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何にもない「氷の国」で出会った人がくれたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:おおたき文庫(ライティング・ゼミ)

「……すごい」

何度も息を飲む。

うわー。 なんだこれ。

すごい。こんな場所がこの世界にあるのか。
まるでおとぎ話の世界に入り込んでしまったような感覚になる。

一本道がどこまでも続いていく。どこまでも、どこまでも。

どこまでも続く、幻想的な世界。

夏の間走り続けていた仕事が一段落し、まとまった休みをもらった僕は、
東京からおよそ9,000km離れた地、アイスランドに降り立っていた。

初めての海外一人旅。イギリスの更に北に位置する小さな国には、縁もゆかりもなかった。
北海道と四国を足したくらいの面積に、およそ30万人が暮らす。国内を円を描くように繋ぐ、「リングロード」と呼ばれる一本の国道を、およそ1週間かけて1周しようと決めていた。朝起きると、1日車を走らせて辿り着けそうな町に見当をつけて、夜までに到着する。たったそれだけの、計画とも言えないような計画だ。

首都であるレイキャビックに国全体の8割の人が暮らしているため、市街地をちょっと離れると、そこにはひたすら、手付かずの自然が広がる。

町を出た僕は数分毎に「うわー」「すげー」と呟きながら、初めての右車線におっかなびっくりしながら、ひたすら車を走らせた。

それにしても、何もない。

まず、人がいない。
日中車を走らせていても、10分に一度すれ違うかどうかだ。
建物もない。動物もいない。 あるのは、ただただ自然。
まるで、ファンタジーの世界だ。

時折車を止めて、外に出る。
思いきり、息を吸い込む。

聞こえるのは、風の音だけ。

風すらやむと、静寂が訪れる。

本当に「静か」って、こういうことか。
目をつぶると、文字通り世界が無くなるんだ。

ぼんやりとそんなことを考えながら、ごろり、と横になる。

空を見ながら、もう一度、ゆっくり深呼吸する。

素敵な場所だ。

……。

でも、なんでアイスランドに来たくなったんだろう。

「なんでアイスランド?」

そう人に聞かれた時、うまく答えられなかった。

「なんかさ、『何にもない』所に行きたいんだよね」

苦し紛れに、そう答える。

「なにそれ。現実逃避?」

「はは、そうかもしれない」

笑ってごまかしていた。

アイスランドは、確かに「何にもない」場所だった。

現実逃避、か。 逃げたかったのかな。

何から逃げたかったんだろう。

振り返った時に、思い当たることはあった。
大切な人との別れがあった。
仕事では思うように成果を出せず、正直苦しかった。
相変わらず自分には、どこかで嘘をつき続けていた。

ただただ広がる自然には、肯定も否定もされない。
何にも求められない。

今までは、ずっと期待に応えようとしてきた。
前までは、期待に応え続けられている実感があった。
でもここ暫く、その感覚は全くなかった。全くもって、何もかもうまくいかない。
独りよがりな感覚はあっても、それを変えることができない。
期待に、応えられない。

変わりたい。期待に応えたい。

そう思っている自分と、
できない現実から逃げたくなる自分がいる。

……こんな所まで来て、いったい何考えてるんだろう。
一人で何にもない世界にいると、どうしても自分について考えざるを得ないようだ。

やがて日が落ち、辺りが暗くなってきた。

9月の中旬でも、気温は約10℃。風が強いため、体感温度は更に下がる。

腰を上げると、あらかじめ当たりをつけていた、南部にある小さな町に向かう。そこで適当な宿を見つけて一晩を過ごそうと考えていた。

町に到着したのは、太陽が姿を隠してから暫くしてからだった。
さて、どの辺りに宿があるんだろう。地元の人に聞いてみよう。
間もなく店を締めようとしていた小さなスーパーマーケットに滑り込み、
片付けを始めていた店員の男の子に声をかける。

