メディアグランプリ

偽善な企画で救われたのは誰か?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ナギハネ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
※この記事はフィクションです。
 
企画はパクれ。
『中身からっぽのお前がどう頭ひねっても、なんも出てこねえよ。面白いコンテンツ見つけたら、パクれ』
新入社員の時に言われた言葉を思い出したのは、四十路を前にして番組を一つ任されたからだ。
 
7年働いた広告会社を辞め、フリーの番組制作プロデューサーになって8年。すごいクリエイターになってやるぞという意気込みは、社会の荒波に押し流され、もはやパクる気力もない、ただただ細々と仕事をこなす日々。そんな時、ドタキャンされたとかで、地方局の深夜番組を誰かの代わりに任された。
初回の企画を考えあぐねていた時、『企画はパクれ』という言葉を思い出したのだ。
 
「ねえ、早く食べちゃってよ」
テレビを見ながら焼きそばをすすっていた俺に、妻が冷たい言葉を投げかけてくる。
「食べながら仕事してるんだよ」
妻の返事はなく、バタンっとリビングのドアが閉まる音だけが響く。缶ビールに口をつけ、チャンネルを変えていった。
 
「僕は驚きました」
テレビに映し出されたのは、金髪碧眼の外国人だった。世界中に展開してる大手ホテルのオーナーが、メキシコにある自分のホテルに変装し、従業員として潜入。現場の課題を目の当たりにするっていう海外のドッキリ番組を取り上げていた。
ホテルのオーナーが、親しくなったホテルマンに正体を明かし、彼にマネージャーへの昇格を告げていた。
「感謝しかありません」
ホテルマンは涙を流し感謝して、オーナーと抱き合っている。
 
偽善だろ、これ。上から目線の金持ちが、貧乏人に慈悲を与える。軽い嫌悪感を覚えた時、俺はふと、会社員時代に出会った、工務店を営むワンマン社長を思い出した。
新卒採用向けの会社紹介動画を任されたのだが、ヒアリングをすればするほど、ワンマン社長の傲慢っぷりやブラック体質が露見するばかりで、少しも「良い動画」になるネタがない。結局、「働きがいのある職場」「自由な社風」という見せ方で動画を作った。真実味のないうわべっつらの動画だった。まだ若かった俺は自己嫌悪に陥ったが、「いいところを引き出したんだ」と自分に暗示をかけた。あれも今思えば偽善だな。自己暗示による偽物の善。アクセス数は伸びず、ワンマン社長から叱責され、制作料は払わないと揉めに揉めた。
 
あの社長、どうなってるんだろ。ネットで調べてみると、会社はすっかり大きくなっていた。西日本を中心に支店を展開している。ホームページのトップには、どや顔で微笑むワンマン社長があった。
 
偽善ドッキリに、ワンマン社長。2つのパズルをぱちっとあわせてみる。これ、イケるんじゃね?
 
企画の中身はこうだ。とある工務店の社長が、変装して現場に潜入。現場の課題を目の当たりにしたところで、ネタ晴らし。問題を解決して社員を労う。と、ここまではパクリ。本当は社員たちの本音動画を別撮りしておいて、「ブラック企業の実態」を暴き、社員たちを救うのだ。パクりっぽいけど結末はパクリじゃない。いいね、これ。
 
しかも、だ。
焼きそばを平らげ、缶ビールを飲み干した。
ワンマン社長と揉めた一件で、俺は会社から煙たがられるようになったのだ。あのワンマン社長に復讐して、あの頃の俺も救ってやれる。
汚れた食器とつぶれた缶ビールを片付ける暇もなく、俺は企画書づくりにとりかかった。
 
局に企画を持ち込むと、あっさりオッケーがでた。ドタキャンされてスケジュールがギリだったからだ。ワンマン社長への出演依頼もすんなりいった。ちょうど新卒採用に力を入れようとしているタイミングだったらしく、地方とはいえテレビ局からのオファーに喜んでいた。
いろんなタイミングがぴたっとはまり、企画は進み、無事に撮影が終わった。
 
放送した番組は、大成功だった。深夜枠にも関わらず視聴率は上々。ワンマン社長のパワハラとブラック体質の現場が暴露され、ネット上ではワンマン社長への批判の声があふれた。
 
俺はブラック企業の社員を救い、ワンマン社長への復讐を果たした。
……といいたいところだが。
 
ワンマン社長の会社が、悪評でつぶれた。
社員たちは失業し、路頭に迷った。
番組批判が相次ぎ、打ち切りが決まった。
俺は局から煙たがられ、仕事を失くした。
 
一年後。
平日昼間のテレビに、ワンマン社長が出ていた。
 
「少し前まで、手広く事業をやっていたんですが、ある時ガツンとやられまして。自分の傲慢さ、身から出たサビ、自業自得ってやつです。会社をたたんで今は田舎暮らしです」
「自分には何ができるだろうと悩んでました。そんな時でした。鉄道会社が高架下のスペースを貸し出し、シェアハウスやスケボー教室といった店舗を作ってるっていうニュースを見ましてね。田舎でも同じことができないかって。そうだ、若い起業家たちの育成場所をつくれないかなって」
 
企画はパクれ。
新入社員の時に言われた言葉の続きを、俺は思い出していた。
『いいか、コピペしろってことじゃない。どんなにパクろうとしても、お前っていうフィルターを通せば、オリジナルになるんだよ』
俺っていうフィルターは、間違っていたのか?
 
社長は穏やかな口調で話し続ける。
「ワークスペースやシェアオフィス。リモートワークが普及した今だからこそ、都心から遠くても、使われていないこの場所を活用できないかと思ったんです。ま、いわばパクリから始まったんですがw」
 
俺は誰を救ったんだ?
ワンマンだった社長が、照れくさそうな笑みでインタビューに答えていた。
 
 
 
 
***
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2024-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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