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プロフェッショナル・ゼミ

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*この記事は、「ライティング・ゼミプロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:安達美和(プロフェッショナル・ゼミ)

 

もしかしたら、この記事には当時のわたしの願望も含まれているかもしれません。でも、くり返しその場面を夢想していたせいか、わたしにとってはしっかりした記憶として脳に根を張っています。事実と照らし合わせれば、ありえないことは分かっているのに、じゃあなんでこの記憶には匂いも感触もあるのか。わたしは少し頭がおかしいのかもしれません。

でも、ここに書くことが全て事実だとしたら、それこそわたしはあの時、本当に頭がどうかしていたのだと思います。

記憶の表現に、「古いフランス映画のように紗のかかった」というものを聞いたことがあります。なんて美しい表現だろうとうっとりしてしまいます。できれば、自分のこの記憶にも、この表現を使いたいけれど、実際のところこれは紗ではないと自分で分かっています。これは蚊帳。わたしは蚊帳を通して記憶をふり返ります。ふたりの仲睦まじい様子を蚊帳の外から見つめていた記憶を。

当時、わたしが通っていたのは女子高でした。それも校則が異様に厳しいことで有名な。
わたしはこの高校ほど、校則の縛りがきつい学校を他に知りません。抜き打ちでスカートの長さやまゆ毛、持ち物検査が行われるのは日常茶飯事。携帯電話の所持は無論、不可。見つかれば即解約させられます。生徒同士でカラオケに行くことも禁止でした。例え、休日であってもです。

出される課題の量はすさまじく、長期休みに入っても、休む暇はほとんどありません。往復の通学時も、授業の合間の休み時間も、クラスの全員が予習復習を常にしているのは当たり前で、毎日朝と放課後にはそれぞれ小テストが行われます。進学率の高さを売りにした私立高校でしたからそれが普通でしたし、不満を抱いたことはあまりありませんでした。ただ、ある日ふと、「きっとわたし達はこの学校の生徒ではなく、学校という名の会社の社員なのだ」とぼんやり思ったことはありましたが。

そして、この学校の進学率以外のもうひとつの売りが、部活動でした。帰宅部はありません。部活にはもれなく全員が入らなければなりませんでした。運動部も文化部も優秀な成績を納めている部活が多くありました。ソフトボール部、バトン部、マーチングバンド部に、合唱部、筝曲部。全国大会常連の学校にとっても生徒にとっても、キラ星のような存在の花形部活が数多くある中、では、わたしが選んだ部活はというと、県大会へ進むこともままならない弱小演劇部でした。

わたし達演劇部は、人数はいるものの決して強くはなく、大会では初戦敗退が常でした。同じ地区に関東大会出場をほぼ逃さない演劇強豪校がいた為、本気で大会を突破できると信じている部員はほぼ皆無でした。

入部して一年目のわたしは、「そうか、わたし達は勝てないのが普通なのか」と思って与えられた仕事をただ淡々とこなしていましたが、その強豪校の舞台を生で見た時、カッと顔が燃える感覚を味わいました。意のままに、観客を笑わせ、惹きつけ、怖がらせる彼らを見ているうちに、血が沸騰するのを感じました。興奮ではなく、怒りで。当然勝てないと思っていた自分が、どうしようもなく腹立たしくて。

同じ高校生で、そんなに能力に差があるわけがない。あれくらいわたし達だって絶対にできる。絶対に。

その怒りと悔しさがいつまで経っても拭えないまま、わたしは二年生になりました。

校内で自主公演を行う企画が持ち上がったのはその時です。

「場数を踏まないと強くなれないから」

と、メンバーのひとりが言い、いくつかの一年生と二年生の混合チームを作り、短編集のような具合で発表することが決まりました。

その時、同じチームになったのが二年生のCでした。

Cはナチュラルな演技と、舞台での妙にリアリティのあるたたずまいで一年生時から役者として舞台に出演していました。振り返ってみると、部活に打ち込めるたった二年間のあいだに創れる舞台など数はたかが知れているのに、そのほとんどで主役を演じたのがCでした。Cは同学年にも、下級生にも、部内でも部外でも非常に人気がありました。

とはいっても、Cは決して美形ではありません。色こそ白かったけれど、鼻はちょっぴり上を向いていたし、前歯も若干大きすぎるくらい。胸は豊かでしたが、メリハリのきいたプロポーションというわけでもなかったのです。どことなく、母親を感じさせるような包容力のある身体つきをしていました。

なのに、そんなCが一たび男の子の役を演じると、彼が架空の人物であることの方が不思議なくらいに、ちゃんと男の子としてそこに生きているのでした。
Cの演技を観たわたしの多くの友人たちが、口をそろえてこう言うのをよく聞いたものです。

