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イクラの醤油漬けで治す、長い反抗期


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:つたちこ(ライティング・ゼミ)

「だまされたと思って一度食ってみろ。ぜーーったいおいしいから!」
「いらない! だまされないもん!」
いつもの、父と私のやりとりだ。

私の父は、生もの、というか、ちょっと癖のあるものがとても好きな人だった。仕事あとのお酒が楽しみで晩酌を欠かさない人だったからかもしれない。
イカの塩辛や酒盗は常備。大好物はカツオのたたき、しめ鯖にあさりのヌタ。寒くなってくると生牡蠣に大根おろしと酢醤油をかけたものを食べたがった。

対して母は、あまり癖の強いものを好まない人だ。
白身魚や、まぐろのお刺身は好きだけど、父が好きな酒の肴は、テーブルに用意はするものの手は出さなかった。
それは母が父のためだけに用意する、父専用おかず、だった。

幼いころ、べったりの母親っ子だった私。
「ちょっと生臭くて私は苦手なのよね。でもお父さんは好きなの」
台所で夕食の支度をしながらいう母の言葉は、私に苦手意識を植え付けるのに十分だった。
母と同じく、私もコレは苦手に違いない。

その日も母は、イクラの醤油漬けで肴を一品作っていた。
つやつやキラキラしたどぎついオレンジ色の丸い物体。
よく見ると、一粒一粒が目玉おやじのようで、「ぎょろ!」と睨まれそうにも見える。

「食べてみるか?」と、父から大根おろしとイクラの醤油漬を和えた皿を差し出されても、首を横に振った。
「だまされたと思って、一度食べてみろよ。絶対うまいから!」 と父が言う。
「だまされないもん!」と断固拒否の私。
「あーあ。こんなにうまいのに、一人で食べるのもったいないなあ」

父は、父専用おかずが出てくるたびに、ちょっとニヤニヤしながらいつも 「だまされたと思って食べてみな」と言ってきた。
こちらも「だまされたと思って」と言われるのをちょっと待ち構えていて「だまされないよ!」と返していた。
今から考えると、無骨だった父なりのコミュニケーションだったのかもしれない。
父が苦笑いしながら、一人でビールを飲んでいたのを覚えている。

父専用おかずのお誘いを毎度拒否するのと同時進行で、私は成長するごとに父親のことがどんどん苦手になっていった。
たぶん、最初は些細なことだったと思う。

いつも仕事が忙しくてあまり遊んでくれないから。
電気設備の仕事をしていた父の、機械油の匂いが苦手だったから。
たばこの匂いが嫌いだったから。
お酒を飲むと、やたらと私をしつこくからかうから。
野球の試合があると、テレビを占領されちゃうから。

右肩上がりの父専門反抗期。
苦手度合いが最高潮になった10代のころには、よく聞く「お父さんのパンツと一緒に洗わないで!」現象も起こった。
しばらく口をきかないこともあったし、話しかけられても最低限しか言葉を交わさなかった。
母とは普通に会話していたけど、父とは何も干渉したくない。
私は、このころ父がどんなふうに私に接していたか、よく覚えていない。

転機を迎えたのは、私が社会人になってからだ。
お給料をもらうようになり自分の自由に使えるお金が増え、家族とよりも、友達との旅行や外食が多くなった。
そして、上司や同僚、取引先のおじさまがたに連れられてお酒の味も覚えていった。

初めて北海道にスキーをしに行ったときのことだ。
一緒に行った友人は「北海道でウニ・イクラ丼を食べるのが夢だった! 絶対食べる!」とうきうきしていた。

ウニ……イクラ……。父が好きだったな。
どちらも見た目で敬遠して食べたことがなかった。
ちょっとどんよりしながらも断りきれずに彼女の厳選したお店についていくと、そこにはウニ丼とイクラ丼の2種類しかなかった。
海鮮丼という逃げ道を期待していたのに……!

