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メディアグランプリ

あなたが遠くへ行ってしまって本当に嬉しかった


 

記事:徳田 潤(ライティング・ゼミ)

 

「今日のお客さんって、全て花總まりさんのファンですよね!」

約2000人の観客で満員になった帝国劇場のステージ上から井上芳雄さんが感慨深く語った。

 

 

ミュージカル「エリザベート」は、ウィーンのミュージカルを演出家の小池修一郎氏が脚色し、1996年に宝塚歌劇団で初演され、800回以上の上演を達成。宝塚歌劇団以外でも、東宝版として帝国劇場をはじめ、名古屋、大阪、福岡の各地で1000回以上の公演が行われているロングランのミュージカルである。

 

私が大学生の長男と観劇した7月3日帝国劇場の「エリザベート」は、「花總まりファンクラブ貸切公演」だった。公演後に、エリザベートを演じた花總まりちゃんと、相手役の「トート(死神)」を演じた井上芳雄さんとのスペシャルトークがあったのだが、その中で井上さんが「今日のお客様は全て花總まりファン」と語ったのである。

 

花總まりちゃんは、20年前になる1996年の宝塚歌劇版「エリザベート」(雪組)の初演においてもエリザベート役を演じており、その後、1998年にも宙組でエリザベートを演じている。2006年に宝塚歌劇団を退団した後、しばらく舞台から離れていたが、2015年の東宝版のエリザベートを演じたことで、単独では最年少で菊田一夫演劇賞の大賞を受賞している。歴代の受賞者は、森繁久弥、長谷川一夫、森光子と、重鎮達が名を連ねていることから、この賞の重みもうかがえる。

 

 

ファンクラブの貸切公演は、ファン仲間の同窓会でもある。幕間の休憩で声をかけてくれた女性は、私と同じ宝塚市民である。同じ市内に住みながら、花總まりちゃんの退団後の10年間で一度しか会ったことはなかったが、話をすればお互いの次男が今年大学に入学した、とのこと。10年前に宝塚歌劇在籍中の花總まりファンクラブで一緒だった頃には、小学生の子供達もチケット入手のための抽選券確保を手伝ってくれていた

 

宝塚歌劇の生徒(劇団員を「生徒」と呼ぶ)と触れ合う機会には、「お茶会」と呼ばれるスターを囲んだパーティーがある。これは宝塚歌劇団の公式なイベントではなく、私設ファンクラブが運営しているものであるが、ここで一緒に記念撮影をしたり、抽選でのプレゼント、それにファンクラブに対する貢献による表彰も行われる。私の場合は、子供達が抽選券確保を手伝ってくれたため、数回表彰をされている。

 

とは言え、スターである花總まりちゃんとは、そういうイベントでしか会えない「はず」であった。

 

 

2007年の8月31日、東京国際フォーラムの楽屋で、私は花總まりちゃんと名刺交換した。

正確に言うと、そのときの名刺は本名だったので「花總まり」ではなかった。

 

花總まりちゃんは、宝塚歌劇団退団後は、宝塚歌劇を同時退団した元トップスター(男役)の方と事務所を立ち上げ、社長をしていた。東京国際フォーラムで、元トップスターの方が出演されるコンサートがあり、そのコンサートで私の友人がピアノを弾いていた。私は友人に会いに楽屋に行ったのだが、その時に偶然、パンツスーツの社長「花總まり」さんに遭遇したのである。

 

「宝塚時代にファンだった」と話して名刺交換いただいたのだが、色々な意味でその時が、「花總まり」さんと最も近い距離にいた、と思う。

 

 

大好きだったスターの「花總まり」さんと名刺交換でたことは、生涯の忘れ得ないイベントではあったが、何故か心から喜べない自分が不思議であった。

 

私だけでなく、花總まりちゃんのファンは皆、舞台復帰を望んでいたと思う。

 

2011年12月6日、この日は私の52歳の誕生日だった。これまで経験したことがないくらい体調が悪かったが、どうしても片付けないといけない大阪大学での仕事を済ませた後、翌日の出張もあったので東京に移動した。今はなくなってしまった六本木のライブハウス「スイートベイジル」でピアノ・バイオリン・パーカッションのインストゥルメンタルユニット「MODEA」のライブがあり、ゲストヴォーカルとして花總まりちゃんが出演した。

一緒に行った可愛い後輩は「花總まりさんて、本当にお歌がお上手ですね!」と言ってくれたが、私は心の中で呟いていた……

「宝塚の娘役トップとして10年以上過ごしたので、歌が上手いのは当然で、もっと大きな劇場で歌って欲しい。」スイートベイジルは約250人の収容だったと思う。

 

スイートベイジルの公演後、花總まりちゃんは客席に出てきたように思う。今から考えれば、ここでも話をすることができたかもしれない。この日は、どうしても体調が悪く、そのまま一緒に行った後輩とともに終演後すぐ、スイートベイジルを後にした。

 

その後、花總まりちゃんは素晴らしい活躍を続けている。世界初演の「レディ・ベス」、「1789~バスティーユの恋人たち~」「エリザベート」と大きなミュージカルの舞台だけでなく、CDのリリース、ソロコンサートと活躍の幅を広げ、来年は大河ドラマへの出演も決まっている。

 

先日の「花總まりファンクラブ貸切公演」のアフタートークで、井上芳雄さんはこんなことも言っていた。

 

「ステージから客席を見ていると、みんな『ミルク』のシーンでもにこにこしているんですよね。山崎育三郎君(共演者:ルイジ・ルキーニ役)と『僕らのメッセージが本当に届いているのか心配になった』と笑っていました。」と。

 

「ミルクのシーン」は、民衆が子供に飲ませるミルクにも困っているのに、皇后エリザベートがミルク風呂で自らを磨いている、という民衆の怒りのシーンである。もちろん、花總まりちゃんのファンは、そのシーンの意味を知っている。が、みんな花總まりちゃんがステージに立ってくれることを心から喜んでいるのである。帝国劇場の2列目で長男と観劇していた私も、にこにこしている一人であったに違いない。

 

 

花總まりちゃんは、本当に遠くに行ってしまった。レジェンドと言われることもある。

 

大きな舞台と客席という状況や、YouTubeのカーテンコール映像でしかお目にかかる機会が無い。

が、その活躍を見ていて本当に嬉しく思う。

この人は正しい場所に帰ってきた、と。

 

ただ、9年前に交換した本名の書かれた名刺を返すべきか……

悩んでいる。

 

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2016-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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