けれど僕は女子が苦手である。
小学校低学年の頃、女子から強烈ないじめを受けていたせいだ。

その頃いじめにあっていたのは僕とSという女子で、Sは片足が不自由なせいで、僕は少し患っていた病気のせいで、二人とも走ることができなかった。
はじめに走れない二人をいじめたのは男子だ。ひょこひょこ逃げ惑う僕らを追い回し、追い回しながらボールやミカンやヤカンをぶつけてきた。
それをいつも守ってくれたのが女子のM。クラスの女子のリーダー格。勉強ができて、運動もできて、ショートカットの可愛い子。当然僕は彼女のことを好きになった。

そのMの誕生会に呼ばれた。行ってみると男子は僕だけで、女子はクラスのほぼ全員が揃っていた。行われたのは、僕の糾弾会。
「岸君がSちゃんをいじめるとは思わなかった。なぜあんなことしたの」
Mが言う。そのものすごい剣幕に僕は押される。
「なんかの間違いでしょ。僕、Sちゃんをいじめてないよ。Sちゃんに聞いてよ」
「Sちゃんは家で泣いてるわ。仲間と思っていた岸君にいじめられたショックで」
Mがかわいい顔を歪めて大きな声を出す。
「本当に知らないよ。僕じゃない。僕はいじめてない!」
僕も負けじと声を張り上げる。
「そうやってずっと嘘をつくなら、嘘がつけないようにしてあげる」
Mが女子連中に目配せすると、僕の周りを囲んでいた子たちが一斉に飛びかかってきた。あっという間に組み敷かれる。Mは上から僕を見下ろし、両手を身体の後ろに回して縛り、両足を縛り、女子たちの真ん中にその状態で放り投げ、嘘をついたからズボンを下ろすといい、ズボンが下ろされたあと、次に嘘をついたらパンツを下ろすと言った。
「ごめんなさい。いじめました。許してください」
僕は叫んだ。この状態でパンツを下ろされるのは嫌だ。それだけは絶対嫌だ。
「ははははははは、やっと白状した。許すわけないよね。Sちゃんいじめて、私たちにもずっと嘘ついて。それで許されるわけないじゃない」
Mはそう言って僕のパンツを下ろした……

いま僕は天狼院のライティングゼミに通信講座で参加している。
ゼミの中で先生である三浦さんは「企む」という言葉をよく使う。
三浦さんが「企む」と言う度に、僕はパンツを下ろされたあの日のことを想い出す。正確には、あの日からかなり長い間続いたいじめの全部、小学校の自慢だった校庭の銀杏の木にパンツ下げたまま縛りつけられ放置されたこととかを全部、鮮明に想い出す。

だってあの時僕はずっと考えていたのだから。
これを企んだのは誰だ? って。

まず男子は考えられない。
女子に囲まれパンツを下ろされたという話が広がると同時に、今度は助けてくれるようになった男子が企むわけはない(助けてくれるようになった理由は男なら分かるだろう)。

となると一番怪しいのはSだ。
けれど、もしそうだとしたらなんのためだ?
Sが女子からいじめられて、その矛先を僕に向けるため?
いやそれも考えられない。だって僕はSからラブレターをもらっていたから(愛というより同類相哀れむ感情だろうが)。
では一体誰が?

なんて、ちょっと企んで書いてみたけど僕の企み力など大したことないから、この文章を読んでくれているあなたにはきっと看破されているだろう。

そう、企んだのはM。
男子から執拗にいじめられていた僕を女子がいじめれば、逆に男子はいじめなくなる。そうMは企んだのだ。
「だから、ちょっといじめるけどいい?」と聞いてくるMの企みに僕は乗った。いじめから解放される期待もあったが、それ以上に同じ企みに乗ることで、Mとの距離を縮め恋仲に持ち込めないかと企んだからだ。
けど、まさか、パンツを下ろされるとは!
いやきっとMは僕が恋仲になろうと企んでいることを見抜き、女子に囲まれた中でパンツを下ろせばその恋をあきらめると企んだのだろう。僕をいじめから見事に救い出し、同時に叶わぬ恋をきれいにあきらめさせる……小学校低学年にして恐るべし企み力である。
僕も文章を書くに当ってそんな企み力が欲しい。いや欲しいではなく、手に入れる。手に入れるまで量稽古を積む。よし、やろう、よし、やってやろう!

とアゲアゲでいたら、なんという偶然か街でMと再会した。その驚くべき引き寄せを喜んでいると、
「私、あの頃、岸君のこと好きだったのよ」と衝撃の告白。
好き? は? なにそれ?
にわかには何を言われているかわからなかった。
「からかわないでよ。好きだったら、みんなの前でパンツ下げないでしょ」という僕に、
「バカねぇ、好きだから下げたんじゃないと」とM。
「え、どういうこと? え?」とますますわからず狼狽する僕に
「そんなこともわからないの?」と企み顔を返すM。

いや、ごめんなさい、全然まったくわかりません。

やっぱり僕は女子が苦手である。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-01-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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