「ウニ丼もひかれるけど、やっぱ、イクラ丼かなー?」
うれしそうに悩む彼女の横で、私はひそかに別の悩みを抱えていた。

ううう。ウニも見た目があまり得意ではないんだけどな……でもイクラよりマシかな……。

そのときお店の人が、悩む私たちに声をかけてくれた。
「2種類頼んでくれたら、二人ともウニ・イクラの二色丼にしてあげるよ!」

いや、そこ気を利かすところじゃない……!!

私の心の声は届かず、友人はそれを聞いて目を輝かせた。
「それいい!! そうしてもらおう!!」
彼女は、イクラはもちろん、ウニも大好きなのだ。
「チイコちゃん! ここで北海道のイクラ食べなきゃ、一生損するって!!」

強い言葉に押されてしぶしぶ了解すると、あっという間に2種類のオレンジ色の物体がのったどんぶりがやってきた。
もしどうしてもダメだったら、こっちも食べてもらおう……。
勇気を出して箸をとり、恐る恐るイクラを口に入れる。舌で押すと、ぷちっとはじける小さな衝撃のあと、とろりとした海の香りとうまみとしょっぱさが口いっぱいに広がった。

えっなにこれ! 全然生臭くないじゃん!
おいしいじゃん!! いや、めっちゃくちゃおいしいじゃん!!!

そしてウニ。
同じ海の香りでも、イクラとは違ったトロンとした食感。口の中が幸せでいっぱいになるあまさ。ほんの少し、わさび醤油をかけたら、ご飯がいくらでも食べられてしまう。

私は、あっという間に空になったどんぶりを呆然と見ながら感動していた。
イクラとは、ウニとは、こんなに素晴らしい食べ物だったのか。
なんで今まで食べてみなかったんだろう。
ばかだ。私はばかだ。

友人のおかげで私は「一生損」をしなくて済んだ。そしてイクラとウニという新たな、そして圧倒的なおいしさを知ってしまったのだった。

その旅行の帰り、父にイクラの醤油漬けを買った。

昔、おとんの言ってたことは、本当だった……。イクラ、超美味しかった。
あのとき、食わず嫌いして、だまされてあげなくて、ごめん。

お土産のイクラの醤油漬けを家で開けて、私はたぶん初めて父の晩酌に付き合った。
ちょっと照れ臭かったけど、父に北海道での話をしながら飲むビールは、結構おいしかった。

それ以来、一緒に夕飯を食べるときに父の晩酌に付き合っては「ちょっとちょーだい!」と父専用おかずをかすめ取るようになった。
「仕方ねえな、食え食え」と譲ってくれる父を見て、母は「血は争えないわね~」と笑いながら、私にも父専用おかずを出してくれるようになった。
父と、仕事の話などもぽつぽつとするようになった。
私の知らない父の仕事の歴史。私のたわいのない、でも本人は必死な仕事の悩み。
「難しいことはわからんが、まあ、がんばれ」とアドバイスにならない父の言葉。
ああ、父とこんな風にたわいのない会話をすることができるんだな。

父へのあの猛烈な嫌悪感は何だったんだろう。
もっと早く気が付けばよかった。もっと優しくできたらよかった。
けど、お酒が飲める大人になったから、同じ立場に近づいたから、わかるようになったのかもしれない。
仕事が終わって私と一緒にビールを飲む父は、たいていいつも上機嫌だった。

父が亡くなってもうすぐ10年になる。
人が集まると、お仏壇には必ずビールと父の好物が供えられる。
のんべえの血はしっかり受け継いでいて、いまでは私も立派な「癖のあるもの好き」だ。
イクラの一件以来、決めていることがある。
「なんとなく嫌だ、私は苦手に違いない」という思い込みを外してみること。
一度試してから嫌いになっても、遅くない。
食べ物も人も、食わず嫌いはもったいない。もしかしたら、一生損するかもしれないしね。

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-12-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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