fbpx
メディアグランプリ

落ち着いて、子どもかバナナか考えよう


スクリーンショット 2016-07-03 19.45.52

 

記事:かのんさま(ライティング・ゼミ)

「あなたの座右の銘は?」と聞かれたら、「『落ち着いて、子どもかバナナか考えよう』です」と答える。

生まれた時、私はとても元気がよかったそうだ。産婦人科のベビーベッドに寝かされて、手足をばたばた動かしていた。
ベビーベッドの足元には、山積みのオムツ。父が、「慣れないミシンでがんばったんだぞ」と言わんばかりに、縫ったすべてを持ち込んだ。

退院目前のある日。壁をへだてた隣の部屋で、カチャカチャ金属のすれる音が響き、母は眠れなかった。そのせいで、昼間にうとうとしてしまったようだ。
ふとベビーベッドを見ると、我が子がいない!
動揺した母が周りを見回すと、ベビーベッドの頭の方の床に、落ちていた。いつもの元気に手足をバタバタしているのに、ぐったりして動かない。
母は、頭が真っ白になった。
そして、「生まれたばかりの我が子が頭を打った」という現実から目を背けたいのか、反対側に首を向けた。すると、お見舞いのフルーツバスケットが目に留まり、
そこからバナナを1本ちぎり、皮をむいて、もぐもぐ食べる。

そこへたまたま、通りかかった看護師さんが、私に気づき、
「中村さん、赤ちゃんが!!」
と、私を抱き上げた。
その大声で、母は我に返った。
「どうしてバナナなんか食べているんですか!?」
と、立ち上がった看護師さんは医師を呼びに走った。

まだ産道を抜けて一週間しかたっていない、簡単に移動する頭蓋骨のせいでベッドの柵から抜けた。だが、逆にそのふにゃふにゃ頭のおかげで、ケガもなかった。
どうやら、生まれて一週間、毎日おむつを蹴ったおかげで脚力が付いたのか、ベビーベッドの敷布団を蹴り、ずんずん頭の方に移動していったらしい。

この、ベビーベッド転落事件を、小学生の頃、父に聞かされた。
「落ち着いて考えれば、子どもとバナナのどちらが大事か、すぐわかる。でも、人間は、パニックを起こすと、優先順位を見誤るんだ。だから、『どうしよう!』と思うことがあったら、まずは落ち着け。落ち着いて、子どもかバナナか考えろ。バナナなんか、後でいい。いや、一生バナナを食わなくてもいい。とにかく子どもを助けろ!」
私は「そんな失敗、お母さんだけじゃないの? 私なんか、どうでもいいんでしょ」と思っていた。

しかし、中学に入る頃、なぜ母がそこまでパニックになったのかがわかった。

私が生まれた2年前、兄が未熟児で生まれ、翌日に亡くなったそうだ。
その後なかなか妊娠せずに、ずっと産婦人科通いをして、やっと授かったのが、この私。
万が一にも流産しないように、実家にも一度も帰らなかった。足踏みミシンのガタガタした振動が流産の引き金になり得るので、裁縫の大好きな母が一度もミシンに触れず、その代わり、父が夜、おむつを縫った。

そして生まれた赤ん坊が、元気いっぱいだった時、母は「今度こそ、健康な子でよかった」と思った。
しかし生後すぐに、床に頭から落ちてしまう。母の「つい、うたた寝したばかりに」という自責の念の大きさが、バナナを選ばせたのだ。

私が学生の頃、トラブルが起きて、みんなが「どうしよう」とおろおろしている時、先輩に「どうしてそんなに平静でいられるの?」と聞かれたことがあった。だって、平静でいなければ、バナナを選んでしまうじゃないですか。
バナナでなくても、メロンやパイナップルに向かっているかもしれない。少なくとも「今、フルーツバスケットに近づいてはいない」と確信したい。

大人になってからも、緊急に優先順位をつけなければいけない場面になると、私はいつも、産婦人科の病室を想像する。記憶にはない、隣でカチャカチャ金属音のする、フルーツバスケットのある病室。床に落ちている赤ん坊。それを見下ろす大人の私。
だけど、私は抱き上げない。
目的は、赤ん坊を助けること。だったら、脳を動かしてはいけないことも考えられる。まずはナースコール。もしくは、走って医師を呼ぶ。
いつも、「落ち着いて、子どもかバナナか考えよう」とつぶやきながら、私はナースコールに当たるものを探す。

座右の銘を答えると、「何それ?」と笑われるが、私は、私を助けなきゃ。兄の分まで、元気でいなければならないと思う。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【通信受講/日本全国対応】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ2.0」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《この春、大人気ライティング・ゼミが大きく進化します/初回振替講座有/全国通信対応》

 

【平日コース開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ2.0《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《6月開講/初回振替講座有/東京・福岡・全国通信対応》

 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

バーナーをクリックしてください。

天狼院への行き方詳細はこちら

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

天狼院への行き方詳細はこちら


関連記事