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天狼院書店になんて出会わなければよかった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:長井美由(ライティング・ゼミ)

「実は、転職したいと思ってて……」
年の瀬の天狼院書店でのこと、私は自分の言ったことに自分で驚いてしまった。
えっ、私、転職したかったの?
口に出すその瞬間まで、私は自分が転職を考えているなんて思いつきもしなかった。
それなのに、たしかに私は口に出してしまっていた。「転職したい」と。

まただ。
また天狼院のせいだ。
どうやら私にとって天狼院書店は鬼門らしい。
ここに来ると、なぜかいつも思ってもみなかったことを口にしてしまう。

前はたしか、ライティング・ゼミの説明会でのことだった。
ゼミに参加しようと思ったきっかけを聞かれたとき、私は思わず口走ってしまったのだ。
「ライターになりたいんです」
「小説家になりたいんです」
待って、そんなこと言うはずじゃなかったのに。
用意していた回答は、もっと無難なものだったはずだ。仕事で役に立ちそうだから。なんとなく。
それなのに、口から出てきた言葉は全然違っていた。

天狼院書店にくると、私は何か悪い魔法にでもかかって、思ってもみないことを言ってしまうのだろうか。
いや、違う。
思ってもみないことじゃない。
自分の心の奥に仕舞い込んでいた、本当の気持ちが、天狼院書店に来るとなぜか溢れ出してしまうのだ。

そんなの困る。
せっかく今まで必死に閉じ込めてきたのに、それを暴かれたら、私はどうしていいかわからなくなる。
だって、どうせ叶うわけないんだ。
私が何にもなれないことくらい、私が一番わかってるんだ。

昔から、良く言えば好奇心旺盛、悪く言えば飽きっぽいタイプだった。
ピアノ、ダンス、水泳、英会話……いくつも習い事をやらせてもらっては、そのたびに「ピアニストになりたい!」とか「ダンサーになりたい!」とか言い出すような子どもだった。
小さいころはそれでもよかった。でも、段々、そうも言ってられなくなった。

面白そうだと思ったものにはどんどん手を出した。
そして、どれひとつとして、本気で向き合ってこなかった。
新しいことを始めては、ちょっと嫌になったらやめる。そしてまた別のことを始める。その繰り返し。
そのくせ変に器用で、割とどんなことも人並みにできてしまうタイプだった。
中途半端にできるからこそ、余計に苦しかった。
何をやっても、自分は「本物」にはどうしたって敵わないことが、すぐにわかってしまうから。
というより、「本物」になれるような才能もなければ努力もできないことを、自分自身が一番知っているから。

いつからか私は、「○○になりたい」と口にすることをやめた。
代わりに身につけたのは、便利な言い訳だった。

「私って、器用貧乏だからさ」

そう言って自分を正当化しようとしていた。
なんとなく大学に行って、なんとなく仕事をして、なんとなく人生を楽しめればいいと思っていた。
好きなことはたくさんある。やりたいことはたくさんある。でもそれはあくまで趣味だと思えばいい。
好きなことを仕事にできる人なんてほんの一握りだ。
何かを極めてそれを仕事にできるような、いわゆる「プロ」になるなんて、私には到底無理だ。
ずっと、そう言い聞かせてきた。

「転職したい」と言ったとき、私の頭の中にはたくさんの「○○になりたい」が浮かんできた。

ライターになりたい。
作家になりたい。
デザイナーになりたい。
カメラマンになりたい。
作曲家になりたい。
ダンサーになりたい。
本屋になりたい。

自分でも笑ってしまうくらいの、節操のなさだった。
恥ずかしい。まるで夢見る子どもだ。
こんなのどれも叶うわけないんだから、早く忘れなきゃ。
転職は考えてみてもいいけど、もっと普通の会社員としての転職でいいはずだ。
今更、夢を追いかけるなんて、できるわけないんだから。
そうやって諦めようと思っていた。また自分に言い聞かせればいいと思っていた。

でも、気がついたら、涙が止まらなかった。
悔しい。そして、夢を追いかけることを恥ずかしいと思ってしまった自分が情けない。
だって、天狼院書店には、こういう夢を叶えた人が、叶えようと努力している人たちが、たくさんいるじゃないか。
そんな人たちを尻目に、私はいつまでも逃げ続けるのか。本当にそれでいいのか。

どうして天狼院書店に来ると、私の本音が溢れ出してしまうのか。
それは、私と同じように何かを夢見る人たちがいるからだ。
そして、私とは違って、それに向かって本気で努力している人たちがいるからだ。

天狼院書店は私にとって鬼門だ。
天狼院書店になんて出会わなければ、私は一生ぬるま湯に浸かっていられたのに。
こんな自分の本音になんて気がつかずに生きていけたのに。

でも、もう逃げるのはやめよう。
悔しさも情けなさも、全部受け止めて、前に進もう。
それって、とても痛いし、苦しい。
それでも、このひりひりとした痛みは、今までぬるま湯でふやけていた私の輪郭線だ。
私が知らなければならない、私の本当の姿だ。

私、決めました。ようやく腹をくくりました。
こうなったら、私の夢、全部叶えてやる。

だから、これは天狼院書店にいるたくさんのライバルと、そして天狼院書店そのものへの宣戦布告です。
だって、私の夢を全部叶えたら、天狼院書店のライバルにもなれますよね?
三浦さん、覚悟しておいてください。
あ、でもまだしばらくは、お世話になりますので、どうぞよろしくお願いします。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2017-01-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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