「宿か。すぐ近くにあるよ。ここをまっすぐ行って……」

人の良さそうな男の子は嫌な顔ひとつせず、親切に教えてくれた。

「ありがとう!ぎりぎりにすみません」

「構わないよ。気をつけて」

この国の人たちは優しい。僕は教えてもらった宿に車を走らせた。

******

「ええ、一杯!?」

「ごめんなさい」

僕と同い年くらいに見える柔らかな雰囲気の女の子は、申し訳なさそうに肩をすくめてみせた。

「この町には他にも宿があるから、聞いてみるといいわ。ただ、このシーズンは混んでるから空いてるか分からないけど……」

その子は町の地図を出して、丁寧に一つずつ宿の場所に印をつけてくれた。

「本当にありがとう!」

「いいのよ。泊まる所、見つかるといいわね」

笑顔がまぶしい。思わず顔がほころぶと同時に、単純な自分に呆れてしまう。
貰った地図を握りしめた僕は、もう一度お礼を言うと、近くの宿へ向かった。

「あれ……」

「ここも……」

「ダメか……」

印をつけてくれた宿を片っ端から訪ね歩いたが、どこの宿も一杯だった。
一人分の部屋くらいすぐ見つかるという考えは、甘かったようだ。

最後に向かった宿は「空室有り」と看板を掲げていたが、宿主らしいおばあちゃんに話しかけると気の毒そうに「さっき一杯になってしまったのよ。ごめんねえ」と返されてしまった。

僕は、がっくり肩を落とした。

参った。どうすればいいんだ。町についてからはや数時間が経っていた。

外気温はみるみる下がってくる。「いざとなれば車で寝ればいいや」くらいに思っていたが、寝袋等を持ってきている訳じゃなかった。

借りていたレンタカーは、しばらくエンジンをかけたまま動かないと自動的に切れるようになっているらしい。

このままだとマズい。一瞬途方に暮れて立ち尽くす。

そうだ。もしかしたらキャンセルが出ているかもしれない。最初の宿に戻ってみよう。
すがるような思いで扉を叩いた。

「そう、全部ダメだったの……。泊められたらいいんだけど、こっちも満室なのよね……」

そりゃそうですよね。考えが甘すぎたか。さて、どうしよう。
女の子は上を見て暫く考えていたが、あっ、と何かを思いついた顔をした。

「隣町の宿に、もしかしたら部屋があるかもしれないわ。ここから100kmくらいあるんだけど」

そう言って、隣町と、めぼしい宿の名前をメモで書いてくれた。

なるほど、隣町か! 考えつかなかった。

「本当にありがとう! ……あ」

もしこれで隣町の宿が一杯だったら、万事休すだ。
そして、海外で使える電話を持ってきていない。
ここまで図々しいお願いをしていいものか……。だが、思わず聞いてしまう。

「本当申し訳ないんだけれど、電話を借りたりできますか?部屋が空いているか確認できたらと思って」

「いいわよ。……あ」

彼女がちらっと視線を走らせる。後ろには、怖い顔をした、これまた同い年くらいの眼鏡の女の子が。

「何言ってるの? ダメに決まってるじゃない! これは宿の電話なんだから」

「そうよね。……ごめんね」

女の子は申し訳なさそうに視線を下げる。

「いや、それはそうだよね。無理なお願いしてごめんなさい」

流石に図々しすぎた。僕はもう一度お礼を言って、宿を出た。

でも、もうなりふり構っていられない。
図々しいことを承知で、僕は先ほどのおばあちゃんの宿へ車を走らせる。

「すみません!ここが満室なのは知ってるんですが。この町の宿は一杯みたいで……。隣町の宿があるってことを教えてもらったんですが、電話がなくて……。電話を貸していただくことってできますか?」

おばあちゃんは僕の顔を見ながらふんふんと話を聞いていたが、合点がいった、という顔をした。

「いいわよ。隣町の宿って××××××のことかしら?」
アイスランド語のために聞き取れなかったが、僕は先ほど女の子に貰った紙を見せた。

「やっぱりそうね。ちょっと待ってなさい」

そう言うと受話器を取り、慣れた手つきで番号を押していく。相手が電話に出ると、アイスランド語でやり取りが始まった。
おばあちゃんは暫く言葉を交わしていたが、やげて受話器から耳を話すと、ニコっと笑った。

「部屋空いてるって。よかったわね」

ああ、おばあちゃんありがとう! 僕が電話を代わると、相手はすぐに英語に切り替えてくれた。隣町にいるからこれから1時間半くらいで到着すること、日本人であること、名前を伝えて、僕は受話器をおばあちゃんに渡した。

何か……何かお返しできるものないかな。

あっ!

