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メディアグランプリ

のび太や両津勘吉みたいには、なりたくなかったのに



 

記事:Yushi Akimoto(ライティング・ゼミ)

 

子どもの頃、「ドラえもん」や「こち亀」をアニメで観ることにちょっとした「いやな感じ」を覚えていた。学校に通う日々というのは生活のリズムが一定だから、そうしたアニメはほとんど毎週観る羽目になる。そのまま流れで最後まで観てしまうのだが、話が中盤に差し掛かってくると、だんだんと目をそむけたくなる。のび太や両津勘吉が、だんだんと味を占め、したり顔で悪企みに取り掛かるさまは見ていて辛い。「サザエさん」のカツオも、同様に、なかなか見るに堪えないところがある。なぜなら、結局、最後に彼らが失敗するのが目に見えているからだ。

 

 

あの「いやな感じ」のことを思い返すと、決まって、中学3年生のときの公民の授業の回想シーンに意識が飛んでしまう。その日、僕のクラスは、「条例」について学習しているところだった。

 

「この町で新しく条例を制定するとしたら、どんな条例をつくったらいいだろうか? 今から何人かに当てるから、考えてみなさい」

 

唐突な問いだった。人口約6000人ののどかで平凡なこの田舎町に、どんな条例をつくればいいか、僕らが考えたことがあるとでも思ったのだろうか? 町の課題や魅力について知る機会なんてこれまで学校の中であっただろうか? 平和ボケしている中学生がいい回答をすると本当に期待しているのだろうか?

 

先生が1人、2人と当てていく。生徒の側は、無難な回答を返す(どんな回答か記憶にないということが、その無難さを示していた)。先生も一言二言コメントを挟み、次の生徒を当てる。うまくその場を切り抜けた、と言っていいだろう。「わかりません」が出ないだけ、ましだったかもしれない。

 

3人目の回答者として指名されたのが、僕だった。

 

そのとき、僕は欲を出していた。欲丸出しだった。毒にも薬にもならぬ意見が二つ続いている、そろそろ創造的でクリティカルな回答が期待されているのだろう、と。当てられる前からすでに頭はフル回転していた。この町の課題は何かなかったか。

 

ふと思い出したのが、雷魚釣りのメッカだった地元の沼に、ブラックバスが放流されたという噂だった。雷魚というのは主に沼に生息する魚で、サイズが大きく、釣り人に人気だった。地元の沼は県内屈指の雷魚の釣り場だったらしい。土日祝日はいつも釣り人が立っているようなところだ。その沼でブラックバスが釣れるようになったらしい、ということを父が漏らしていた。当時、バス釣りを題材にした少年漫画があるくらいに、バス釣りが全国的に流行していた。しかし、釣り人がブラックバスを各地の川や湖、沼に放流し始め、それにより元々の生態系が破壊されてしまうことがわかり、生態系を守ろうと声が上がるのは、もう数年後のことになる。

 

これだ。ブラックバスはみんな知っている。でも、ブラックバスを放流すると大変なことになるなんて、きっと田舎者の同級生たちは知らないだろう。なにせ僕がたまたま親の本を読んで仕入れた知識だ。これでみんなまた一つ新しい知識を得られるはずだ、僕のおかげで。生態系を守りたいという正義感もアッピールできる。

 

(これはいけるぞ……!)

 

僕は、一人で勝手に興奮していた。ドラえもんの秘密道具の威力に興奮して、周りが見えなくなっているのび太みたいに。

 

「ブラックバス放流禁止条例をつくればいいと思います!」

 

そして、僕は、こう高らかに言い放った。町議会議員選挙の遊説の際に公約を宣言するかのように。

 

その瞬間のことは、静止画のように思い出すことができる。教室の中がシーンとなったこと。誰もが、僕の提案の意味をうまく呑み込めないという顔をしていたこと。バレーボール部の顧問で体育会的な威勢の良さが自慢の先生さえ、反応のしようがなさそうだったこと。

 

「ぽかーん」

 

一言で言えば、まさにこんな感じである。「なるほど!」でもない。「はっ?何言ってんの?日本語喋ってる?」でもない。「ぽかーん」

 

教室の反応のなさに、僕は大いに戸惑った。おかしいな、こんなはずじゃない。もっと反応してよ、「おーっ」とか言ってよ、なんで? なんで? じわじわと冷や汗をかき始めているのを自覚しつつあった。

 

困った様子の先生が、沈黙に終止符を打った。

 

「ああ、なんか、よくわからんが、まあ、じゃあ次……」

 

(よ く わ か ら ん が ……!?)

 

渾身の一撃は、盛大に空振りした。予告ホームランを外したバッターの気持ちが分かる気がした。恥ずかしいやら情けないやらが色々とこみ上げてきて、なんなら勢い余って「こんなやつらに言いたいことが分かってたまるか!」と勝手に憤っていた。そうでもしないと、気が済まなかったのだと思う。

 

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ああ、きっと、あのときの僕は、素晴らしい「どや顔」だったに違いない。悪巧みをしている両津勘吉のあの下卑た笑い声を漏らしかねないほどに。「どや顔」なんて言葉が流行る前の時代だったことは救いだったかもしれない。思い出しても恥ずかしい……。

 

結局のところ、自分の都合で物事を考えてもうまくいかないのだ。目先の利益や名誉ばかり追う人間が視野狭窄に陥り、最後には失敗するなんて、漫画やアニメで同様のパターンを幾度となく観てきたはずなのに、きれいにあの流れを踏襲してしまうなんて、若気の至りという他ない。

 

残念なことに、今でもこのパターンにはまることがある。その度、穴があったら入りたい、と後悔している。幸いなことに、心折れることなく、今に至っている。そのしぶとさすらも、まさにのび太みたいだ。しかし、彼らの真似をするのはその辺まででよしておきたい。彼らにはない学習能力を、失敗から学び同じ失敗を繰り返さないだけの謙虚さを、身に付けなければならないのだから。

 

 

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2016-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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