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九州女から焼酎をとったら何が残るのだろうか


焼酎

 

記事:小堺ラムさま(ライティング・ゼミ)

私の体には焼酎が流れている。
澄んだ、ごくわずかにトロリとした、そして、甘く芳しいにおいがする焼酎が、血液の代わりに流れている。

といっても過言ではないほど、私は焼酎を愛していた。
いや、愛していたという表現ではちょっと違和感があるかもしれない。
運命的な出会いをきっかけに大恋愛の末華々しく結婚し、甘い甘い新婚生活を経て子供を授かり10年程度がたった我が家のにぎやかな夕食後、子供達も寝て広いリビングでお茶を飲んでいるときふと横を見ると夫が空気のように存在していた…
私の焼酎に抱く思いは、このようなシュチュエーションで妻が夫に感じる種類の感覚に極めて似ている。

愛といえば愛になるのかもしれない。
しかし、その愛は激しいものでもなく、甘いだけのものではない。
そんな単純で平たい表現では足りないのだ、私の焼酎に対する思いは。

職場で致命的な失敗をし皆に迷惑をかけた時、なじみの居酒屋へ直行。
キープしていた焼酎を取り出す。
ロック氷を入れたグラスに焼酎を注いで、グイっと飲む。
すきっ腹にキリリとした強い刺激が浸みわたる。
悔しさを癒すのではない。
この失敗を二度と繰り返さないようにという思いを、私は焼酎の刺激とともにハラワタに焼き付けるのである。
また、最近なんとなく趣味で始めたライティングの講座で、私の書いた作品が思いがけず作品が評価された時、驚きと喜びで興奮冷めやらぬ中、なじみの居酒屋へ直行。
湯呑にお湯を入れ、焼酎を注ぐ。
それが芋焼酎ならば甘い香りが、そば焼酎なら香ばしい香りがゆっくりと私を包んでいく。
温かい焼酎を一口すする。
トロリとした甘さが舌にゆっくりとまとわりついて、口いっぱいに広がっていく。
これを飲み込むと、温かさと一緒に鈍痛のようなじんわりとした刺激がハラをゆっくりと通過していく。
焼酎がゆっくりとハラを通過している間、私は決意を固めるのである。
先ほどまでただの浮つきでしかなかった喜びを、これから更にもっと作品を書き進めていこうという強い決意に変えるのである。

なんだあ、ただの酒好きじゃないか、と人は思うかもしれない。
しかし、そんな周囲の意見なんて臆することなく、私は焼酎を愛していた。
哀しい時も、楽しい時も、私の傍らには焼酎があり、その時々にふさわしい呑み方で、ハラにおさめた。
体が、脳が、焼酎と一体化していく感覚が堪らなく好きだった。

言っておくが、九州人の合言葉のようなもので「酒も女も2ゴウまで」というとんでもないものがあり、この教えを忠実に実践していたので、酒に溺れるようなことは一度も無い。
だけどさすがに、何で私は来る日も来る日も焼酎を飲んでしまうのかなあと、ふと考えたことがあった。
シラフでいくら考えても答えが出そうになかったので、結局焼酎の水割りをちびりちびり飲みながら考えたけど、結局その日の晩は答えが出なかった。

こんな風に焼酎が好きで毎日のように飲んでいた私が、今年に入って次第に焼酎を飲む頻度が少なくなってきた。
ついぞや、この3月に入ってからは全く飲んでいない。
このような事態に驚いているのは私自身なのである。
九州女から焼酎を取ったら何が残るのであろうか。
きっと何にも残らない。
そんなのって、バットを取り上げたイチローのようなものである。
なんで、こんな事態に陥ったのだろうか。
断酒宣言した訳でも何でもない。
自然と飲まなくなったのである。

私はシラフの冴えた頭で、理路整然と私が焼酎を飲まなくなった原因を分析していった。
まず、仕事が終わってなじみの居酒屋に直行していたいつもの帰宅ルートが、変わったことが判明した。
仕事が終わって私は黒い服を着た店主がいる本屋に直行するようになったのである。
そして、購入した本を自宅で貪るように読むようになった。
しかも、これまでのやや現実逃避的な娯楽的意味合いの読書ではなく、物語に引き込まれながらも、作家の巧みさ、うまさに一人唸っていた。
どうやったら、こんな素晴らしいものが書けるのだろうか。
素晴らしいものに心動かされ、素直に素晴らしいとは思い、その才能に憧れ、恋い焦がれているものの、同時に強く嫉妬しているのであった。
それは、物凄い刺激だった。
物語を読むことで沸き上がった感情を、焼酎を飲むことでわざわざ増幅させる必要なんて一つもなかったのだ。
本を読むたびに受ける刺激だけで、毎回完全に打ちのめされていた。

何故、私は焼酎を飲まなくなったのだろうか。
そんな謎はアッサリと解けた。
なんのことはない、私は焼酎に取って代わる刺激を、見つけたのだ。
それは、優れた物語を読むこと、そして、自分で綴ること。
九州女から焼酎を取ったら、一体何が残るのだろうかそんなことを考えていた過去の私。
そんな私から焼酎を取り上げた時に残ったもの、それは紛れもない文学の奥深さに対する憧れと、そんな物語を生み出す作家に対する嫉妬と羨望、そしてこれから優れた書き手になろうとしている私のハラの底の方から湧き上がってくるゾクゾクする興奮だった。

 

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2016-03-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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