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メディアグランプリ

ブラジャーという戦闘服を脱ぎ捨てて


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記事:永井里枝(ライティング・ゼミ)

 

「もうちょっと笑って! そのままね、はいチーズ!」

 

やめてくれ、頼むから勘弁してくれ。

そう思いながらようやく撮り終えて確認してみると、仏頂面の私がいる。

幼少の頃から写真に撮られることが苦手。旅行のスナップ写真から七五三や成人式の記念写真まで、判で押したように全て同じ顔だ。

 

 

「そんな感じなので、写真に撮られるの、本当に苦手なんです」

絞り出すような声でそう言った。

目の前に座ったその人は

「大丈夫ですよ、最初はみんなそう言うんです」

メガネの奥の小さな目を細めながら、どこか面白そうに答えた。

小柄ながら恰幅のいい、人の良さそうな初老の男性。話に聞いていた写真家さんは、本当にこの人なんだよな?

 

 

その日、友人から「どうしても会わせたい人がいるから、ココに行って!」と言われた私は、会わせたいという写真家さんの個展に来ていた。

こんな天神の一等地で個展なんて、すごい人に違いない。恐い人だったら嫌だから、とりあえず挨拶だけしてすぐ帰ろうと思っていた。

 

しかし、待っていたのはイメージしていたのとはかけ離れた人物だった。なんなんだ、この親しみやすさは。

展示されている写真の話から、紹介してくれた友人の話、近くの美味しいお店の話まで、気がつけば2時間も話し込んでいた。

 

そして、帰り際に私の口から出た言葉に、自分でも驚いた。

「私も撮ってもらえませんか? ヌード写真を」

 

 

実は、その時の個展はヌード写真を中心とした構成になっていた。

360°女性の裸体に囲まれ、何かのスイッチが入ってしまったのだろう。あんなに写真が嫌いだと話していた2時間後には、ヌードを撮って欲しくて仕方が無くなっている自分がいた。

当時27歳、3年前の冬のことである。

 

 

かくして、写真家さんのモデルのひとりに加わった私は、月に1~2回のペースで撮影をしてもらうことになった。ヌードを撮ってください、と言ったものの、正直なところどうしたらいいのかさっぱり分からない。

お世辞にもスタイルが良いとはいえないボディラインも、カメラを向けられると相変わらずひきつってしまう表情も、冷静に考えれば記録に残したくないものだった。

それでも

「大丈夫ですよ、撮っていくうちに慣れるし、だんだんキレイになりますから」

と言われると、なんとなくそんな気がしてくるから不思議である。

 

そして迎えた最初の撮影の日、少しでもダイエットしようと思っていたのに全然間に合わず、もうどうにでもなれ! という気持ちでスタジオに向かった。

 

こじんまりとした部屋に、背景となる白い紙が垂れ下がっているだけの部屋。

「何も隠すものが無いな……」

あらためて、そう思った。

 

 

「どうもどうも、お待ちしてましたよ」

個展会場で会った時と同じ、あの笑顔に出迎えられた。

「とても緊張しているんですけど」

という私に「そうでしょう、そうでしょう。まぁ最初ですから気楽に」と麦茶を勧めてくる。

今はまだ優しいけれど、撮り始めたら豹変するんだ、きっと。

それでも、自分から「撮ってください」と言った以上、もう引き下がれない。

覚悟を決めて脱ぎ始めた時だった。

「音楽は何がいいですか?」

何かBGMがあった方が気分が上がるから、とのことらしい。

 

「え? あ、じゃあ椎名林檎があれば、それがいいです」

「椎名林檎いいですね。とってもセクシーだし、かっこいいし、あ、ちょっとバランスだけ見るので何枚か撮りますね」

「あ、はい、ここでいいですか? でも椎名林檎とかも聴くんですね。私は世代がどんぴしゃで、もう10年以上ファンで……」

「そりゃ聴きますよ、あの方は素敵ですから。あ、寝っ転がったり適当にしていいですよ」

 

そんな流れで、大好きな椎名林檎について熱く語っている間に、撮影が終わっていた。

懸念していた「豹変」がないどころか、「今から撮りますよ」もない。

「もう少し顎を引いて」とか「目線は斜め上に」とか、そういった指示もない。

そして私の苦手とする「笑って」という言葉もついに聞くことはなかった。

 

「今日はこれくらいにしときますか」

そう言って機材を片づけ始めると、今撮り終えたばかりのデータをサクサクとパソコンに移し、DVDに焼いてくれた。あっという間に感じた撮影だったが、500枚以上になっていた。

「せっかくなので、何枚かプリントしましょう」

とパソコン上で確認しながら、言葉を失った。

これが本当に自分なのか?