「Cさんってさ、なんか、色っぽいんだよね」

全く同じことを感じていたにも関わらず、わたしは内心面白くありませんでした。わたし自身も、男子役を演じることが多くありましたが、ついぞ「色っぽい」などという賞賛の言葉はもらえなかったからです。わたしがもらえたのは「なんだか愉快」、「動きが変で面白い」、「気持ち悪いけどそこが良い」という、部分的に悪口じゃねーかと思える言葉ばかりでした。

自主公演の為に台本作りが始まりました。わたし達のチームが考えたのは、小さなレストランを舞台にしたホラーコメディで、大筋をみんなで決めた後、セリフを書いたのはわたしです。

書きあがった台本をメンバーに見せた時、一年生のふたりは大喜びしてくれました。内心、自分でも非常に自信がありました。ラストシーンは、主人公である客がレストランのスタッフに騙され、料理長の納得がいくまで料理の味見をさせられるというものでした。後ろ手に縛られ、犬食いをさせられる主人公の後ろ姿が浮かび上がって、幕が下りる。今振り返ってみると、カッコつけたい年頃の女の子が考えそうな稚拙なラストシーンだと思いますが、当時はとにかくインパクトのある作品を創りたいと熱望していた為、その痛々しさには気づいていませんでした。

喜ぶ一年生を見て手ごたえを感じたわたしは、Cの様子をうかがいました。Cは手に持った台本を机に置くと、「牛乳買いに行くけどついでになにかいる?」みたいな、淡々とした口調で「わたし、これ嫌い」と言いました。まっすぐわたしの目を見て。

気持ちが悪いし、好きじゃない。だから、やりたくない。

その時です。わたしがCを好きになってしまったのは。自信たっぷりに出した台本を、真正面から「嫌い」と言われたことに、妙な快感がありました。傷ついているのに、清々しい気分で、なんだかもう訳が分かりません。

結局、ラストシーンはもっと上品なものに書き換えて上演し、非常に好評でした。

自主公演が終われば、いよいよ大会に向けての準備です。わたしは作演出と役者を買って出て、ぜえぜえしながらなんとか一本の台本を書きあげました。主役は当然Cです。その為に書いたのです。

Cはあまり乗り気ではありませんでしたが、そこは演出の職権を乱用し、半ば強引に主役を引き受けてもらいました。主役のC以外も、ヒロイン役から友達役に至るまで、自分の理想通りのキャスティングをさせてもらいました。

その中のひとりに、Nがいました。Cの恋人役で、この作品のヒロインのひとりです。
このNが、十人の男性と振り返ったら、十人が振り返って見つめてしまうほどの美少女でした。彼女のクラスメイトから、「どうしてアイドルにならないの?」と本当に不思議そうに聞かれていたほどです。

わたし達の高校の制服は、周辺の学校から「修道女」と陰で言われるほど地味で、オシャレを楽しみたい盛りの若い女の子には、物足りないを通り越して憎むべきものでした。

でも、ただひとり、Nに至ってはあの制服で良かったのではないかと思います。

あの修道女の制服をもってさえ、彼女の内側から光が溢れだすような美貌は抑えきれず、もしこれが普通のセーラー服などであったら、その美貌ゆえに彼女の心は傷つかざるを得なかったのではないかと本気で思うのです。もちろん、彼女もオシャレをしたい年頃だったから、あのカラスみたいな制服には不満のひとつもあったでしょうが、むしろ、あれがNを守ってくれていたことは間違いありません。

一方、わたしはと言えば、女性のとしてのこころの成長が遅かったのか、オシャレができないという理由で母校を恨んだことはありません。むしろ、自由を与えられると戸惑ってしまう為、規則でがんじがらめにしてくれる母校がたいそう好きでした。厳しくされればされるほど、それが自分の精神の成長につながると思って、喜んでいました。

秋の大会に向けて、稽古が始まりました。もがきながら稽古を重ねるうちに、どんどん良い芝居になっていくのが分かりました。友人役のふたりは、より友人らしく。親子役のふたりは、より親子らしく。

そして、恋人役のふたりは、より恋人らしく。

CとNは、稽古を終えても、仲睦まじい恋人のような雰囲気を漂わせるようになりました。

その様子を見て、大会突破が念願である演出としてのわたしは非常に喜び、Cを慕う素の自分としてのわたしは、複雑な想いを抱えていました。

大会は突破したい、でも、CとNの仲睦まじい様子には耐えられない。
自分のなかにふたりの人間が住んでいる気分でした。

こんなことがありました。

部活が終わった帰り道、ふいに雨が降ってきたことがありました。わたし達はみんな傘がありませんでしたが、唯一Cだけが折りたたみ傘を持っていました。Cがパッと傘を広げた瞬間、Nがこれ以上ないほど自然に、スッとCの側へ寄りました。Cに守られるのは自分であるのが当然とばかりに。

そして悔しいことに、誰もそれに異を唱える気にはならなかったのです。わたしも含めて。ただ、NがCに身を寄せた次の瞬間、他の部員の誰かがおどけたように、N、ずるいぞー! と言ったことは覚えています。Nは扇子のような長いまつげに縁どられたまんまるな目をきょとんと見開いて、ごめん、と言いました。でも、傘からは出ませんでした。

