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プロフェッショナル・ゼミ

人を好きになるってこういうことなのだろうか~あなたのことが知りたくて《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小堺ラム(プロフェッショナル・ゼミ)

「それで結局何が言いたいんだ!単刀直入に言わないからいつもイラっとするんだよ!!」
般若のように目を吊り上げて怒っている大人の顔。
多少の赤面も認められる。
人が怒っている時って、こんなに瞬時に顔が赤くなるのか~。
かなり久しぶりに他人から本格的に怒られた。
そんな時、人って意外と冷静で客観的にいられるものなんだなあと、デスク越しに身を乗り出す勢いで怒号している山岡課長補佐を見つめた。
激しい叱責の矛先は私だった。

この会社で働き始めて8年になる私は、今年の4月の人事異動で部署が変わった。
私は山岡課長補佐の部下になった。
山岡課長補佐のたった一人の部下となった。
何故たった一人の部下なのかというと、この部署は取引先に対してかなり繊細で丁寧な対応を求められる企業研修を請け負っている部門で、大所帯に先導ひとりという組織だと痒いところに手が届きにくいことがあるため二人組の少数精鋭で担ってほしいという会社の意向でこのような構成になっているのであった。
山岡補佐と私の組み合わせの他に、4組、同じ業務をしているコンビがいたが、私たち以外は全て男性上司と男性部下で構成されていた。
働きはじめて8年もたつとさすがに、男性は男性と仕事をしたがっている、口には出さないけれど女性とは組みたくないと思っているということは、よくわかっていた。
だから、異動挨拶の時、山岡補佐に「よろしくお願いします」と言いながら深々と頭を下げた。
これは、「これから仕事の面でよろしくお願いします」というきまりきった挨拶と同時に「部下になったのが女の私でごめんなさい」という謝罪の意味でもあった。
山岡補佐は私の顔を一瞥し「おう、よろしく」とだけ短く言って喫煙室に行ってしまった。
これが私と山岡補佐の出会いだった。

異動後1か月ほど、私は必死だった。
初めての業務で緊張していたし、異動後の人物評価はのちになっても覆すことができないわけだから、かなり取り繕っていた。
いつもの私ではなかったと思う。
山岡補佐の常に動向に気を付けていた。
この先発生するであろう雑用は先回りして全部自分でやっておき、山岡補佐の手を汚さないでいいように、補佐には補佐としてふさわしい仕事だけをしてもらうように心がけていた。
山岡補佐は私には何も言わない。
だけど内心では男性の部下に来てほしかったはずだ。
私に何の非があるわけではない。
でも、補佐には女性の部下でもよかったなあと思って欲しかった。
だからそう思ってもらえるように、せめて仕事は抜かりなくやらないといけないと考えて気を張っていた。
報告、連絡を徹底する。
山岡補佐が口数が少なく、業務中に一切の私語を挟まないことで、なかなかその人と成りをつかむのに苦労していた。
しかし業務に関してのコミュニケーションはとっておかないと仕事の上では致命傷になる。
私は報告すべき事項があれば確実に山岡補佐に迅速に報告し、指示を受けていた。
先回りした仕事、徹底した報告と補佐からの指示の履行……
これほどまでに張りつめて仕事をしたことはかつて一度もなかったかもしれない。
元来はのんびりしていて、おっちょこちょいな私。
最新鋭の建物に入居している取引先に伺った際には、ひとつの隙も無く丁寧に磨かれたガラスの自動ドアが目の前に存在することすら気が付かず、おでこからガツンと豪快に突進してしまうという事件があり、先方の会社で1週間ほどこの事件が話題になっていたそうだ。
そんなドジな私の性格もここで働き続ければ変化するんじゃないか?
そんなふうに期待させるような異動後1か月目だった。

