メディアグランプリ

もし、20歳の男子大学生と51歳のおじさんが女性に人気のパンケーキ屋さんで相席になったら


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記事:西山明宏さま(ライティングゼミ)

この状況は、一体なんだ。
なにがどうなったらこうなるんだ。何の話をしてるんだ。
てか、お前は誰なんだ!

Tシャツにジーパンのおじさんは、混乱してる私にトドメを刺してきた。
「あのな、気付いたかもしれんがな、俺は……」
最後まで聞いたその言葉に、何故か怒りや憤りは感じなかった。
いや、むしろスッキリしたのかもしれない。
大好きなパンケーキの上に乗ったバニラアイスは、もう溶けてなくなっていた。

********

母が離婚してから18年が経過した。
成人を迎えた私は、相変わらず大好きなパンケーキを食べに、
女性に人気のパンケーキ専門店に来ていた。
週末は満席のため、しばしば相席になることもある。
それはもう慣れているので気にはならない。むしろ、知らない人と会話すると、何故か盛り上がってしまうので相席は好きだった。

この日の日曜日も案の定満席だった。席に着くとすぐに店員が、「相席でいいですか?」と尋ねてきた。
いいですよ! と快く承諾してから来た人は、
Tシャツにジーパンのおじさんだった。
年齢は40〜50歳くらいだろうか?
男性の1人客やおじさんおばさんがこの店に来ることは珍しい。
女性に人気と謳ってるだけあって、20代から30代のお姉さん方が多い。
相席になる人で1番多いのは、やはり女性である。特に2人組の。

なんやかんやで、若い女性と喋ることができることも楽しんでた私は、
今回の相席の相手が40〜50歳のおじさんだと分かって、
「あ、楽しみ一個減ったな……」なんてことを考えていた。
私はいつもの「ホットケーキ」を注文した。
続いて男性も私と同じものを注文した。
「ホットケーキ」は、ふわっふわの生地に濃厚なバターと濃厚な蜂蜜、
そしてその上にこれまた濃厚なバニラアイスが乗っている、
シンプルだが極上のホットケーキなのだ!

注文を終えた私に突然話しかけてきたのは、目の前に座ってるおじさんだった。

「お前さ、俺覚えてない?」

‘’え? いや、なんて言った今。覚えてない? いやいや、知らないよこんな人!
こわっ! いきなりなに!? 怖いよこの人!!?’’

「えっと、すいません、記憶にないです……」
本当だった。この言葉に嘘はなかった。
「そっか……、ごめんごめん」
何故か少し悲しげに、おじさんはそう答えた。
無駄に長く感じてる沈黙を破ったのは、
パンケーキを持ってきてくれた店員さんだった。
手持ち無沙汰がイヤだったので、すぐに食事に取り掛かった。
おじさんも運ばれてきたパンケーキを食べ始めた。

しかし、結局はなにも話さず、ただ2人の男が無心になって
パンケーキを食べているだけとなった。
また沈黙……。
端から見れば、かなり異様な光景かもしれないとは、そのときには
考えることができなかった。
私が半分くらい食べ終わると、またおじさんが口を開いた。

「あんな、俺離婚しとるんよ。子供も2人おるんやけど、2人とも母親が育てた。もう長男は成人する歳なんよ」
「そうなんですね……」
そういえば、母さんと離婚した後、父さんは何をしてるんだろ。
おじさんの話しを聞いたときに、ふと、そんな考えがよぎった。
「俺の浮気で離婚したのに、子供の養育費も払ってやれんかったんよ、最低な父親なんよ……」
「そうなんですね、大変ですね……」
もう話が重くてこんなことしか言えない。さっさと食べて出よう。
溶け始めているバニラアイスを見て、私はそう思った。
しかし、おじさんの次の一言で私は、思考も身体も止まってしまった。

「あきひろ」

え? それ、俺の名前やん。え? それはおじさんの子供の名前? だよね? それしか考えられないよね?

パニックが起きた。しかし、それと同時に思い出したこともあった。
そういえば、母さんが言ってたな。
「父さんは、浮気したくせに養育費を払ってくれてない」って。
私はそれに対して、なんて父親だ! と憤りを感じたこともあった。

ん? なんか、似てるな……。
「僕も、あきひろって言うんですよ?」
必死に考えついた言葉はこれだった。突然すぎてこれしか出てこなかった。
バニラアイスはもうすぐ溶けてなくなりそうだ。

「あんな、その名前俺が付けたんや。明るいに、広いって感じよりももっと宏くって。ひろは、ウ冠のカタカナで、ナとム」

ちょっと待てよ。漢字、俺と一緒やん。展開が急すぎて、脳が追いつけてないよ。
なんだよ!この状況は、一体なんだ。
なにがどうなったらこうなるんだ! 何の話をしてるんだ。
てか、お前は誰なんだ!

そうかもしれないという感情と、でもこんな展開あり得ないだろ! ドラマか! という感情と、色んな感情が頭の中でグシャグシャになった。
「あんな、気付いたかもしれんがな、俺、お前の父さんなんよ」

その言葉を聞いたとき、少しのパニックは残りつつも、
何か、妙にスッキリした感覚だった。
バニラアイスは、もう溶けてなくなっていた。

首謀者は母だった。こんな展開あり得ない! と帰った後に母に言うと
「普通あり得んくさ! 私が会わせるように仕向けたんやけん」と
堂々と言い放ったのだ。

なんということか。
今まで顔も見たことない父を私に会わせるために、
わざわざ私のよく行くお店に父を行かせ、私が家を出た時間から
店に到着する時間を計算し、父をスタンバイさせるという母の作戦が、
見事にハマったのだ。
普通に会わせると、私がを怒るかもしれないと思い、
この考えを思いついたらしい。一番怖いのは母である。
「ビックリで怒りを消しちゃおう作戦」という名前だったらしい。

しかし実際には、スッキリした。
今まで父というものを見たことがなかった私は、
20歳になって始めて父を見れた。
どんな父親なのか、ずっと気になっていたのだ。
顔も声も知らない父を、いきなり受け入れられるのか、という不安も
もちろんあった。

しかし、案外受け入れることは簡単だった。
「はじめまして、そして、久しぶり、父さん」
それは、やはり本当の家族だからかもしれない。

私は、ホットケーキに、溶けたバニラアイスを付けて食べ終わった。

 

***
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2016-06-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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