メディアグランプリ

その手の動き


その手

 

記事:岸★正龍さま(ライティング・ゼミ)

その手の動き。
他の誰かでも見たことがある。
しかしいつどこで見たのか想い出せない。

独特なのだ。その左手の動かし方。
特に手首をまっすぐ固定して、指先まで一直線にしながら動かすそのやり方。

話の内容をメモしながら、いつだったろう誰だったろう、そう僕は考え続けていた。初めてライブで東京のライティングゼミに参加した晩である。ゼミ生としてはあまりよろしくないのだろうが、その前の仕事が結構うまくまとまったので、1人祝いのビールをいただきながらである。

三浦さんのことだ。
三浦さんの左手の動きのことだ。
通信生として動画で見たとき、どこかでその独特の動きを見たことがあると思った。それをライブで目撃し、やはり同じものを知っているとの確信に至った。

なぜ、そんなに動きが気になるのかって?
僕が「行動心理士」だからである(通信でサクッととれる資格なのは秘密だよ)。
行動から気持ちを読むのが好きで、というか、資格を取る前から「無意識下の行動と感情は密接に結びついているのでは?」と疑っていて、人の気持ちを読むには口から出てくる言葉ではなく、丹念に行動を見ていくことこそが重要、と、そう習慣づいてしまっているからである。

たとえば、あなたは悔しいとき、唇を噛んだりしないだろうか?
嫌なものを見たとき、眉根をひそめたりしないだろうか?
感情と行動が結びついていないなら、反対のパターンになることだってあっていいのに、僕はこれまで半世紀を生きてきた中で、そんな場面に出会ったことはない。

逆から言うと、「唇を噛んでいる人は悔しい想いをしている」という予測や、「眉根をひそめている人は嫌な気持ちがしている」という推測が成り立つわけである。では一歩進めて、「無意識への働きかけで、行動を制御することができる」というのはいかがだろう。

ダレン・ブラウンというメンタリストがいる。
イギリスでは大スターの彼が、YouTubeにこんな動画を公開している。

街の小さなカフェに入るダレン。そして奥の端のテーブルに座る。しばらく後に赤いTシャツとパーカーを着た若者が入ってきてダレンの斜め左前方に座る。ダレンは彼の動きを鏡写しで真似しはじめる。
彼がコーヒーカップにスプーンを入れればダレンもコーヒーカップにスプーンを入れる。彼がコーヒーを飲めばダレンもコーヒーを飲む。彼が頭を掻けばダレンも頭を掻く。この鏡写しを丁寧に積み重ねること20分。そして。
今度はダレンが先に鼻をこすった。するとどうだ! 彼も鼻をこすったではないか。ダレンが手を口元に持っていくと彼も口元に手を持っていき、ダレンがコーヒーを飲み始めると彼もコーヒーを飲み始め、ダレンが眠そうにあくびをしてウトウトするフリをすると……彼はそのまま眠ってしまった。(*注)

この現象は「潜在意識の同調」と言われているもの。
身近な例でいえば、仲の良いカップルが、ミサイルを準備している北の国の軍事演習さながらに、一糸乱れぬ歩調で歩いているのを見たことがないだろうか?
潜在意識が同調していると、このように行動も同調するのである。

であれば、独特の左手の動かし方を同じくする二人の潜在意識にも、なんらかの共通項があるはずだ。それはなんだ? それを探ることができれば、神ライティングに近づくことができるのではないか?
っていうか、その前に誰と同じだか想い出せよ、っていうか、そもそも本当にそんな人存在するの? デジャブってことない? 酒の飲み過ぎで脳味噌が壊れて幻想見てるってことない? 大丈夫、おれ? マジ大丈夫? ってそこまで言うなよ、そこまで言われると、だんだん自信が……となった、まさに、そのとき。

その左手が僕の目の前に現れた!
飲みの席に遅れてやってきたY君が、どうもどうもすいません、と振ったその左手!
それだよ、それ。三浦さんの動きとまったく同じ。デジャブじゃなかった。幻想じゃなかった。僕の脳味噌はまだ壊れていなかったのだ!!!

しかし。
一難去ってまた一難。

三浦さんとY君、御髪の具合を除いては180度違う人種で、同調どころかまったく共通項がないのだ……これじゃあ、この文章を締めることができない。なんとかせねば……
DNAの塩基配列を調べることができれば、おそらく独特の設計図が埋込まれているのだろうが、それが叶わぬ現状ではお手上げなのだ。って、←これは、ひどいな、いくらなんでも……
無意識レベルまで潜ることを二人が許してくれれば、前世のどこかがなにかしらの強い繋がりがあることを突き止められるのに残念だ。なんて、←これも、許されないだろうな……

あ、あった! あったよ、共通項!!!
三浦さんもY君もムチャクチャ働いているのだ。一体いつ寝てるんだろうというくらいムチャクチャ働いている。僕の知る限りの人で一ヶ月の労働時間競争をさせたら、他をぶっちぎりに引き離しての僅差の勝負になるほどムチャクチャ働いている。そこまでムチャクチャ働くと、身体がストライキを起こしてああゆう左手の使い方になるのかもしれない。うん、というか、そういうことにさせてください。

そして、もしこの文章読んでいただいているあなたが、三浦さんと同じ左腕の動かし方をする誰かを知っていたら、ぜひ僕と意見交換をしましょう。真面目な話、三浦さん攻略のカギがそこにあるかもしれないですから! (って、何の攻略だよ!)

<*注>
この映像が気になる方は、YouTubeにいって「The Mirror Act Makes Man A Thief」で検索をかけ、出てきた映像の1分15秒からを見てください。
といいつつ、この同調、起こすのは実は誰にでもできる。ダレンと同じことを同じ精度でいきなり行なうことは難しいが、たとえばあなたの会話相手が非常識に大きな声で話していたとして、あなたがそれをやめさせたいと思っていたら、少し声のボリュームを落として話してみて欲しい。するとあなたの声に同調して相手の声も小さくなる。「声デカイから。もうちょっと静かに話せよ」と言うよりもはるかに効果的なので、ぜひ試してみてください。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2016-03-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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