そして、2か月がたち3か月たつと、業務内容にも慣れてきてやっとスムーズに仕事をすることができるようになってきた。
私って結構デキル女なのかも!って思って、入社以来敬遠していたデキル女の戦闘服的なイメージがあったグレーのパンツスーツをいつもの駅ビルのファッションフロアじゃなくて、百貨店の3階でうやうやしく購入し、職場に着ていった。
職場まで通勤する街中で通るガラス戸に映る自分の姿を見ながら、私ってちょっと成長したかも!と思い自画自賛した。
そして、私のパンツスーツデビュー、山岡補佐は気が付いてくれるかな……とひそかにワクワクした。

「おはようございます補佐!!」
「おはよう」
補佐はパソコンの画面をのぞいていたが、朝の挨拶をする私の顔をチラリと一瞬だけ見て短くおはようを言って、再びパソコン画面に目を落とした。
あっ、やっぱダメか……
パンツスーツ、気が付いてくれなかったのかな??
気が付いてたかもしれないけど、そういうことを女性の部下に言ったら「セクハラ」と言われるかもしれないからやめとこうと思って、わざわざ言いたいのに言わなかったのかな??
私は山岡補佐からパンツスーツについて突っ込まれなかったことに対し、軽く落胆したが、そんな気持ちをリカバリーするためにたくさんのもっともらしい理由を妄想した。

この日は、職場フロアに備え付けられているキャビネットの総入れ替えがあった。
私はこの日が入れ替え日だったので、昨日までの間に全てキャビネットの中に納まっている資料を倉庫に移動させ、新しいキャビネットの到着を待った。
キャビネットが到着した後、総入れ替え作業の担当者であるはずの総務課の係員が何故かおらず、搬入業者がまごついていて作業が混乱している様子だった。
見かねた山岡補佐がテキパキと指示を出す。
これはこっち、あれはあっち……
あっという間に配置が完了した。
うわー、さすが補佐。すごいなあ。
単に業者に指示を出しただけのことだったが、その迅速な指揮ぶりに私は感動しながら、倉庫に一時避難させていた書類たちを、新しいキャビネットに移す準備を一人でしていた。
倉庫の書棚から書類を下ろし、台車に乗せフロアへ行って新しいキャビネットに入れる。
この作業を2往復位した時だった。
うす暗い倉庫のドアが開けられて、山岡補佐が入ってきた。
「いいから、残りは俺がやるから」
「え……でも……」
「けっこうな力仕事だろ、これ。俺がやるから」
そういって山岡補佐は強引に私から台車を奪い取った。
私の心には、上司にそんなことをさせて申し訳ないという気持ちと、女性としていたわられたことに対する戸惑い、そして、この人の色々な面を私は一つも知らないんだという切ない気持ちが一気に混ざり合った。
心がざわざわして自分の手に負えなかった。

キャビネット搬入作業の翌日、私は買ったばかりのパンツスーツを早くも穿くのをやめて、ひざ丈のベージュのフレアスカートと白いソフトな生地のジャケットという出で立ちで職場に行った。
とてもパンツスーツを穿く気になれなかったのである。
鎧甲冑は私には必要ない。
今の私に必要なのは、なんか、こう、たおやかで優し気な……そんな柔らかい心地に自らが包まれていた。
「おはようございます……」
「おはよう」
山岡補佐はいつものように短く言って、書類を読んでいた。
そしてしばらくして席を立った。
きっと喫煙室でタバコを吸っているんだろう。
私は補佐のことがやけに気になって、喫煙室前の廊下を超スローペースで通ってみた。
何の用事もないというのに。
喫煙室では、山岡補佐が隣のセクションの男性社員達とにこやかに笑いながら話をしていた。
けむりに巻かれながら、白い歯を見せ、快活に笑っている山岡補佐を見つめる。
補佐と一緒に笑いあっている男性社員に嫉妬した。
あんたは山岡補佐の何を知っているというの?
一緒に仕事をしたことも無いくせに、たまたま喫煙者同士だからって軽口を聞いて!!
私は心に何かの種火のようなものがこの時着火したような気がした。

