メディアグランプリ

今だから話そう、彼女はニセモノでした 1年経ったから時効ということで……


記事:Mizuho Yamamoto(ライティングゼミ)

 

「いい? 高1の夏休み前に転校したということにして。どうしても外せない会なので、同窓生として一緒に参加してくれるかな?」

 

「むむむ、やれるかなそんな芸当」

 

「大丈夫! 1学年450人いたから、みんな40年前のことなんて覚えてないし。すぐ転校しちゃったからね~で誤魔化せるよ!」

 

毎年夏に行われる高校の大同窓会。新制高校の1回生から現在の67回生までが集う会。
旧制中学時代から数えると創立は百年を超える母校。55歳の時、私たちの学年が順送りの幹事学年となり、
参加者が500名を超える大宴会に、100名近いスタッフをそろえて会に臨むために四苦八苦。
なんせ理事会で何か提案しても、30歳年上の1回生の人々から反対されたらしゅん。それ以上は発言できない会だった。

 

やっとその幹事学年をやり遂げて、あとは参加者として後輩に協力するだけの身分となった翌々年。
大同窓会と重なって友人が東京から泊まりに来ることに。東京生まれ東京育ちの彼女と、私の母校には接点はない。

 

「しょうがないから、夕飯は同窓会で食べようよ、もちろんご馳走するからさぁ。ごめんね、一緒に来てくれる?」

 

というわけで、当日私たち30回生のテーブルに友人を連れて行った。
同じ東京の大学の同級生となる(もちろんお互い初対面)男子1名にだけ事情を話し、会の途中仲良くしてね! と頼んで準備万端。当日がやって来た。

 

受付は2学年下の当番学年。ここは難なくクリア。問題の同学年のテーブルへ。
地方都市の進学校の40年前の高校生は、公務員になるか自営業の跡継ぎか、医者の跡継ぎしか地元に残っていない。
それ以外は都会に行ったまま帰って来ないのだった。
大同窓会は、毎年お盆の後にあるが、帰省しての参加はごくわずかで、毎年参加者の顔ぶれには大した変化のない地元仲間となる。

 

まずは先手必勝と、

 

「紹介するね! Mちゃんは、高1の夏に転校したから覚えてる人少ないよね。私は仲良しだったからその後も付き合いがあったけど。
今日はたまたまうちに泊まることになってるから連れてきたの。東京からです。よろしくね」

 

ああそうなんだ、どおりで見たことがない人だと思ったよと安堵の表情のテーブルの同級生たち。

 

実際毎年いるのだった。ふつうに話して、何度も乾杯して盛り上がった後にこっそりと、

 

「ね、今俺が話してる人だれだっけ?」

 

「聞いてもいい? さっき私が話していた人誰だかわかる?」

 

同窓会というのは高校を卒業して40年も経つと、というか10年過ぎたあたりからすでに、

 

「誰だっけ???」

 

が始まるのだった。男子は特に、髪の毛が減って、貫禄付けて太ったりするともういけない。

 

「あの人、先生じゃないよねぇ」

 

「うん、じゃないとは思うけど……」

 

いささか頼りなく小声になる。

 

そんな状況だから、ほぼバレずに済んで、友人も楽しそうに話をしていて一安心。

 

「ちょっと営業に行ってくるから」

 

私は仕事関係でお世話になっている方々にご挨拶と名刺交換。なんせ地元の名士が上は86歳から下は18歳までいる。
これが後の地元の人間関係を築いていくから侮れない。

 

その間も彼女は、元気に自論を展開してすっかり同窓生の輪の中に溶け込んでいる。さすが順応性の高い友人はありがたい。

 

大学の同級生とは、学部は違っても共通のことがらがたくさんあって盛り上がる。
それを見ている周りも、そうかやっぱり時期は短かったけど同級生だったんだなと納得した顔をしている。ああ、よかった。

 

様々なアトラクションを楽しみ、飲んで料理を平らげ、喋るしゃべる。

 

今回は隣のテーブルにもう1人見かけない若者がいた。みんな次々に話をするが、席を立つと、なぜか私に尋ねに来る。

 

「ねぇ、あの彼はだれ?」

 

「若いよね、同い年に見えない」

 

地元で教員をしていた私をみんな頼りにして聞きに来る。

 

「Mizuhoちゃんなら知ってるよね!」

 

ところがである。私にもわからないのだった。
あんまり何人にも聞かれるから地元に残るものの代表として、私が聞きに行くしかない。

 

「ねぇねぇ、久々の対面で名前が出てこなくて。何君だっけ」

 

「え~、オレのことわからない? ○○だよ。横浜から久々に帰って来たのにひどいなぁ」

 

確かに言われてみればそうだった。クラスが一緒だったことがあったので、すぐ思い出した。
しかし、当時の彼はシャイな目立たない男子だった。差し出された名刺を見て、ああ仕事と自信が人を育てるんだぁという典型だと納得。
おまけに生き生きしていて若いのなんのって。そりゃあみんなわからないのも無理はない。
こんなに変われる人もいるんだなと感動。

 

おっと、若者男子に気を取られていたけど彼女はどうしてる? 見ると元気にさらに自論を展開中だった。

 

「それではみなさん、最後に校歌を歌いましょう!」

 

司会に言われてみんな起立する。

 

「やばい、校歌歌えない」

 

「口パクで何とかなるよ」

 

式次第の裏表紙に印刷された歌詞を見ながら口パクの彼女。

 

あの場面が一番はらはらしたね! と会場を出て彼女が言った。

 

そうだった。校歌の練習は必須だった。
せめて出だしだけでも。さすがに出だしから歌詞を見るのはいただけなかった。

 

大いに反省の私。
次回は校歌の練習をしておかねば。

 

って、またエセ同窓生を連れてくるつもりか私! 自分に突っ込みを入れてみた。

 

それから彼女は私の母校をいたく気に入ってくれて、本気で校歌を練習しているとかいないとか。

 

 

***
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2016-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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