いや、顔のパーツは間違いなく私なのだが、見たことのない表情ばかりだった。

思えば幼少期から、写真を撮る度に「笑って」と言われ、その期待に応えられず仏頂面ばかり記録されてきたのだから、当たり前である。

これまでの写真はシャッターを押される瞬間に、自分の表情を合わせにいかなければならなかった。しかし、今日撮った写真は違う、生きている私の動きの中で、「良い」と思った瞬間を切り取ってくれた。

もうダメだと思った。

この中毒性には抗えそうにない。

目の前の、ベイマックスに似たおじさんはニコニコしながら「わぁ素敵! これもいいですよ」なんて、現像を始めていた。

 

 

それからは毎月のように撮影をした。

段々と調子に乗ってきた私は、普段着ないような服を着たり、海や森、公園など場所を変えて撮ってもらった。もちろんヌードも撮り続けていた。

以前に比べ、硬い表情で写ることは確かに減った。しかし、服を着た撮影とヌードとでは、何か根本的なところが違うように感じていた。

いつも通り、普通に自然にしているつもりなのに……

納得がいかず、今日はもうやめましょうと言おうとしたその時

「ブラジャーだけ、はずしてみませんか?」

と、提案された。

きょとんとする私を、ニコニコしながら見ている。

ブラジャーをはずすことに何の意味があるんだろう? ただでさえスタイル悪いのに、もっと“のっぺり”して見えちゃうな。

なんて思いながらも、言われるがまま下着をはずし、撮影を続けることにした。

そして、撮り終えた写真を確認している時、ある時点を境に、明らかに表情が変わっていることに気付いた。

「ブラジャーとったの、ここでしたね」

得意げなベイマックスに、私は反論の余地がなかった。

 

 

個展のお話をいただいたのは、撮られはじめて半年くらい経った頃だった。

アラサーと呼ばれる年齢にさしかかり、得体の知れない焦燥感が私の中で燻っていた。

生きたいように生きている、とはいえ、周りの友達は結婚や出産ラッシュ。自分にその願望があるかないかは別として、体は子を宿す準備に余念がない。以前にも増して腰回りがしっかりしてきたのは、私の怠慢だけではないはずだ。

とにかく今を記録しないと、もう私の20代は返ってこないのだ。

「少女のように嘯いて」

と題したその個展まで、ブラジャーをつけたりはずしたりしながら必死に撮り続けた。

 

 

よくよく考えてみれば、ブラジャーは女の欲の塊だ。

小さい方が好きだとか、男性の性的趣向についてはそれぞれなので言及しない。

正直、そんなのはどうでもよくて「自分がどう見せたいか」で、女は下着を買っている。

垂れてくるのが嫌だとか、形よく少しでも大きく見せたいという我々の悩みを解決すべく、様々な工夫が施されている。

それを身につけるだけで、少なくとも胸周りの悩みを緩和し、多少の自信を持たせてくれる魔法のアイテムだ。そして、人からは見えないところに可愛らしさやエレガントさを求めるのは、気分を上げる役割があるからだと思う。

ブラジャーという戦闘服を身につけ、見せたい自分になって外に出る。

だからこそ時に数万円も払って下着を購入するのである。

 

しかしそれは同時に自分自身を縛りつけることにもなるのではないだろうか。

もちろん、ファッションが自己表現の有力なツールであることは事実だ。普段着にもこだわりが無いといえば嘘になるし、下着だって毎日ちゃんとつけている、当たり前だが。

働く時は制服を着るし、結婚式に出席する時はドレスを着てヘアセットもする。

でも、誰にも何にも縛られず、「さあ、ありのままをしてごらん」と言われたらどうだろう。

その時に「こう見られたい」という欲が顔を出して、本来の自分に近づけないのなら、やっぱりブラジャーは必要ないんじゃないかと思う。

だって、私より美人で胸が大きくてスタイルが良い人なんて、たくさんいるんだし。それでも私を撮ろうとしてくれる人がいて、それを見に来てくれる人がいるということに対して、もう何を着飾る必要もないし、騙しているようで失礼な気すらしてきた。

ごまかしは利かない。自分自身を受け入れる強さを持たなくては、と思った。

 

 

それから2年が経ち、再び個展の話をいただいた。

8つの季節と1人の男が通り過ぎ、私は30歳になっていた。

前回の個展の時から比べると、髪が伸び、肉がまた少しついていた。

20代の頃に感じていた焦燥感はどこへ行ったのか、自分の生き方についても落ち着いて話せるようになっていた。

撮影初日、私は迷うことなくブラジャーをはずして臨んだ。

帰宅途中、そのことを告げると

「そうじゃないかと思ってました」

ニコニコ笑うベイマックスに、きっと私は一生頭が上がらないと思った。

 

***
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2016-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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