「おばあちゃん、本当にありがとう! ちょっと待っててください!」

僕は車に走ると、おばあちゃんの元に戻った。
手に持ってきたのは、抹茶のチョコレート菓子だ。北欧では日本のチョコレートやクッキーが人気だということを聞いていた僕は、もしかしたらと思って鞄に入れていた。

「これ、日本のチョコレートです! 口に合うか分からないけど……よかったら食べてください」

すると、おばあちゃんはとても喜んでくれた。
「あらあら。ありがとう! 美味しそうねえ。あなたはいい人ね。ちょっと待って」

そう言うとおばあちゃんは、綺麗な星の飾りがついた宿の名刺を渡してくれた。

「これ、お返し。もう遅いから気をつけてね、旅の幸運を祈っているわ」

「わあ、いいんですか? 本当にありがとうございます! ……あっ」

まずい。ここまで来て……。

「おばあちゃん、あのー……」

「あら、どうしたの?」

「ごめんなさい。トイレ……借りてもいいですか?」

恥ずかしすぎる。でもおばあちゃんは快くお手洗いを案内してくれた。

僕は何度も何度も頭を下げると、見送ってくれるおばあちゃんを後ろに見ながら出発した。

隣町に向かう前に、僕はもう一度最初の宿に戻っていた。
カウンターには、最初に会った女の子が一人で座っていた。
顔を上げると、少し驚いたように僕の顔を見る。

「あの! 宿、見つけることができます!」

女の子は不思議そうな顔をしている。あ、英語間違えた。

「隣町の宿、おかげで見つけることができました。本当に助かりました、ありがとう!」

「あら、本当に! よかった! 気をつけてね」

「あの、よかったら、これ」

僕は、もう一つ持ってきていたひよこのクッキーを取り出した。

「これ、日本のクッキーです。よかったら食べてください」

「わあ。……可愛い。ありがとう」

女の子は目を細めた。

「じゃあ、もう行かなきゃ。本当にありがとうございました」

「さよなら。お元気で」

白夜で真っ暗になりきらない夜の中、隣町へと車を走らせる。
疲れていたが、僕の心は、あたたかな気持ちでいっぱいになっていた。

日中、もやもやと考えていたことを思い出す。

期待に応えたいと思っている自分と、
できない現実から逃げたくなる自分がいる。
そんな自分の間でうだうだ悩んでいたはずだ。

応えられない期待から、逃げたかったのか?

……いや、待てよ。

本当に「期待」されていたのだろうか?

自分が自分に、勝手に「期待」していただけじゃないのか。
自分で期待していた自分になれなかったことから、逃げているんじゃないのか。

僕は、自分の日本での振る舞いを思い返した。
スマートにやろうとして、相手のことを見ようともしないで、結果うまくいかない。
自分のことばっかり考えたって、うまくいくはずがない。

どんなにスマートに生きようとしたって、
必ず誰かに助けてもらいながら生きている。

おばあちゃんも、女の子も、とにかく、目の前の自分にできる限りのことをしてくれた。
ただただ目の前の人のために、一生懸命に生きている。

自分はそんな風に、生きられているだろうか?

僕は、それから約1週間かけてアイスランドを車で一周した。
アイスランドは、とても素敵な場所だった。

でも、どんな圧倒的な自然よりも、何よりも一番心に残ったのは、
行く先々で親切にしてくれた、名前も知らない人たちだった。

あれから日本に戻って暫くが経つ。
日本に戻ってきても、あちこちで優しさに触れ、助けてもらっていることに気がついた。

でも、そう簡単に人は変わらない。
相変わらず独りよがりなことをやって、たくさん迷惑をかけてしまっている。

それでも、諦めずに、やっていくしかない。いや、やっていくんだ。
自分自身を諦めちゃ、ダメだ。
何年も先、今の自分みたいなどうしようもない奴に出会った時に、
笑って手を差し伸べられるように。

逃げた先の、何にもない「氷の国」で出会った人にもらった大切なものを胸に、
僕は日本を離れた頃より、もう少し強い足取りで、歩きだすと決めた。
***

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2017-01-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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