わたしは、降ってくる雨にじみじみと全身を汚されながら、その様子を見ていました。

良い舞台を創りたいと願う演出としての自分は、ふたりの仲睦まじさにとても満足していました。まるで本当の恋人じゃないか、と。でも、ひとりの個人としての、ただの17歳としての自分は、胃がぞうきんでもしぼられたように痛くて、醜い自分の顔がみじめで、雨に溶けていなくなりたいと考えていました。

演出・役者としての自分と、舞台を下りた時の素の自分で、こうも心境が変わるものだろうかと、我ながら怖さを感じました。

当時のわたしは自分の容姿にすさまじいコンプレックスを抱いていましたし、何しろ、彼女の美しさといったらありません。わたしとNの背格好は大変似ていたので、後ろ姿で彼女と間違われることも多くありました。だからなおさら、後ろから肩を叩かれ、振り返った時、わたしがNではないと分かった相手の反応はつらいものでした。

豚に真珠ならぬ、豚と真珠です。真珠のようになめらかな肌をした輝くばかりのNと、ガサガサの豚の自分。

そして、もうひとつ悪いことに、役者も兼ねていたわたしは、Cの恋敵である男子の役を演じていたのです。舞台上ではNに恋焦がれて結局CにNを取られるのですが、舞台を下りた現実の世界では、わたしが本当に焦がれる相手はCで、Nこそ恋敵だったのです。

わたしのこころとは裏腹に、稽古を重ねるごとに舞台はまとまり、いよいよ大会本番を迎えました。結果は、同地区の強豪校を破って県大会出場。この時の喜びは今でも忘れません。完璧な恋人を演じてくれたCとNに感謝の気持ちでいっぱいでした。
その後、県大会も突破して、関東大会へ出場することができました。

関東大会は泊りがけで行われます。会場はわたし達の住む町よりもかなり北の寒いところでした。大会は2日間あり、初日はクリスマスと同じ日でした。

リハーサルを終え、宿泊施設に戻ったわたしは、明日の本番を思って胸を高鳴らせました。
憧れの関東大会。これを突破すれば全国。ロビーのソファにひとり座り、気を落ち着けようと目を閉じて。

「これ、今夜の部屋割りだよ~」

顧問の先生がのんびりとやってきて紙を一枚渡してきました。
紙に目を落とした瞬間、胸が「バックン」と音を立てるのが分かりました。

Cと同室だったのです。

大事な大会の前日に、Cと同室!
ね、眠れねーわ!

部屋割りが分かった瞬間から、「憧れの大舞台」よりも「Cと同室」に頭を支配されたわたしは、それでも夕食を取るまでは明日の舞台について考える余裕があったものの、いよいよ消灯時間が近づくと、「Cと同室」以外のことが考えられなくなっていました。

布団を横に並べ、明日は頑張ろうねと演出と主役としてガッチリ堅い握手をした後、Cはすぐに寝息を立て始めました。一方のわたしは寝られるわけもなく、暗闇で目を血走らせながら、ただCの静かな寝息に耳を傾けていました。となりでCが寝ているからって、別に何をしようっていうのじゃありません。ただ、でも。

わたしはまるでお互いの合意があったのだからと言い訳をするように、低くつぶやきました。ごめんね、好きなんだよ。それから、

「……薬指をかんでもいい?」

返事がないことに安心して、Cの薬指を自分の口に含みました。
明日は憧れの大舞台、本番、そしてクリスマスです。

この町では、年明けを待たずに雪が降るそうです。しばらくの間、Cの薬指と自分の歯が当たる感触だけに夢中になっていましたが、ふと気が付くと窓の外がずいぶんと静かなことに気が付きました。

布団を出て、窓へ寄ると鼻先に冷気を感じました。
カーテンの隙間から、深夜の町に雪が舞うのが見えました。
わたしはなんだか安心して、その後スッと眠りました。

翌日の本番の結果は優秀賞まで一歩届かず。でも、わたしは満足でした。

眠っているCの薬指を噛んだその夜から、わたしはCに恋していたのがうそのように冷静になりました。憑き物が落ちたように、というのはこういうことを言うのでしょう。

今ではCは結婚して、可愛いお母さんになっています。

だけど、Cの薬指を最初にしめつけたのはいま彼女がしているその指輪ではなく、この歯なんだと、時たま考えます。今ではもう、彼女は大切な友達のひとりで、あの時のような激しい気持ちはありませんが。もちろん、彼女はそんなことは知らないけれど。

大事な大舞台の前日に、恋心に負けた自分のことを考えると、本当にバカだなぁと今でも呆れます。
でも、あんな風に激しく人を好きになれたことや、その相手がCだったことは、密かに誇りに思っています。

告白もできず、寝ている彼女の薬指を噛むしかできない恋だったけれど。

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミプロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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