山岡補佐が喫煙所から帰ってきた。
早速私は、昨日までの業務の簡単な報告と、これを受けての今日予定していた仕事の修正案を報告した。
すると、いつもはただうなずいていただけの山岡補佐がこういった。
「あのさあ、いつも思ってたんだけど、報告がまどろっこしいんだよ。だから何が言いたいの?という感じ。要点だけ話してくれない?」
「えっ……ハイ」
私は初めて指摘されたことでうろたえたが、しどろもどろになりながらなんとかその日は報告をした。
要点って言われても、私は要点だけを話してるつもりなんだけど……
「ちょっと、あっちのキャビネットからファイルとってくれない?」
混乱からまだ立ち上がれない時に、何かを取るように言われ、おぼろげにキャビネットに近づく。
キャビネットの取っ手に手をかける。
ガチャガチャ……
おかしいな
扉が開かない……
ガチャガチャ!ガチャガチャ!!
「お前は、キャビネットも開けれないのか。いいか、何の考えのもなしにただガチャガチャやって開けられるわけがないだろう、全く、いつもの仕事ぶりと同じだなあ」
「!!」
何の考えもなしにただガチャガチャやって……
いつもの仕事ぶりと同じって……
私、一生懸命やってたのに。
今まで何も言わなかったのに、心ではそんなことを思っていたのか……
私は愕然とした。
結局山岡補佐は自分でキャビネットから資料を取り出した。
いつもは、もう少し報告など業務連絡を補佐にするけど、この日はこれ以上は怖くて何も報告できなかった。
嫌われたくなかったのだ。
山岡補佐に、嫌われたくなかったのだ。

「デキル女子の職場での報告スタイル」
そんなあられもない題名の本を通勤中に読みながら、いつになく緊張して職場に到着した。
「お、おはようございます……」
「おはよう」
いつものように山岡補佐は一瞬仕事は中断してこちらを向くものの、一瞥、といった感じの挨拶をして自分の仕事に戻っていた。
この日私は、昨日言えなかった分までの報告をしないといけなかった。
迅速さが最重要な報告なのに、昨日うろたえて話しかけられなかったのだ。
仕事人としては致命的なミスである。
「あの……非常に申し上げにくいですけど……実は昨日……ちょっと動揺していまして……報告ができなかったことがあるんですけど……」
私が言うか言い終わらないかわからないタイミングで補佐は突然立ち上がった。
「それで結局何が言いたいんだ!単刀直入に言わないからいつもイラっとするんだよ!!」
真っ赤な顔をしていた。
あー、これは本気のヤツやん。
本気で補佐は怒っている。
補佐はいつもイラっとしていたんだ……
ただ言わなかっただけで。
私が女で言いにくかったから?
男性の部下になら、まどろっこしい報告について注意したのかな?
それとも部下としての私の事にそんなに興味がないから、単に指摘をしなかっただけの話??
いろんな思いが頭をかけめぐる。
そして心はしゅんとしていた。
好きな人を怒らせてしまったこの状況にしゅんとしていた。
だけど、頭では本気で怒られているこの状況に、私はおびえるわけでもなく、ただ冷静に客観的にこの場にいた。
後から振り返ると、それはショックのあまり感覚がマヒしていたんだと思う。
少しでも認めてもらいたかった山岡補佐を怒らせてしまったこと。
ちょっとでも山岡補佐の事を知るために、近づくきっかけを自分の手で壊滅させてしまったこと。
こんな状況になってしまったけど、仕事はきちんとやらなければならない。
私はこの件を境に、山岡補佐にはより一層ドライな私で臨もう、そう決めた。
無駄のない報告と仕事の打ち返し。
事実だけを並べているドキュメンタリー調の読み物のように。
行間で心の機微を読ませるような小説とは一線を画する。
あくまでもドライに。徹底的に。

