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男に捨てられた理由は文楽が教えてくれた。


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記事 : 鼓星(ライティング・ゼミ)

 

「別れよう」と、切り出された意味が私には分からなかった。

 

10年ほど前、私は死ぬほど働いていた。

終電に間に合えばラッキーで、週の半分以上はタクシーで家に帰り着くのが午前2時か3時。ベッドに入ったら二度と起きられないような気がして、洗濯機を回している間に風呂に入り、風呂からあがると洗濯物を干し、ダンナの朝食と夕食の準備をして、始発電車に乗って出勤。タクシーと通勤電車の中が束の間の睡眠時間だった。

 

基本給と同じぐらいの残業代が毎月振り込まれた。でも、私にはお金を使う時間も、気力もほとんど残っていなかった。

豊かになった家計で、ダンナの車遍歴は華麗さを増した。

フェアレディZの次は新型フェアレディZ、その次はBMW・Z4、さらにその次はBMW・M3。2年に1回は買い換えていた。ダンナを甘やかすのが、私にとっての免罪符だった。

 

「別れよう」と言われて、「私と別れたら、こんな贅沢な車人生を送れなくなっちゃうのに、なんで? せっかく手に入れたマンションを売って、1人分の給料じゃぁアパート暮らしだよ」という負け惜しみが思い浮かんだ。もちろん、口には出さなかったけれど。

 

見栄っ張りの私は、「別れたくない」「もう一度やり直したい」と、泣いて騒いだりはしなかった。私が希望して別れるわけでもないのに、理由も聞かず、慰謝料も求めなかった。

見栄っ張りの私は、男に捨てられ、分譲マンションを売って、しょぼい賃貸マンション暮らしになったことを親しい友人にすら言えなかった。人前で泣いたりなんてしなかった。

何事もなかったかのように死ぬほど働き続けた。

 

そんな私にとって、唯一の救いは、丁度その頃、偶然、めぐりあった人形浄瑠璃・文楽だった。それまで「伝統芸能なんて、地味で辛気臭いだけ」と勝手に決め込んでいたけれど、重低音の太棹三味線は、魂を揺さぶるロックだった。名人と呼ばれる太夫が語る義太夫節は、脳を心地よく刺激し、人間よりも人間臭く感情を表現する人形の動きに心をわしづかみにされた。

 

でも、何よりも、私の心を捉えたのは、「文楽に登場する男たちは、どうしようもなくアホだ」ということだった。

 

働きものの美人の女房がいるのに、いとも簡単に、甘い罠にかかって不倫する。

借金返済のためにようやくかき集めた金を、なぜか友人に貸して騙し取られる。

自分で蒔いたタネなのに、「これでは義理が立たない」「面目がつぶれたまま恥をさらしているわけにはいかない」とメソメソ泣いて、解決策が見つけられないとすぐに女を道連れに心中する。

アホや。マジでアホや。江戸の昔から、男はアホ。別れて正解。ああ、清々した!

「アホな男にひっかかったのは、私だけじゃないもん」と、自分を正当化できるような気がした。

 

ある時、国立劇場で「桂川連理柵」(かつらがわれんりのしがらみ)という演目がかかった。

そこに登場する帯屋の長右衛門も、やっぱり救いのないアホ男。

38歳の所帯持ち。近所に住む14歳小娘・お半と旅先で偶然行きあい、一夜のアバンチュールにふけってしまう。しかも、うつつを抜かしている間に、預かりものの大切な刀を盗まれるという大失態。その上、お半は妊娠してしまうという絵に描いたような展開。

自分で蒔いたタネなのに、なんとか解決しようと努力する風でもなし。長右衛門が煮え切らないうちに、お半はさっさと覚悟を決めて桂川で入水自殺。2回りも年下の娘に先に死なれて、ようやく長右衛門も落とし前を付ける気になるという情けなさ。

ほんと、救いようの無いアホだ。

 

でも、この物語には長右衛門に輪をかけたアホがいた。

長右衛門の妻は、年端もいかない娘と不倫したダメダンナを責めたりしない。

今までと変わらず甲斐甲斐しく働き、親族の中でダンナの立場が悪くなると、策を弄して必死にかばおうとする。

 

でも、ウザくないか?

 

健気な働きもので、小娘にダンナ寝取られても、少しも取り乱したりしない可愛げのない女。自分の気持ちを押し殺してまで、アホな旦那をかばったところで、シアワセになれるハズなんてない。「別れたくない」と、必死につなぎとめる努力をしなかったら、何も残らない。

 

その時、ようやく、私は「別れよう」と言われた意味がわかった気がした。

「別れたくない」と悪あがきしなかった自分の愚かしさに気付いて、私は初めて、捨てられたことを受け入れて泣いた。

 

江戸の昔から、いや、多分、もっと昔からアホな男とアホな女がしょうもない恋と別れを積み重ねてきた。傷ついたり、傷つけられたり。当人には大事(おおごと)でも、世の中にはの影響もない。

 

アホな私は、懲りずに新しい恋に落ち、しょうもない面倒ごとに巻き込まれながらも、なんとか生きている。人生なんて、そんなもん。文楽は恋に効く。

 

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2016-12-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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