それからというもの、私は山岡補佐に対してさらに徹底的にドライな仕事ぶりで相対することにした。
目的は仕事を迅速に最高のクオリティーで完成させることなのだ。
そうだ、私がこの職場で毎日働いている意味はそこにあるのだ。
決して山岡補佐のお友達になるためにここに来ているのではない。
そう思いながら能面のような顔をして仕事をしていた。
だけどやっぱり私はメカニックじゃない。
人間なのだ。
目の前の上司に対して、仕事ではちゃんとした結果を上げたい。
だけど、この人がどんな人なのか気になる気持ちは抑えられなかった。

そんな時、仕事上の文章能力を向上させようと思い立ち通っていたライティング講座を主催している書店で、ファナティック読書会なるものがあったので参加してみた。
熱狂的なる読書会。
本が好きな人が自分が読んだ本を皆さんに紹介していくというシンプルなスタンスだった。
初めての参加だったが、私は「マチネの終わりに」を推薦した。
40代半ばの男女が時を経て、いろんな現実を超えていく大人の恋愛小説だった。
ほかの参加者の方も思い思いの本をみんなに紹介していた。
見ず知らずの人ばかりだったけど、読書会の2時間でそれぞれの人となりがわかるようだった。
その人がどんな感性の人なのかはわかった。
あ、そうか。人ってこんなつながり方ってあるのかもしれない。
私はちょっとしたたくらみを閃いた。

「おはようございます!」
「おはよう」
職場での補佐とのいつものやりとりの後に、私は補佐に言った。
「補佐、読書とかされますか?」
「俺?うん、読むよ、司馬遼太郎とか」
「あ、そうなんですね。司馬遼太郎が好きなら、この本もきっとお好きだと思いますよ。
今年出たばかりの本ですし、よかったら読んでみられませんか?」
「お、おう……」
補佐は、突然の投げかけにちょっとびっくりしているようだったが、まんざらでもない様子で「マチネの終わりに」を受け取った。
それからというもの、私は、補佐がこの本を読んでくれただろうか、今、どんなシーンだろうかということばかりが気になっていた。
自席の袖机の上に放り出されたままになっている本を見て、「まだ読んでないのかなあ」とやきもきした。
やがて2週間ほどたつと「きっと、興味もなくて借りたことも忘れてるんだろう」そう思うようになった。
ドライな人だから仕方ない。
私はメカニックみたいに仕事をすればいいだけだ。

ほどなくしたある日、「これ面白かったよ!司馬遼太郎を超えたよ!ありがとうな」そう言って、補佐は私が貸したマチネの終わりにを私に押し付けてきた。
今まで一度も見たことのない、さわやかな笑みを浮かべて。
「え、よかったです!!私も、この本は補佐がお好きだろうなと思っていました。どんなところがお好きでしたか?」
「あいつがメール送ろうとしたところ!送るな送ってくれるな!あああ、送った!!という感じでドキドキしたよ 」
えーー、この人こんなところでドキドキするんだ!
「でも最後がなんか、俺はもっとハッピーになってほしかったんだけどそこが不本意 」
え、まさかのハッピーエンド好き??
人はわからないものだなあ。
仕事ではあんなにドライなのに。
容赦ないのに。
「他にも補佐がお好きそうなの持ってるんで、明日持ってきますね」
「おうおう、ありがとう」
朝からものすごく、爽やかな気分になった。
そして何だろう??
何かが始まる予感がしてるのは、私だけ?
うふふふふ。

もし、目の前の上司と何かしら合わない、うまくいかない、上司の人柄や真意を測りかねている、そんな人がいたらおすすめなのは、あなたのとっておきの書籍を読んでもらってはどうだろうか??
え?本を貸すような関係じゃないって??
大丈夫。
本を嫌いな人はいないから。
その本を媒介として何かが始まる、そんな素敵な瞬間が訪れるかも。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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